表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【観測者の時空】番外編『中継セクター』 ―サボり屋カノジョの監査ログ―  作者: Taku
第1章:サボり観測ログ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/27

第7話 先延ばしの確率論——「デッドライン・スイング」という名の自爆

観測日時:日曜日の深夜、締切が目前に迫った限界領域

観測対象:「恐怖のアドレナリン」を燃料とする先延ばし戦略、そしてデジタル環境の裏切り

観測者:カノジョ(今日もサボりたいけど、つい分析)


私はカノジョ。物語の案内役。時空を飛ばすイタズラ役も、最適化社会の案内人も、書き手の観測役もやってる。ノーギャラ。雇い主には見せられない裏日記を、ここに綴るね。


最近、気づいたことがある。締切は人を追い詰めるが、追い詰められた人間は異常な集中力を発揮する。つまり、余裕を持ってやるのは「脳のアイドリングによるエネルギーの浪費」であり、むしろ非効率なのではないか。


私はこの仮説を「デッドライン・スイング理論」と名付けた。作業効率は締切までの残り時間に反比例する。よって、締切の5分前こそが脳のパフォーマンスが無限大になる「シンギュラリティ」である。


というわけで、今夜はこの理論を実証する。


データによる「最適解」の計算


過去の先延ばしデータを集計した。


· 余裕を持ってやった場合の作業効率(10時間で…)→ 60%

· 締切間際にやった場合(2時間で…)→ 120%


つまり先延ばしこそ「遅延型最高効率化作戦」であり、リソースを最も無駄なく使える方法である。通常の2倍の能力を発揮できるこの方法を取らない手はない。


よし、決めた。今日の雇い主からの観測報告書。締切の2時間前まで徹底的にサボり抜き、一気に仕上げる。


やらかし(かわいげ)


時計は深夜2時を指した。

計算通り、脳内に「恐怖のアドレナリン」という名の高オクタン燃料が充填される。指がキーボードの上で火を吹き、思考の同期速度が光速を超える。


これだよこれ!


「今の私の処理能力は、スーパーコンピュータ『富岳』をも凌駕している。全人類、私の一秒間に千文字紡ぐ神速のタイピングを見届けるがいい!」


私は猛烈な勢いで報告書を書き換えていった。まさに「デッドライン・スイング」の頂点。

その時だった。


画面中央に、血も涙もない「死の宣告」がポップアップした。


【重要な更新があります。あと5分で再起動します】


「は? ……今、なんて言ったの?」


再起動? 今? 冗談はやめて。私は今、銀河の果ての真理に指が届きかけているんだぞ。


私は必死に抵抗を試みた。

しかし、そこには「今すぐ再起動」か「後で(最大60分の猶予)」という、二者択一の地獄しか用意されていない。


私は「後で」を秒速で連打した。これで一時間の延命措置完了。


しかし、全能感という名のドーピングは、焦りによって急速に分解されていく。


タイピングが速くなるほど、右下のカウントダウン時計が「死神の足音」に聞こえ始める。

「あと10……9……8……」


「待って! セーブボタン! セーブボタンはどこ!?」

カーソルを必死に動かすが、無慈悲なOSはマウスの制御さえ奪い始めた。


「3……2……1……。……バイバイ、カノジョ」


プスン、という電子の断末魔とともに、画面が漆黒に染まった。

そこに映っていたのは、口を半開きにし、髪はボサボサ、全能感の欠片もなくなった「ただの寝不足の観測者」という名の虚無だった。


収支計算(この日の損益)


【支出】

締切5分前に訪れた「真のシンギュラリティ(全データ消失)」:-∞


再起動中の20分間、モニターに映る「自分の間抜けなツラ」と見つめ合った屈辱:-200


結局、朝の6時に白目剥きながら「前よりクオリティの低い報告書」を提出したプライドの崩壊:-500


【収入】

OSが最新版になり、絵文字に「サボっている妖精」が追加された発見:+2


デッドライン・スイングは「スイング(振子)」ではなく「フリーフォール(自由落下)」だったという哲学的な悟り:+80


総合:

演算不能。ただ、アップデート通知を三日間無視し続けた過去の自分を、時空を飛ばして消去したいという殺意だけが残った。



深い結末


この日の教訓。


先延ばしにしている間、私たちは自由を享受しているつもりで、実は「未完了のタスク」という鎖に繋がれたまま、ただ場所を移動しているだけなのかもしれない。


「やる気」は降ってくるものではなく、手を動かした後の摩擦熱として発生するものだ。私たちは熱源を探して、冷たい部屋で震えすぎた。それなのに、肝心の熱を生み出すための道具パソコンに、より大きなアップデートで邪魔をされるとは。


未来の自分を信じることは、信頼ではなく責任転嫁。でも、そんな自分を許せるのは、世界で自分一人しかいないんだよね。…とはいえ、今回ばかりは自分も許せなかった。なぜなら、アップデートを先延ばしにしなければ、原稿の先延ばしは成功したはずだから。


結局、私の一番の敵は「サボりたい自分」ではなく、「アップデートを後回しにした過去の自分」だった。


(今日の結論:「遅延型最高効率化作戦」は失敗した。原因は自分の戦略ではなく、OSが勝手にリブートしたから。…と言い訳しておく。

ねえ、みんなは、

『あと5分あれば完璧に終わったのに!』って、天を仰いだことある?

その時、画面に映った自分の顔、どんな感じだったか教えて。

……私のこの、アップデートでピカピカになった画面に、あなたの絶望も記録してあげるから。……サボりながらね。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ