対戦トーナメント:第1話「開幕:10人でトーナメントは組めるのか」
【冒頭】
『観測者の時空』番外編の「対戦企画」と『御前会議』メンバーのコラボ企画ですが、本編を知らなくても楽しめる独立短編です。お好きな入口からどうぞ。
―――中継セクター・試合前―――
カノジョが、円卓の上に広げられたトーナメント表を覗き込んでいる。
彼女の手には、今日もラムネの袋が握られている。カレシは端末を開き、何かを解析している。雇い主は、まるで何かを考えているふりをしながら、コーヒーカップを手に持っている。
カノジョが円卓の上の白紙を指さしている。まだ線も名前もない。
「これ、トーナメント表なんでしょ? まだ何も書いてないよ」
カレシは、その横で端末の数字を確認しながら、淡々と口を開く。
「参加者十名。普通の形式では成立しない」
雇い主がコーヒーを置きながら言う。
「芸術は形式を超える」
「……トーナメント表が先です」
カレシが、冷たく返す。雇い主は、少しだけ口を噤んだ。
カノジョがラムネを振る。
「まあ、なんとかなるよ!」
―――御前会議室―――
円卓に、十人のメンバーが集まっている。
博士は端末を開き、隊長は腕を組んでいる。
スターはギターを抱え、女将はコーヒーの準備をしている。
青年は椅子を回し、学生は緊張した面持ちで座っている。
カノジョはすでにラムネを開けており、カレシは手帳を開いている。
雇い主は、何かを考え込むように顎に手を当てている。
監査役が立ち上がる。彼の手には、一枚のトーナメント表が握られている。
「本日より、対戦Codeトーナメント戦を開催する。参加者は十名だ」
その言葉に、カノジョが首をかしげる。
「え、八人じゃなかった?」
「十人だ」
カレシが、即座に訂正する。
「確かにここには十人いる」
博士が、眉をひそめる。
「なぜ最初から間違えるんだ」
「細かいことはいいじゃないか」
雇い主が、のんびりと口を挟む。
「細かくありません」
監査役が、冷たく言い放つ。
「トーナメント表が成立しません」
「じゃあどうするの?」
カノジョが、首をかしげる。カレシが、冷静に説明する。
「普通のトーナメントなら、十人では綺麗に組めない」
カノジョは言う。
「じゃあ、増やす?」
博士は怪訝な表情を浮かべ、カノジョに問いかける。
「誰を?」
「通りすがりの猫とか!」
監査役が努めて冷静に対処する。
「猫でトーナメント表を埋めるのはやめてください。猫汚染率が跳ね上がります」
博士が、提案する。
「ならば、シード制を導入すべきだ」
「芸術的感性でシードを決めよう」
雇い主が、胸を張る。監査役が、即座に却下する。
「却下します」
「何故だ!」
「感性は経費で計測できません」
会議室が、一瞬で騒がしくなる。
カノジョが、ラムネを口にしながら、にこにこと様子を見ている。
カレシが、手帳に何かを書き込む。
隊長が、立ち上がる。
「とりあえず、戦えばいいんじゃないのか!」
「戦う前にルールを決めろ」
博士が、言い返す。
「ルールがなければ、戦いは成立しない」
「論理ばかりだな!」
「行動だけでは、勝てない」
その時、長老が、静かに口を開いた。
これまでずっと沈黙を守っていた。彼は、円卓の端で、ただ穏やかに微笑んでいる。
「……まあ、よいではないか」
その一言で、会議室の空気が変わった。
誰も、反論しなかった。
カノジョが、嬉しそうに笑う。
「なんかすごい適当な感じになったね!」
カレシが、深いため息をつく。
「……予想はしていた」
監査役が、端末を操作する。
「では、対戦カードを発表する」
彼の声が、会議室に響く。
「第一試合:博士 vs 隊長。テーマは『迷ったとき、どう決断するか』」
博士は端末を閉じ、隊長は盾を握りしめる。
「第二試合:スター vs 女将。テーマは『人を動かす言葉とは』」
スターはギターの弦を弾き、女将は静かに微笑む。
「第三試合:雇い主 vs 監査役。テーマは『創作に必要なコストとは』」
雇い主はコーヒーカップを置き、監査役は端末を構える。
「第四試合:青年 vs 学生。テーマは『未来をどう見るか』」
青年は椅子を回すのをやめ、学生は緊張したようにノートを開く。
「第五試合:カレシ vs カノジョ。テーマは『助言とは何か』」
カレシは手帳を閉じ、カノジョはラムネの袋を置いた。
「以上だ」
会議室に、静寂が訪れる。
誰も答えなかった。
でも、その沈黙が、答えだった。
―――中継セクター・発表後―――
カノジョが発表されたカードを指でなぞっている。
「カレシと私、あるね」
カレシは手帳を閉じたまま、何も言わない。
雇い主が小さく笑う。
「予想が外れるのが、この会議の面白さだ」
「私の優勝予想は私だ!」
「……記録しました」
【観測記録:対戦Codeトーナメント戦】
開幕。
参加者:10名(+長老は審判)。
トーナメント方式:未確定(随時決定)。
優勝予想:カレシ(本人)、雇い主(本人)、カノジョ(カノジョ)。
猫汚染率:現時点では安定。
次回、第一試合「博士 vs 隊長」。迷ったとき、あなたはどう決断するか。
──次回予告──
「論理か、行動か。迷ったとき、君はどちらを選ぶ?」
博士「フローチャートに従え」
隊長「前に出ろ」
博士「危険だ」
隊長「動かねば始まらない」
次回、決断の行方。




