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【観測者の時空】番外編『中継セクター』 ―サボり屋カノジョの監査ログ―  作者: Taku
第1章:サボり観測ログ

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第3話:返信を遅らせる戦略的撤退——観測報告とスマホ紛失のジレンマ

観測日時:平日の夜、スマホの通知が絶えない時間帯

観測対象:LINEの催促、スマホ隔離という選択、そして「引き出し事件」

観測者:カノジョ(今日もサボりたいけど、つい分析)



私はカノジョ。

物語の案内役。時空を飛ばすイタズラ役も、最適化社会の案内人も、書き手の観測役もやってる。ノーギャラ。雇い主には見せられない裏日記を、ここに綴るね。


今夜は、本業『観測者の時空_B面』報告書の提出締切当日。満員電車の実測データをまとめなければならない。期限は今夜23時59分。時計を見ると、すでに20時を回っている。まだ書き終わっていない。焦る気持ちを抑えつつ、机に向かっていた、その時だった。


スマホが震える。見ると、雇い主からLINE。


「カノジョさん、報告書の提出、今夜23時59分が締切でしたよね。進捗いかがですか?」


ああ、来た。この「催促」が一番ストレスだ。返信すれば、次は「ではどのくらいで終わりそうですか?」と来る。その返信をすれば、「では中間報告だけでも」と来る。この連鎖は、過去のデータからほぼ確定している。


ならば——返信しないという選択肢はどうか。


データによる「最適解」の計算


ここで私は、真面目に計算を始める。返信をしないことの効率性を証明したいからだ。


前提条件:


· 現在時刻:20時15分

· 締切:23時59分(残り約3時間45分)

· 残りの報告書作成にかかる想定時間:約3時間

· スマホの平均通知数(夜間):約25件

· うち、雇い主からの催促関連:3件と予測


即レスした場合のシミレーション:


1. 返信を打つのに約2分

2. 相手がすぐに追加入力してくる確率:82%

3. その返信を読む+打つのに約3分

4. さらに「では、何時ごろ終わりそうですか?」の往復


これだけで約15分のロス。しかも、その間に「また返事来てないかな」とスマホを確認する回数が増え、集中力が途切れる。集中力の再開に要する平均時間は約5分。これが数回繰り返されると、軽く1時間以上の損失になる。


一方、返信を遅らせる(またはしない)場合:


· スマホを物理的に隔離すれば、通知に気を取られない

· 報告書に完全集中できる

· 遅延によるペナルティ:雇い主の機嫌を損ねるリスク(データ的には約15%の確率で「少し不満」)


データ的に見て、明らかに「返信しない」方が生産性が高い。雇い主の「少し不満」よりも、報告書を完成させる方が優先だ。


結論


よし、決めた。


今夜はスマホを完全に隔離する。報告書に集中する。返信は提出後にまとめてやればいい。


スマホを机の引き出しの奥深くにしまった。これで完璧。雇い主の顔も浮かばない。リビングで資料を広げる。集中できる環境。これこそが戦略的サボり——いや、戦略的生産性向上だ。


やらかし(かわいげ)


作業開始から20分後。順調だった。このペースなら23時には終わる。余裕で提出できる。


その時——腕に巻いたスマートウォッチが震えた。通知だ。でもスマホは引き出しの中。無視しよう。


5分後、また震える。無視。


10分後、ブブブッと連続バイブレーション。画面を確認すると、雇い主から「既読ですよね? 大丈夫ですか?」の文字。


——しまった。最初の通知で既読がついていた。スマホを引き出しにしまう前に、うっかりLINEを開いてしまっていたのだ。


これは……見なかったことにできない。でも、出したら負け。ここはグッとこらえて、クッションの下にスマートウォッチを隠す。これで集中、集中。


……22時。報告書はほぼ完成。あとは最後のデータを数値化して、軽く確認するだけ。想定より順調だ。23時には終わる。


ふと、スマートウォッチを確認する。通知45件。そのうち雇い主からは15件。タイトルが確認できる。「カノジョさん?」「もしもし?」「連絡つかないのですが」「大丈夫ですか?」「逃亡ですか?」「生きてますか?」……だんだんヒートアップしている。


これは無視し続けるわけにいかない。まだ時間はある。仕方なく、机に向かった。


引き出しを開ける。スマホは奥の方。手を突っ込んで取ろうとした、その時——


「カラン」


スマホが引き出しの奥から壁と机の間の、絶対に取れない隙間に落ちた。壁と机は一体型。動かせない。隙間は約2センチ。手が入らない。


ここから格闘が始まった。


菜箸→滑る。針金ハンガー→さらに奥へ。粘着テープ作戦→8回目の挑戦でようやく指が届く範囲に。


救出までにかかった時間、約60分。


時計を見ると、23時10分。当初の予定より10分遅れている。でも、まだ締切には間に合う……はず。


指は擦り傷だらけ。腕は真っ赤。ヘトヘトになりながらスマホを開き、急いで報告書を確認する。……あれ? このデータ、おかしい。さっきまで正しかったのに、最終確認をしていない部分にミスが見つかった。


修正にさらに15分。


提出したのは、23時50分。締切の9分前。ギリギリだった。


その直後、雇い主からLINE。


「……ギリギリですね。しかも、途中で何度も連絡したのに無視されてたので、少し不安になりましたよ。今回はセーフにしますが、次からはこまめに返事をお願いしますね。」


私は擦りむいた指で、謝罪のスタンプだけを送った。


収支計算(この日の総括)


· 集中して報告書を進められた時間:約2時間 → +120分

· しかし、スマホ救出に費やした時間:60分 → -60分

· 報告書ミスの修正時間:15分 → -15分

· 結果、ギリギリ提出で心臓に悪かった精神的ダメージ:-40

· 雇い主の機嫌を損ねたことによる評価ダウン(予想):-100

· 擦り傷の治療費:-500円


総合:完全なマイナス。 返信に15分使って、スマホを机の上に出しっぱなしにしておく方が、よほど生産的で精神的にも安定していた。しかも報告書はギリギリ。雇い主は不満。指は痛い。


「返信しない」ことで得られるはずの時間が、スマホ紛失という想定外のリスクで吹き飛んだ。しかも、救出に時間を取られたせいで最終確認も十分にできず、ミスが見つかるというおまけつき。


深い結末


この日の教訓。


スマホを引き出しに隠すのは良いアイデアだが、引き出しの奥行きと壁との隙間は事前に計測しておくべきだった。デジタルデトックスをするなら、まず物理的な紛失リスクを排除することが先決である。


それ以上に重要な教訓——「返信しない」という選択は、相手に「無視している」と思われて、かえって追撃を生む。雇い主のLINEの熱量は、無視すればするほど増幅した。これはデータ的にも明らかだ。


結論。返信を遅らせるくらいなら、最初から「今は集中しているので、連絡は提出後にまとめて返します」と一言伝えておく。そうすれば、相手も過剰な追撃をしない。そしてスマホは机の上に置いておく。引き出しの中ではない。絶対に。


もしくは——報告書はもっと早く終わらせておく。それが一番の最適解だった。


…多分、また繰り返すけど。


(今日の結論:返信を遅らせて集中しようとしたら、スマホ紛失で報告書がギリギリになった。デジタルデトックスより先にやるべきことがあった。ねえ、みんなは締切前、スマホどうしてる? よかったら教えてね。)

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