第1話:雨天決行の期待値計算——雨の日の戦略的休息は、どこへやら
観測日時:ある雨の日の午前中(布団から出たくない時間帯)
観測対象:今日の外出予定、そして「サボる」という選択のその後
観測者:カノジョ(今日もサボりたいけど、つい分析)
私はカノジョ。
物語の案内役。時空を飛ばすイタズラ役も、最適化社会の案内人も、書き手の観測役もやってる。引き受けたら最後、次から次へと依頼が舞い込むノーギャラ労働者。雇い主には見せられない裏日記を、ここに綴るね。
最近、気づいたことがある。雨の日に無理に動くと、そのあと数日間の生産性がガクンと落ちること。気のせいかもしれないけど、私はそれを「雨天後の生産性減衰曲線」と名付けてデータにしている。
今日もそんな日だ。窓の外はざあざあ降り。布団の中でスマホを眺めながら、私は考える。どうやってサボるか。
データによる「最適解」の計算
まず、スマホの天気アプリを確認。降水確率――70%。向こう30分の降水量予測は「やや強く」。風もそこそこあるらしい。
──これは、外出したくない。
でも、予定は入っている。午前中に銀行、午後に郵便局。全部、今日中に済ませなければならない要件ではない。でも「今日やろう」と決めたから、今日やるつもりだった。
ここで真面目に計算を始める。サボりたいからではなく、サボることを正当化する材料がほしいから。……いや、やっぱりサボりたいから。
外出する場合の期待値:
· メリット:用事が終わる(+20)、達成感(+10)、運動になる(+5) → 計+35
· デメリット:靴が濡れる不快感(-8)、コートが重くなるストレス(-5)、傘をさす疲労(-7)、帰宅後の後始末(-6)、低気圧による頭痛リスク(-3)、気分低下(-10)、さらに「なんとなくの気分低下(測定不能)」 → 計-39
35 - 39 = -4。さらに風邪リスク(体感15%で-30)を加味すると期待値は-8.5。
外出しない場合:
· 用事を後日に延期(-2)、家でゴロゴロする休息効果(+10)、コーヒーと読書の充足感(+8) → 計+16
この差は歴然だ。データ的に見て、今日は外出しない方が良い。
結論
よし、決めた。サボる。
スマホで銀行の予約を明日に変更。数タップで完了。現代は便利だ。サボりやすくなった。
さて、浮いた時間をどう使おう。そうだ、積読していた文庫本を読もう。これで読書の充足感(+8)も手に入る。
コーヒーを淹れ、毛布を膝にかけ、本を開く。
……その前に、ちょっとだけスマホを見よう。
やらかし(かわいげ)
「ちょっとだけ」が、5時間だった。
最初はSNSをぼんやり眺めていただけ。
でも、ふと「雨の日の過ごし方」という記事が目に留まった。そこから芋づる式に、「効率的な家計管理」「丁寧な暮らしの始め方」「休日の生産性を上げる10の習慣」……気づけば、私は完全に「他人の理想的な雨の日」のデータ分析に没頭していた。
画面をスクロールする手が止まらない。
「この家事ルーティン、真似したい」
「この積立方法、明日からやろう」
「この人の休日、充実しすぎてない?」
気づいたら外はもう暗くなりかけている。コーヒーは冷めきり、膝の上の本は1ページも進んでいない。
……あれ? 私、何をしていたんだっけ。
深い結末
この日の終わり、私はトータルの収支を計算してみた。
· サボったことで得られたはずの休息効果:+10
· 読書の充足感:結局0(本を開かなかった)
· その代わり、SNSで他人の生活を分析していた時間:5時間
· なんだか虚無感がすごい:-15
最終的な幸福度はマイナス。
むしろ、適当に銀行に行って、帰りにケーキでも買って帰った方がマシだった気がする。データ的に見て、今日の私の選択は完全に負けていた。
スマホを置き、天井を見つめる。他人の「理想的な雨の日」の観測に夢中になって、自分の「現実の雨の日」をドブに捨てた。これじゃあ、本編の観測の仕事とやってることが変わらないじゃないか。
というか、せめて本を読めよ、私。
雨の日のサボり方は、まだまだ研究の余地がありそうだ。
(今日の結論:サボったはずが、他人の生活を分析して終わった。これじゃ本末転倒。……ねえ、みんなは雨の日、どうやって過ごす? よかったら教えてね。)
※『観測者の時空』本編でのカノジョの活躍もぜひ、覗いてあげてください。作品一覧よりご覧頂けます。
『彼女の、不可逆なインフレーション』が
カノジョの初出演作品です。




