大阪へ出発
「さて行くか。」
土曜日の夕方3時。家族4人で大阪へ出発した。家族旅行は久しぶり。あれは……3年以上前か。あの時も大阪だったな。
夕方出発なのは楽だ。早起きが苦手な次男、二郎が起きられるかどうか心配しなくていいし、洗濯物を片付けてから行かれるので、帰ってきてからも楽。9月上旬の日差しはまだ暑く、スーツケースを引きながら日傘も差すのは無理かなーと思ったら、長男の一郎が黙って私のスーツケースに手を掛けた。
「持ってくれるの?ありがとう!」
私は盛大にお礼を言った。
夫、厚夫と私、夏子がスーツケースを引き、一郎、二郎はリュックだった。息子たちは大阪2泊だけだが、厚夫と私は大阪の後広島に1泊するので多少荷物が多め。お土産もたくさん買うし、そもそも大きめのリュックを背負って歩く自信がない。腰とか膝とか。
駅までの道のりを、一郎が先頭を、厚夫が後ろから、そして私と二郎が並んで真ん中を行く。末っ子(と言っても二人兄弟だが)の二郎は常に私にくっついている。可愛いやつだ。けれど、さっきみたいに荷物を持ってくれるのは一郎だ。黙っているけれども優しくて可愛い子だ。
電車の中では、席が空いたら真っ先に私に譲ってくれる家族。なにせ、私は病み上がりだ。まだ上がっていないくらいだ。何の因果か、二郎がどこからかもらってきた風邪を私、そして一郎が相次いでもらい受け、みんなでゴホンゴホンとやっていた8月。私だけが9月になってまた熱を出し、お腹も下し、しかも寝ている時に呼吸困難に見舞われる症状があり、眠れないのでけっこう重篤だった。まさかこんなに長引くとは。ずっと楽しみにしていた万博に行くのに。万博に行く前に足を鍛えておいた方がいい、などと吹聴していたというのに、鍛えるどころか安静にしていないと悪化する状況で。
それでも、前日には熱も下がりお腹も治ったので予定通り出発したのだった。何しろ万博は色々と予約してある。具合があまり良くないから来週に、という訳にも行かないのだ。並ばない万博、こんな所にも弊害があったとは。まあ、それもそうだし厚夫と一郎の休みを調整するのも大変だから。
私、夏子は万博が大好きで、4月には5日間ボランティアをやってきたのだった。大阪のホテルに独りで泊まり、5日連続で万博内を歩き回り、ヘトヘトだった。とても良い思い出だ。あの頃はまだ観客が少なかったのだが、私は後で家族と観客として行くからと、パビリオンには1つも入らずに帰ってきてしまった。
長く歩くのも久しぶりだった。半月くらい、病院と近所の買い物にしか出ていない。まず羽田空港まで無事に行かれたのはめでたい限りだ。
昨日まで、昼間一人で過ごしていると、喉に痰があって気持ち悪く、胸が苦しい気がしてパルスオキシメーターで血中酸素濃度を測ってしまうくらい具合が悪かった。誰かと一緒にいると気が紛れる。だが、しゃべろうとすると痰が絡んで上手く声が出ないし、それでも無理にしゃべると咳が出てしまう。
フライト時間は1時間ちょっとだが、やっぱり喉の痰が気になるし、耳がつんとなると余計に変な感じで、気分がずっと悪かった。飲み物の提供があり、リンゴジュースをもらったのだが、これもハッキリ言って要らなかった。喉がよけいにベタベタして気持ち悪いし、なんだかトイレに行きたくなってくるし。マスクをすると息苦しい。ああ、早く着いてくれ……。
やっと伊丹空港に着いたが、スーツケースがなかなか出て来ない。待つ間にホテルのある大阪天満宮までの道のりを調べてもらったら、乗り換え多いし1時間くらいかかると聞いてがっかり。いつもなら予め調べておくのだが、今回は具合が悪いので調べていなかったのだ。
やっとスーツケースが出てきて、モノレールに乗ろうと移動した。モノレールの駅への渡り廊下の所で、何とまん丸なお月さまが見えた。綺麗!写真を撮ったらあまり良く写らなかったが。二郎も一緒に撮っていたが、満月ではないと言われた。私の目にはどのみちはっきり見えないのだが。
「あと1分で電車くるよ!」
一郎が前の方で言った。しまった、時間の事などすっかり忘れていた。
「誰か、お母さんの荷物持ってあげて!」
厚夫が言うと、二郎が私のスーツケースをさっと取った。そして走る。なんとか間に合った。すぐに乗り換え。乗り換える電車の車体を見て、思い出した。これ、前にも同じコースを辿ったわ。
3年半くらい前、今なら空いているはずだと、年末にUSJに行ったのだった。感染症拡大後、テーマパークは人数制限をしていたから、チケットが買えたなら空いている中で遊べると思ったのだ。しかし、ちょっと遅かったみたいで、しれっと人数制限は解除されていた。と、思う。とても混んでいたから。
あの時も、夜出発で大阪に入り、桜島駅前のホテルに泊まった。夕飯を梅田で食べようとして色々と探し回り、やっとお好み焼き屋を見つけたら混んでいて入れず、テイクアウトしてホテルで食べたのだった。あの頃は桜島駅前のホテルにも泊まれたのに、今回は無理だった。またあのホテルに泊まりたかったなあ。4人で1つの部屋に泊まれたのになあ。




