episode.セイショク
この世界には、魔物でも保護されるべき希少種がいる。
人間にとって便利か否かが基準になりがちだ。
だが保護が必要な魔物がいると、一般人にまで認識されている種類は、そう多くない。
基本的に魔物は、ヒトにとって害にしかならないからね。
魔物の世界は、分かりやすく弱肉強食だ。
どんなに強く成長する魔物でも、生まれながらに強い個体は滅多にいない。
赤ん坊の生存率はとても低く、余程運が良くなければ長生きできない。
そのため、とにかく繁殖力が強い。
……――ソコのあたりは、地球の生物と変わらないね。
だが絶滅危惧種として指定されていた動物たちとは違い、魔物は人間がワザワザ守らなくても、例え乱獲されたとしても、勝手に増えていく。
だから保護が本当に必要な魔物――最も有名な単核粘凝と竜種しか、保護が必要だと知らないヒトは多いと思う。
どちらも強すぎて、大抵のヒトには倒しようがないから、保護云々は関係無い気もするけれど。
大きい魔物は、四季や瘴気の濃度によって繁殖期を迎え、一度の出産で一〜三匹の幼体を産む個体が多い。
そして出産後、子育てをする魔物と、しない魔物に分かれる。
前者は例え同族の魔物でも、いつか自分が育てる側に回る可能性があるにも関わらず、特にフリーのオスが敵になり得る。
子育てをしていないと言うことは、そのシーズン、メスへのアピール不足によってフラれて、子孫が残せなかった負け犬になるからね。
その腹いせも含まれているのか、魔物の独身者は滅茶苦茶凶暴になる。
しかも同種だから、本能的にどこに巣穴を作る傾向にあるのか、どの辺を獲物の狩場にしているのかを把握されやすい。
最も凶悪な外敵は、ヒトを除けば、同族の喪男ってことだ。
魔物は自分の子孫を残そうとする本能が、非常に強いようでね。
自分の子を受胎させるために、産まれたばかりの子供や、ライバルのオスを積極的に殺そうとするんだよ。
子育て中はメスが妊娠できなくなるじゃない?
つまり子供がいなくなれば、その分早く仕込めるようになるじゃない??
しかも子供を食べれば、自分の栄養補給もできて、一石二鳥ってワケだ。
……イヤ、ライバルを討ち取って強者の証明がされればメスにモテモテになるから、一石三鳥にもなるな。
だがそれは当然、無事に出産を終えたツガイ達には避けたい結末だ。
なので産後体力が消耗しているメスはなるべく安全な巣で動かず、子供たちがある程度大きくなるまで近くで守る。
オスは身動きできないメスに食べさせる獲物を探すため、また敵を排除するために、行動範囲を広げて出没しやすくなる。
当然、近付けば敵として排除されることとなる。
つまり繁殖期後は、メスやオスの性別やパートナーの有無は関係無く、魔物は全て獰猛になる傾向にあるということだね。
だから繁殖期――一番多いのは春だが、冒険者たちにはその時期は魔物が多く生息している森の奥には、なるべく行かないように推奨している。
まぁ、大人しく聞くような連中なら、最初から冒険者などにはなっていないだろうが。
生き物は苦痛を味わえば、痛い、辛い、シンドい等の負の感情から生まれる‘’瘴気‘’を発する。
瘴気は濃ければ濃いほど、魔物にとって繁殖に適した環境となる。
魔物の身体能力が瘴気を取り込むことによって強化されるのは、周知の事実だ。
その強化された状態で子孫を残せば、より強い遺伝子を残せる。
生物として、魔物は瘴気を欲する。
その上瘴気が溢れていれば、最大の天敵である、ヒトが寄り付きにくくなる。
精霊から加護を与えられているヒトにとって、対極にある性質を持つ瘴気は、毒になるからね。
ソレもまた、魔物にとって周知の事実だ。
意外と魔物は賢いのである。
なので繁殖期になると魔物は、森の中で命知らずなヒトと顔を合わせたら、積極的にバトルを仕掛けてくる。
むしろ視線が合わなくても、姿を見かけただけで奇襲を仕掛けてくる。
倒せればエサになるし、外敵が減る。
ノコノコ奥地にまで足を運ぶヒトは、比較的強いが大人だ。
子供を襲った時のように、行方不明になっても探しに別のヒトが訪れることもない。
またヒトから発せられる瘴気は、魔物の比ではない。
霊力を持っている者の恨みつらみが負のエネルギーに転換した時に、爆発的に増えるらしい。
ヒト一人屠るだけで、エサの確保・外敵排除・快適な環境作り・装備品の防具を利用した守りの強化が一度に叶う。
一石で四鳥にもなってしまうオトクさがあるのだもの。
やらないテはない。
そういう事だろう。
なのでいかなる理由があろうと、繁殖期の魔物のテリトリーに入るべきではないのだ。
だが春先は毎年、命知らずな連中の行方不明者が出る。
きっと森の奥に消えた冒険者たちは、魔物よりも知能が低いのだなと諦めている。
小さく弱い魔物は、とにかく数を産む。
その場合は、卵生が多い。
妖鶏や鶏冠蛇のように、毎日複数個卵を産む魔物もいれば、魔蛙や 青花鮄のように、特定の季節にしか産卵しないが、その分数を多く産む魔物もいる。
その数は千とも万ともされている。
結構、個体差が大きい。
どれだけ多く産んだとしても、他の魔物に食べられたり、人間に狩られたりして、大人の個体にまで成長できるのは、全体の〇.一%にも満たない。
人間が狩らなくなれば、一時的にもう少し増える可能性はある。
その分生息範囲は広がるだろう。
だがソレはつまり、今までその個体に見向きもしなかった魔物が、ソレを獲物だと認識する。
その種類が増えるだけだ。
年単位で見れば、結果は変わらないと思う。
どれだけ丹精込めて育てても、数多く産んでも、魔物が生涯で増やせる自分の子孫は、多くて一〜二匹程度。
何億個と卵を産んでも、それしか大人になれない厳しい世界なのだ。
そんな中、単核粘凝や三岐腸等は例外的に、分裂という形で個体数を増やしていく。
分裂となると、単細胞生物が真っ先に思い浮かぶ。
アメーバのような原生生物は、細胞分裂をして増える。
分裂して増えた個体は、元となった個体と同じ遺伝子だ。
別名クローン生物と言われるだけあるね。
同じ単細胞生物でも、ゾウリムシは細胞分裂を繰り返し行うと、細胞が劣化してしまう。
そのため時折有性生殖をし、細胞の若返りをはかる。
若返ることの叶わなかった個体は、いずれ分裂と同時に細胞が崩壊し、死に至る。
同じようにこの世界にも、接合をしなければそのうち分裂による増殖ができなくなる、単核繊虫なんて魔物がいる。
霊力を取り込み分解してしまう、ヒトにとってかなり厄介な魔物だ。
魔物の生息域を増やす、その初手となる役割を担っていると言っても過言では無い、魔物にとって重要な種なのだが、小さく弱いので、様々な魔物の幼体期のエサになっている。
ちょっと哀れな魔物である。
単核粘凝は生殖行為によっては増えないのに、分裂した個体と元の個体の遺伝子が異なる。
単核粘凝は生活環境に適応するよう、成長しながら進化していく。
魔物やヒトも含め何でも捕食し、石でも木でも何でも取り込み、日々進化を続ける。
そして一定以上の遺伝子改変を行なうと、成長が止まる。
成長が止まった単核粘凝は、じきに核がふたつに増える。
そして元の進化する前の、まっさらな遺伝子しか持たない単核粘凝が、分裂することによって増える。
核が切り離され分裂したスライムは、旅立つか、同じ場所で別のモノを取り込み、全く別の個体として進化していく。
成長しきった野生の単核粘凝がどうなるかは、分かっていない。
ある一定までエサを取り込むとまた分裂するのか、他の魔物やヒトに倒されるまで、気ままに食事だけをし続けるのか。
はたまた全く別の魔物へと変態するのか……
単一個体で進化ができるって、生物として最強だよね。
しかも野生種とヒトが生活圏で飼っている単核粘凝では、生き物として全く別の進化を遂げているのだもの。
生物として特殊にも程がある。
興味は尽きない。




