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もと神さまの、魔物手帖。  作者: 可燃物


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3/12

episode.コカトリス

 地球で最も古い家畜は、犬とされている。

 オオカミを馴化させ、人間のパートナーとした。


 農作物を荒らす害獣から、田畑を守るため。

 狩猟採集の際の、飛鷹走狗として。


 勇ましい立ち居振る舞いは、人間の心強い相棒として、支えてくれたに違いない。



 そんなオオカミの格好良い写真を見た後に、柴犬や秋田犬の愛らしい笑顔の写真を見せられ「コイツら、遺伝子似てるんだってよ」と言われた時の、衝撃たるや……


 イヤ、まぁ、ヒトとバナナのDNAは五〇%同じって有名なセリフがあるからね。

 柴犬がイヌの中で最もオオカミに近いと言われても……

 ……()()と言われると、納得は、しにくい、か。

 

 ハスキー種の方が、余程オオカミっぽいのに。

 遺伝子って、結構いい加減だよね。



 イエイヌの起源が解明されることは終ぞなかったが、その後ヤギ・ヒツジ・ブタを、それぞれノヤギ・ムフロン・イノシシから家畜化したことは判明している。

 紀元前八〇〇〇年頃の話だ。



 その後、紀元前六〇〇〇年頃に、地域によって原種こそ違うがウシが家畜化され、ウマ、ロバと続いていく。



 家禽はイヌと同様、いつどこで家畜化されたのかが、イマイチ分かっていない。


 一応アジア圏ではあるようなのだが、中国なのかタイなのかインドなのか。

 だいたい紀元前七〇〇〇年程前に、インドかタイかで最初のニワトリが生まれて、中国へと渡ったのだろう、とされている。



 因みに、この世界で一番最初に家畜化されたのは、ニワトリ――妖鶏(シュケイ)である。

 もっと言うなら、妖鶏(シュケイ)の原種である鶏冠蛇(コカトリス)が、家畜として最も歴史が長い。



 単純に、他の魔物よりも体躯が小さく、制御しやすかったからだろう。

 山のように大きな毀魔馬(ワルタルス)を家畜化させようなんて、とてもじゃないが、考えられないもんね。



 むかしむかし、ほぼ毎日卵を産む鶏冠蛇(コカトリス)に目を付けた人がいた。

 動物性タンパク質は、貴重だ。

 どうにか鶏冠蛇(コカトリス)を利用して、食料問題を解決出来ないかと、比較的身体が小さく、御しやすい妖雉(パシャーダ)を掛け合わせて出来たのが、妖鶏(シュケイ)である。


 ……とされている。

 内緒だが、地球から連れて来られたニワトリの遺伝子も入っている。

 

 そうじゃなきゃ、魔物なんて凶暴な生物を飼い慣らすなんて、とてもじゃないがムリ、ムリ。



 鶏冠蛇(コカトリス)とニワトリは、残念ながら体格差が余りにもありすぎて、直接は交配させられなかったらしい。


 見た目はトリだけど、実はヘビの方が本体なので、当然と言えば当然なのかも。

 地球の道理が通用しない世界なので、遺伝子的なものは関係ない。


 単に交配させようとしても、ヘビが邪魔をして来て、それ所ではなかったのだろうと思う。



 そのため、まず鶏冠蛇(コカトリス)妖雉(パシャーダ)を交配し小型化させ、ヘビ部分を退化させた。

 そこにニワトリを混ぜた形だ。



 鶏冠蛇(コカトリス)は雄鶏に蛇のシッポが生えているビジュアルをしている。

 雌雄の区別は、トサカの山部分と、ヘビ部分が偶数か奇数かで見分ける。


 持っている毒がメスとオスとで違う上、メスはヘビ部分での攻撃がメインになり、オスはトリ部分で攻撃して来ることが多いので、留意が必要だ。

 戦い方が全然違って来るからね。



 進化の過程で、どんどん擬態部分が大きくなって行き、鶏冠蛇(コカトリス)は本体と尾を合わせて五kgを超える。


 その重量を活かした体当たり&蹴りで体勢を崩し、メスはヘビの本体を使い絞め殺して来るか、噛みつきマヒをさせ、ゆっくりと丸呑みしてくる。


 当然、飲まれる段階で全身の骨は砕ける。

 なのに、なかなか死ねない。


 とても辛い思いをする事になるので、飲まれそうになっても吐き出して貰えるように、靴や服にはスコヴィル値の高い品種の唐辛子(カプシカム)エキスや、デナトニウムをあらかじめ塗っておくことをオススメする。



 オスはトリ側の硬いクチバシでつついて来る攻撃がメインだね。


 クチバシは質の高い(やじり)の材料として、ソコソコの値段で取引されている程だ。

 連続でつつかれれば、鋼の盾でも風穴が空く。


 油断してはならない。



 そしてつつく攻撃が効かないと分かれば、噛み付いて来る。

 トリのクチバシに挟まれた所で、なんて笑ってはいけない。


 妖鶏(シュケイ)しか見たことがない人には驚きだろうが、鶏冠蛇(コカトリス)のクチバシの中は、トゲトゲしている。


 ガチョウみたいな感じかな。

 クチバシの中、一面にビッシリ大小入り乱れた突起が付いている。

 なんなら、舌にも棘がビッシリと生えている。


 正直、キモい。


 なにせヘビが本体なので、一部毒牙になっている。

 そのため、ガチョウよりも余程タチが悪い。



 ガチョウは、ホラ。

 アヒルと似ているから見た目が可愛い分、あの口内の凶悪さが目立つけれど、害はないじゃん。

 草食だし。



 鶏冠蛇(コカトリス)は毒を持ってるし、焦点が定まらない虚ろな目をしているし、クチバシも鋭くて、いかにも凶悪そうなので、可愛げが微塵もない。


 その上、肉食。

 好物は人間のハラワタだ。


 つつく攻撃も、当然腹部を執拗に狙って来る。

 鶏冠蛇(コカトリス)と戦う前には、胴衣の強化をしておく事をオススメする。


 あ、メスと違って辛い・苦い塗料は無意味だよ。

 トリの頭部には味覚がないからね。



 だが胴回りを執拗に守ったからといって、安心してはいけない。


 鶏冠蛇(コカトリス)は基本的に、悪食だ。


 クチバシの中のトゲトゲを使って、頭蓋骨でも余裕ですり潰して食べる。

 しかも野生で長く生きている鶏冠蛇(コカトリス)は、人間は頭を破壊したら動かなくなる事を知っているからね。


 最近では、頭を潰した後にゆっくりとハラワタ(好物)を食べる、グルメな個体が発見されて、セオリー通りに倒すのは難しいと判断されているようだよ。

 そのため、討伐レベルが引き上げられたそうだ。



 人の背丈程まで成長した鶏冠蛇(コカトリス)を見たら、オスメス関係なく、逃げることを強くオススメする。


 デカい=長生きしてる=戦い慣れてるって事だからね。

 死にたくないでしょ?



 ……とか長々書いたけど、鶏冠蛇(コカトリス)の最大の攻撃技は、その視界に全身をおさめた相手を石化させる、魔眼である。

 複数生えてるヘビ頭の、一番短いヤツが本体なのだが、普段は隠れているんだよね。


 ある程度ダメージを受けた時、本体以外を自切して逃げられるパターンになるか、本気を出して石化させられるパターンになるか。

 お互いにデッド・オア・アライブって感じになる。

 

 鶏冠蛇(コカトリス)からしてみれば、擬態部分や攻撃をしてくれる他のヘビ頭がいないと、自分の身を守れないじゃない?

 その場は逃げ果せても、余程運が良くないと生き残れない。


 だけど、魔眼を使うのはとても体力を消耗するらしく、せっかく敵を石化させても、逃げ切る前に力尽きるパターンが多いみたいなんだよね。


 ()()()()()()()の近くに、鶏冠蛇(コカトリス)の死骸が横たわっているのは、鶏冠蛇(コカトリス)の生息域なら、比較的よく見られる風景だ。


 石化しても、あまり時間が経っていないなら、ワンチャン状態異常を解除できる治癒術師に処置をして貰ったり、万能薬をかけたりすれば、元に戻れる。



 どれだけの時間が経過したらダメなのかは、流石に人体実験をするワケにはいかないので、不明なままである。


 救助された冒険者の証言と、近くに転がっていた鶏冠蛇(コカトリス)の死骸の様子からして、二十四時間は余裕で経過しても問題なさそうなんだけどね。


 小型の魔物で試した時は、五分程度で石像化してしまい、元に戻らなくなった。


 身体の大きさなのか、魔眼も魔力による作用の一つだから、たまたま助け出された人の霊力が多くて、抵抗値が高かっただけなのか。

 それすらも、残念ながら分かっていない。



 そんな凶暴で残忍な鶏冠蛇(コカトリス)だが、卵がホント、絶品なのだ。

 どちらかというと、蛇の卵に近い見た目をしていて、歪な楕円型をしている。



 生ではさすがに食べられない。

 滅菌しても、ムリ。


 生だと白身部分に毒素が含まれていて、食べたら呼吸困難に陥って死ぬ。



 TKGで食べたら、美味しそうとは思うんだけどね。

 思ったし、どうにかして食べようと、画策したことがあるんだよ。


 ムリを言って治癒術をかけて貰いながら食べてみたけど、マヒ毒のせいで舌が痺れて、味わうどころじゃなかったんだよ。



 だからやるだけ損だし、機会があってもマネしちゃダメだよ。

 ヘタな治癒術師だと、回復が追いつかなくて死んじゃうからね。



 しかし火さえ通せば何の問題もない。

 赤に近い濃厚な黄身と、プルプルの白身が混ざって、ピンク色のオムレツができると、ちょっとテンション上がるよ。


 可愛げのない鶏冠蛇(コカトリス)から、こんなcawaiiが誕生するなんて! と感動まで覚える。


 しかも美味しいし滋養にもいいし、言うことなしなのだ。



 まぁ、ただ、とっても魔物らしいエピソードなのだが……産卵から孵化までが、とても早い。

 エグいくらいに早すぎる。


 卵を見付けて「ヤッター!」と喜んで、次の日の朝にでも食べようと、常温保存をしていたら、孵化してしまう位に早い。

 獲れたて新鮮の状態で、その日のうちに調理しようとしても、場合によっては孵化してしまう。



 親鶏冠蛇(コカトリス)が巣から離れるタイミングじゃないと、卵が獲れなきのがいけない。

 親鶏冠蛇(コカトリス)が巣から離れるのが結局、孵化する直前ってことなのだろう。



 今でこそ周知の事実だが、昔はそうではなかった。

 一体、何人の人が犠牲になったのだろうね。



 因みに俺は、孵化したての鶏冠蛇(コカトリス)の、オスに五回、メスには三回噛まれてる。

 あと二回はチャレンジしてもいいかなって思っているよ!


 産まれたてだと、トリ部分の形は全然再現できていないクセに、ヘビ部分が毒をシッカリ持っているんだもの。

 ビックリだよね。


 噛まれても、死にはしないけど……

 処置をせずに放っておいたら、多分、ヤバいかな。


 そうなるまで放置したことがないから、分かんない。


 よい子はマネしちゃ、絶対ダメです。



 ごくごくまれに巣に残っている、無精卵の卵を運良く食べれた偉人さんが、「う、うまい! テーレッテレー!」といたく感動し、「オスがいなきゃ孵化しようがないんだし、メスだけ家畜化させたら美味しいもん食べ放題やん!?」とあの手この手で、人間社会に加えようと奮闘してくれた。


 そのおかげで、今の妖鶏(シュケイ)が誕生したのだ。


 ありがたい話である(合掌)

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