永年の雪山
数ある中からお読みいただきありがとうございます。
雪の傘をかぶる山
白い綺麗なその姿
遠くにそびえるその山に
好奇の目を向けてみた
少年はただ近づいて
山の麓を見ていると
大きな山に目を奪われ
そこに立ち尽くすだけだった
隣を通り過ぎる“少女”は
何歩か登って帰っていった
ある少年は大股で
なんとも軽々そうに
登っていく
ぐんぐん登って頂上へ
そのまま奥へと姿を消した
そしたら帰ってこなかった
それを見た人は驚いて
「自分もやるぞ」と
登っていく
それでも登れない人たちは
「不気味な山」だと
言いふらす
登頂した少年を
噂して
「運が良い」とか
「脚力がある」とか
理由をつける
その後もたくさんの人がやってきて
登る手立てを考えた
山を登る準備をする人
装備を揃える人
体力をつける人
そしたら少しずつ登り始める人がいて
軽装の若者は
横を通って
駆け上がる
上から転げ落ちてきて
「こんな山は登れない」
そうして二度と登らなくなった
ちゃんと準備をした人は
ある時
頂上にたどり着いた
そしたらまた帰ってこなかった
人々はだんだん震え上がり
「祟りだ」
「呪いだ」
言い始め
山には登ってはいけないと
看板を沢山飾り立てる
雪が解けない危ない山
登ったら帰ってこれない怖い山
怖いもの見たさにやってくる人
その人たちを見に来る人
そのうち裾の尾に人だかりが出来て
雪で遊び始めた
雪だるまを作る人
雪合戦をする人
数歩で山から帰った“少女”は
いつしか賑わいを見つけ
楽しそうだなと
その人だかりに入る
皆で雪だるまを作った
ソリ滑りもした
「スキーもいいね」と
言い始めた
「スノボーもいいよ」と言うその隣を
女の子が通る
大人になった“その人”は
その女の子を見て
応援する
ただそっと外から応援する
自分の存在が知られなくてもいい
過去の自分を重ねて
応援する
その女の子は順調に上がっていく
自分のことのように
嬉しくなる
そのうち姿が見えなくなった
どこへ行ったのだろう
探しに行きたい
でも探す方法はないから
この山は
永年の雪山
いなくなる人も
滑落する人も
去っていく人もいる
また新しい少年が登る
その眩しい姿に
背中を押す
すると少年は
“その人”の手を引いて
「一緒に行こう」と
誘ってくれる
“その人”は恐る恐る
足を踏み出した
その少年は
ぐんぐんと進み
見えなくなってしまった
けれど昔の好奇心を
捨てられなくて
一歩踏み出す
何回挑戦したのだろうか
持っている装備は
手作り品
“その人”は
登り方を少しずつ
少しずつ覚えていく
そのゆっくりとした歩みを
いつしか
応援してくれる人が出来て
初めの一歩は日常になり
初めの百歩も日常になる
その応援に何度も元気をもらう
“その人”は一人で歩いてきたのではない
何度も歩いたその山は
少し歩き慣れた気がした
前に進めない時は
横に進む
休んでもいい
『滑落さえしなければ』
そうして進んだ視界には
やっと見えた頂上の姿
頂上まで
あと百歩
吹雪で
声援はかき消される
目の前に立ちはだかる
最後の部分は
歩いたことがないけれど
知らない道も慣れてきた
その人は独りで登ったわけではないから
怖いけど
手の中に
たくさんの勇気をもらって
それを一歩
前へと踏み出す
力に変えて
一歩ずつ
踏みしめてきたから
最後の百歩は
すごく怖くて
もう止めようと何度も思った
その度に
あなたからもらった勇気を
思い出すから
震える足
それでも歩みは止められなくて
ただ前へと
踏み出していく
頂上に足をついて
ようやく分かった気がした
頂上の向こうに広がる景色
これだけは分かった
“ここはまだ頂上じゃない”と
永年の雪山を越えて
春を目指す
“小説家になろう”を『永年の雪山』に例えてみました。
いろんなお考えがあるとは思いますが、一例まで。
お読みいただきありがとうございました。