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偏食すぎる魔王様を胃袋で更生したら戦争が終わりました  作者: さかーん
外伝 女神の機嫌を直すために「二番手」として冒険する
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第14話 お騒がせキッチンの、憂鬱な船出

 二番手。

 その言葉は、まるで消化の悪い脂身のように、俺、向田健太の胸の中に居座っていた。


「……」

「……」

 謁見の間には、気まずい沈黙が流れている。俺以外の全員が、どう反応していいか分からない、という顔で俺とリラ様を交互に見ている。そりゃそうだろう。世界を救った伝説の英雄が、実は本命が逃げ出した後の「仕方ない代打」だったと暴露されたのだから。


「ま、まあ、健太!二番手でもなんでも、そなたの料理が我を救った事実は変わらんぞ!」

 最初に沈黙を破ったのは、ゼノ様だった。そのフォローに、アラン王も続く。

「そうですとも!結果が全てです!むしろ、そのカイ殿よりも、健太殿の方が我々にとっては…」

「フン、一番だろうが二番だろうが、腹が減ることに変わりはないだろう!」

 ガルバス将軍の、ある意味一番的を射た言葉に、その場の空気が少しだけ和らぐ。


 だが、俺の心は晴れなかった。

(最高の天才、カイ…。一体、どんな料理を作る男なんだ…?)

 見えないライバルの存在が、ずしりと重い。だが、枯れていく大地と、元気をなくしていく食材たちを見捨てるなんて選択肢は、俺にはなかった。


「…やります」

 俺は、リラ様に向き直って言った。

「二番手でも、代打でも構いません。俺は料理人だ。腹を空かせた…いえ、ご機嫌を損ねた女神様がいるなら、俺の料理で、なんとかしてみせます」

 その言葉に、リラ様は少しだけ驚いたような顔をして、やがて静かに頷いた。


 こうして、世界の命運を賭けた、なんとも締まらない冒険パーティ「チーム・キッチン」は、憂鬱な船出を迎えたのだった。


 ◇


「だから!なぜ旅の初日の食事が、干し肉と固いパンなのですか!健太殿の作る、温かいスープがなければ、私の士気は三割減です!」

「我慢しろ、ガルバス。今は非常時だ」

「そもそも、この鍋は神聖な旅にふさわしいとは思えませんね。材質の『神性共鳴率』が低すぎます。カイが用意した調理器具は、ミスリル銀と世界樹の枝でできていましたが…」

「いちいちカイさんと比べないでください!」


 旅の道中は、想像以上に騒がしかった。肉が食いたいと駄々をこねる将軍。調理器具にまでケチをつける巫女様。それをなだめる魔王様と人間王。俺は、いつもの百倍の気苦労を感じながら、旅の食糧計画を練っていた。


(あのカイって奴なら、こんな時、どんな顔をするんだろうな…)

 リラ様の話によれば、カイは常に冷静で、全ての物事をデータと理論で判断する男だという。こんなカオスな状況、彼なら匙を投げたくもなるだろう。

(いや、実際に投げたのか…)


 そんな珍道中の果てに、俺たちは最初の目的地「ため息の塩湖」へたどり着いた。

 湖面は、干上がった塩の結晶が、光を浴びて七色に輝いている。その中央には、長い年月を感じさせる巨大な石のゴーレムが、眠るように座していた。


「あれが、最初の食材『虹色に輝く岩塩』を守る、古代の守り人です」

 リラ様が、厳かに説明する。

「では、手はず通り、俺が…」

 ガルバス将軍が拳を鳴らし、一歩前に出ようとした瞬間、リラ様が冷たく言い放った。

「蛮勇は無用です、将軍。ゴーレムを破壊すれば、心臓部である岩塩も砕け散ります」

「む…では、どうするのだ!」


「待ちます」と、リラ様は言った。

「次の満月の夜、星の律が乱れ、ゴーレムは一刻だけ深い眠りにつく。その隙に、私が『静寂の儀』を行い、岩塩を譲り受けるのです。それが、古来より伝わる唯一の方法」

「待つですって!?」

 俺は、思わず声を張り上げていた。「世界は今この瞬間も、枯れていってるんですよ!そんな悠長なこと…!」


「…やはり、あなたには理解できませんか」

 リラ様は、心底がっかりしたような目で俺を見た。

「カイも、そう言いました。『非効率な儀式に時間を費やす意味が分からない』と。ですが、これは神聖な試練。人間の都合でねじ曲げていいものでは…」

「俺はカイじゃない!」

 その名前を出された瞬間、俺の中で何かが切れた。

「それに、俺は儀式なんてできません!俺にできるのは、料理だけだ!」


 俺は、リラ様の制止も聞かず、調理器具を広げ始めた。

「試練だろうがなんだろうが、相手がそこにいるなら話は早い!こいつがどんな味の好みか、俺が確かめてやりますよ!」

「正気ですか!?ゴーレムに料理を!?神聖な守り人を、そこらの食堂の客のように扱うなど、冒涜です!」


 リラ様の悲鳴をBGMに、俺はリュックから、ある食材を取り出した。

 日本から持ってきた、貴重なもち米の粉。そして、旅の途中で手に入れた、甘酸っぱい香りのする赤い果実。


「(見てろよ、カイ…。俺のやり方で、あんたより先に進んでやる…!)」


 反骨心と、料理人としての意地。そして、ほんの少しのヤケクソ。

 それらを胸に、俺は眠れる巨大な石の塊に向かって、調理を開始した。

「さあ、おやつの時間だ、ゴーレムさん!あんた、甘いものは好きかい?」

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