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幻想領域少女  作者: 雪鐘 ユーリ
調律者の章
101/110

#101 カナの日記(これまでのあらすじ)

日記形式で書かれたこれまでのあらすじです。

ストーリーのふりかえりなので本筋は進みません。


かならずしもその日のうちにその日のことが書かれたわけではないことにご留意ください!


 私はカナ。この世界とはちがうところからやってきて、エルフのメイドさんに乗り移ってしまいました。


 今でも頭が混乱してる。情報を整理するために、日記を残すことにします。


 エルフのカナちゃん。しばらく身体をお借りします。もとの世界にもどってきたら、どうかこの本を読んでください。

 あなたがいない間になにがあったのか、書いておきます。



⚫︎転移一日目。天気は晴れ。


 私の世界では十月十一日。


 この日、学校の図書室で『幻想領域より』と表紙に書かれた一冊のあかい本を見つけた。

 読書に夢中だったとき、少しはなれたじゅうたんの上にドスって落ちてきたんだ。


 まさかその本が〝エリュシオン〟と呼ばれる世界に通じているだなんて、このときは思いもよらなかった。


 ちなみにその本は勇者の日記として使われていた。中身は読めたもんじゃない。見たもの全部書いてる。手書きの文字の大渋滞。思いだすだけでめまいがする。


 コペラ村ちかくの草原に転移して早々、私はスライムの群れにボコボコにされた。


 それを助けてくれたのがリュウという名前の勇者さんだった。見るからにギラギラしていて、金髪だし、武器もってるし、正直すごく怖かった。


 私は勇者さんに村まで送ってもらった。

 屋敷の侍女のセネットさんが、私をつかまえてくれた。めちゃくちゃ怒ってたけど、帰りが遅い私を心配して村中を駆けまわってくれていたらしい。気性が荒いけど、すごく優しいひとだ。


 セネットさんに連れられて、私は自分の居場所に帰ることができた。

 そしてマヤという女の子に出会った。髪が炎のように真っ赤な、屋敷の主人。タメとは思えないくらいりりしくて、素敵な子だった。


 エルフのカナはマヤと親友だった。つまり私は親友の身体をうばってしまったんだ。


 マヤはひどくショックを受けてた。

 すごく申し訳ない気持ちはあったけど、見知らぬ世界に混乱するばかりで、どうすることもできなかった。ごめんね。


 エルフのカナは屋敷の屋根裏部屋に住みながら働いている。

 部屋はちょっとカビくさいけど、窓から見える景色はきれいだし、居心地はすごくいいと思う。


 眠るとき、ふいに本の内容を思いだした。

 思えばこれは奇跡だったと思う。大半を読み飛ばした本のなかで、マヤに関する記述だけは記憶に残っていたんだ。


 もともとその本をファンタジー小説のひとつとして読んでいたから、マヤという登場人物に対する粗雑な扱いが鼻についていた。


 だから事前に知ることができたんだ。

 このままではマヤが死んでしまうって。



⚫︎転移二日目。天気は晴れ。


 私のメイドとしての初仕事がはじまった。力仕事が多いけど、エルフのカナが日頃から鍛えていたおかげでそこまでキツくはない。

 でも薪に火をつけるのは上手にできなかった。あれは苦手だなあ。


 お風呂を洗うついでに湯船で身を清めていると、いきなりマヤがやってきてびっくりした。


 マヤは私を許してくれた。なによりも嬉しかったのは、彼女が友だちになろうって言ってくれたことだ。


 私に友だちなんてひとりもいなかった。


 孤独にもすっかり慣れていて、さびしい気持ちすら忘れていた。だからこそ、そう言われたときはおどろいたし、嬉しかったし、めちゃくちゃ泣いた。


 一生大事にしようって思った。マヤの死はなんとしてでも止めなくちゃいけない。


 お昼になって、ジンさんという執事の方に出会った。料理がすごく上手だった。


 どうやら私は〝ひょうい病〟というものらしい。漢字がわからん。オバケがよくするやつだ。


 ジンさんは私の事情を理解してくれていて、親身になっていろいろ教えてくれたよ。もとにもどったら彼を頼ってね。


 私は二週間くらいでもとにもどるらしい。せっかくマヤと友だちになれたのに。本音を言えばもう少し一緒にいたい。


 この世界は勇者の本にえがかれた幻想。

 私は本に選ばれてこの世界にやってきた。書架またはホルダと呼ぶ。

 書架には本の結末を変える役割がある。


 私には無理だ。私はマヤさえ助けられればそれでいい。

 

 彼を信用して、マヤのことを打ち明けたよ。そしたらジンさん頭痛になって、正直すごいあせった。老年だし。大丈夫なのかな。


 そのあと勇者さんとその仲間がきた。

 めちゃくちゃ美少女なミラさんと、犬の獣人のサーベラスさん。三人とも冒険のプロみたいでかっこよかった。

 ここにマヤが加わるのかとおもうと、たしかになっとくだ。


 本当に、本に書かれたとおりに時間が進んでいるみたいだった。

 でも屋敷で旅に誘われたのは、マヤじゃなくて私だった。未来がもう、なにかの干渉で勝手に変わってたみたい。


 私とマヤは明日、勇者さんたちと北の森林にある塔をめざすことになった。

 きっとそこで私たちはおそわれるのだろう。


 すごくコワいけど、ぜったいにマヤを助ける。勇気!



⚫︎古代の意思からの伝言


(中略)


 眠くなってきたので、結論を述べる。

 本は古代人がのこした破滅への備えの一つだ。ひとりの人間が私欲のために始動していい代物ではない。


 勇者を止めろ。万象を生み出す前に。

 魔王を守れ。混沌に飲まれぬために。

 そして、女神なる者を探せ。

 勇者に本を与えた者を見つけなければ、世界は実在すら曖昧な闇のなかを永遠に彷徨さまよい続ける――ことになる。


 それと一つ書き忘れていた。これが一番重要――――――……



⚫︎転移五日目。


 ――らしいけど、私はマヤを助けられた。少なくとも、それだけで私は満足。


 もうすぐもとの世界に帰るらしい。


 正直、帰りたくない。マヤとずっと一緒にいたい。でもそれがあの子のためじゃないことは、ばかな私でもわかる。


 不思議な経験ができて楽しかった。マヤのことは死ぬまで忘れない。ズッ友でいてね。


 そしてジンさんとセネットさん、お世話になりました。どうかお元気で。

 じゃあ、おやすみなさい。



⚫︎転移六日目。


 結局、私は帰らなかった。この日のことは思いだしたくもない。



⚫︎転移九日目。天気、たしか晴れ。


 気づいたら屋敷の菜園で農作業してた。ほんとにこの世界意味わかんない。パニックになって、気をうしなった。

 病院に運ばれた。窓のない部屋。


 アルレンさんに出会って、この世界について教えてもらった。



⚫︎転移十日目。天気、不明。


 ゼノさんに出会った。

 今日もカウンセリングするのかと思ってリラックスしていたのに、自白剤を注射されて、本について、自身について、すべて尋問された。


 むしゃくしゃして、怒りにまかせて病室を破壊した。



⚫︎転移十一日目。天気、晴れ。


 リミちゃんに出会った。すごくかわいいピンクの子だよ。

 急だけど、旅に出ることになった。マヤも一緒だ。それだけが私の支えだった。


 自覚者にはふたつのおおきな勢力がある。

 レイメイ(漢字)と、後援会。勇者や書架をめぐって対立してるそうだ。私とマヤはレイメイの庇護下に入ることになった。


 でも私はもう、この世界でなにを信じればいいのかわからない。



⚫︎転移十二日目。天気、晴れのち魔法の雨。


 いま、九日目からの日記をまとめて書きおえたところだ。

 リミちゃんに読ませてって頼まれちゃったから、今後はあまりネガティブなことは書かないように気をつけます。


 それにしたってろくな目にあってないなって思ってたら、今日は聖王国騎士団のムサシさんに馬車を吹っ飛ばされた。この世界なんなの? 蛮族しかいないやん。


 彼とのたたかいで、私は書架の役割がいかに重要なものかを自覚した。

 周期がある世界は悲しみしか生まない。繰りかえしの世界は、私の周期で終わりにする。


 旅の中間地点には宿屋があって、その地下には大浴場がある。すごくよかった。

 ちょっとだけ、リミちゃんにはこころが開けた気がする。



⚫︎転移十三日目。天気、晴れ


 午前中は宿屋で、アルレンさんの中継配信を見た。

 迫力のある戦闘だったけど、動きがはやすぎてなにしてるのかよくわからなかった。


 それよりもだ。

 勇者さんが私のことを恋人だと叫んだ。そんなわけないのに。それからしばらくリミちゃんは元気がなかった。ちょっと心配。


 その後、宿屋を出発した私たちは黒い渦の壁を見た。いつ見ても怖い。


 エルフのカナちゃん、あなたはきっと強いからすぐに克服できるかもしれない。それでもどうか、黒い渦には近づかないでほしい。


 勇者さんが動きだすと同時に、嵐も北に動きはじめた。



⚫︎転移十四〜十五日目。天気は晴れてるけど寒い。


 コペラ村を発ってからだいぶ進んだ。北に向かうほど気候が移り変わるのを実感する。ネコのローブじゃ少し肌寒い。

 マヤとリミちゃんと、四六時中まんじゅうみたいになってた。

 

 初めて王都にやってきた。カメの甲羅みたいな魔法の防御壁が、王都全体をおおってる景色は圧巻のひとことだった。


 王国の中枢なだけあって警備も厳重だ。コペラ村の兵士たちよりも重装備で、冷酷そうな眼差しをしてた。


 私たちはアルレンさんの邸宅にやってきた。

 そこはレイメイの本拠地なんだ。アルレンさんの命令に応じて、多くのメンバーが私を守るために集まってくれた。


 マヤが王様と謁見したんだって。でもそのあと、邸宅に帰ってこなかった。心配した私は王城に乗りこんでしまった。

 門番のひとたち吹っ飛ばしちゃったけど大丈夫かな。


 ちなみにマヤたちに危害はなかった。王様が守ってくれたのだ。

 本当によかった。



⚫︎転移十六日目、天気は晴れ。


 私たちは後援会の首長、ソウマ教皇と謁見することになった。

 敵対勢力とは思えないくらい落ち着いた感じのおじいさんだったけど、植物に変わる神罰をうけて困っているらしい。


 私はそこで後援会によって記録されていた多くの周期を見た。こんなになんども繰りかえしてきたのか。

 この世界のおぞましさを知ってしまった。そして勇者さんの邪悪さも。


 私は教皇と約束した。

 私は彼の神罰を解く。

 後援会は今後私たちに敵対しない。

 守ってくれるかな。


 そのあと、ミラさんがやってきた。ミラさんは教皇の娘さんらしい。こころあたりがないのに、すごい敵視されたのがショック。


 ミラさんは勇者の伝言を伝えた。もうすぐ魔王が復活すると。

 突拍子もない話だと思った矢先、空を禍々しい光線が貫いた。魔王フューリィが復活したんだ。


 でもおどろかないで聞いてほしい。

 私、フューリィちゃんと友だちになったんだ。いや、私がそう思ってるだけかもしれんけど……。


 だけどフューリィちゃんは達観した様子で、自分はもうすぐほろびるって言ってた。

 そして本人の言ったとおり、フューリィちゃんは死んでしまった。私を守るために。


 魔王が死んでも世界は閉じはじめる。みんな絶望的な表情をしてた。

 それとこのとき、マヤが自覚者に変わった。原因はわからない。


 勇者さんが本の結末を加筆して、私はもとの世界にもどることになった。どうにかみんなを救えないか、ギリギリまで考えたすえに、私は魔王になった。勝手なことしてごめんなさい。


 それが私が経験した最初の周期だよ。

 時間はまだあるから、このまま次の周期についても書いておくね。



⚫︎転移一日目。


 転移したのは私が魔王になった直後の時間だった。どうやら魔王が死ぬと魔王が誕生した瞬間に書架が飛ぶみたい。


 知ってのとおり本の結末は私自身の死の回避。


 その日の夜、アトリエの総責のカノンさんと出会った。すごく波長が合う感じで、仲良くなれそうだった。


 私を守るために、アルレンさんが魔王になりかわることになった。実はこれ、うそなんだけどみんなには内緒にしてね。



⚫︎転移二日目。


 今日は私が死ぬとされる日だ。

 さきに予定を書いておこうとおもう。


 今日はカノンさんと出かける。目的は勇者さんを見つけることだ。どうしてもたしかめたいことがあった。


 夜になった。ひとまず無事に帰ってこれた。

 衝撃の事実をいろいろ知ってしまって、考えを整理する時間がほしい。


 私は、この世界の誕生に関与しているらしい。

 現実で勇者を助ければこの世界は誕生しない。

 助けなければ誕生する。


 そんな責任重大なこといきなり言われても、どうすればいいのかわからない。


 それとソウマ教皇を植物に変えたのは、勇者さんじゃなかった。犯人を見つけなければならない。


 そのあとカノンさんのお家にもおじゃました。すごいところだった。


 もうすぐ深夜になる。今日はたぶん寝られないだろうな。レイメイのみんなも気を引き締めて私を守ろうとしてくれている。


 生きよう。彼らに報いるためにも。


 明日の日記も無事に書けますように。



⚫︎転移三日目。


 無事だった。フューリィちゃんのコアが爆発して死にかけたけど、マヤが守ってくれた。


 それでも休まらない時間はつづく。王国騎士団のアインさん率いる軍勢が、アルレンさんの邸宅を包囲した。


 私は緊急で、邸宅から脱出することになった。リミちゃんとはしばらくお別れになる。


 辺境の宿屋まで転移して休んでいると、コペラ村のギルがやってきた。そして伝えてくれたのだ。コペラ村はゴーストの襲撃を受けた。



⚫︎転移四日目。


 私たちは万全の状態で出発した。

 コペラ村につくと、その様相の変貌ぶりにおどろいた。なにもかもひねくれてるんだもん。


 マヤの屋敷はオバケ屋敷になってた。あんな怖い思いはもうごめんだ。


 不思議な出会いがいろいろあったよ。

 それと北の森がきのこに変わっちゃった。犯人はカナ、あなただから。私の代わりに責任取るんだよ。


 冗談はさておき、そこでヘネちゃんという女の子と友だちになった。気弱な子だから、親切にしてあげてね。



⚫︎転移五日目。


 この日、深部への道が開いた塔の探索をした。ヘネちゃんも一緒だ。

 この純白の塔、ひとつが巨大な魔導具らしい。古代人の技術のたまものらしいけど、すごい文明があったんだよ。


 古代文明。今よりもはるかに発展した、魔法と科学が融合した世界。


 そこが、すべてのはじまりだった。塔の最深部には、あかい本があったの。私が触ったら、こわれちゃった。

 ごめんだけど、私はそのおかげでこの世界にやってこれた。

 今思えば、後悔はない。


 それと、シエルっていうスライムの女の子と友だちになったのもこの日だったよ。臆病な子だから、仲良くしてあげてね。


 その帰り、私はサーベラスさんの襲撃にあって負傷した。

 借り物の身体を傷つけてしまった。ごめんなさい。


 ハイドの声に支えられて、それでも書架の役割をうしなわずに済んだ。


 そうして三周目の周期がはじまったんだ。



⚫︎転移一日目。


 理由はわからないけど、時間が巻きもどったのに日記が残ったままだった。ハイドも理由はわからないって。

 私には性質反転のちからがあるから、それが作用したのかな。それとも、ハイドが過去に文字をつづったから?


 ともあれ、この幸運には感謝したい。こうしてみんなにメッセージを残せるのだから。

 

 二周目の五日目から、一日で終わってしまった三周目のことをこれから書き残しておく。


 だいぶ日が経ってしまったから、読んでもらえるといいけど。


 まずこの日、私は現実で危険な状況にあった。

 エルフのカナちゃん、あなたが基地の地下から脱出してくれたから覚えているはず。


 三周目の時間は最初まで巻きもどっていた。

 セネットさんは自覚者じゃない。だから私のことを忘れてしまっていた。かなりショックだった。


 自覚者って未来がわかるという優位があっても、それ以上につらいことがたくさんある。


 ひととして収まる領域から外れてしまったような感覚になることもあると思う。そういうときは、同じ境遇のひとと支えあってね。


 あなたのことを忘れないひとはかならずいる。そのことを覚えておいてね。


 たしかそのあと、私は北の森にやってきたんだ。

 マヤの働きがあってか、きのこの森はそのままだった。ちょっと責任感じる。


 そのあと勇者さんと連絡を取ることになったんだけど、そこにサーベラスさんがやってきた。

 なにかが彼にささやくと、彼は凶獣化して私たちをおそった。


 どうにかむかえうったけど、そんなこと転移魔法を使わなければできないはずだ。


 きっとマヤが伝えてくれていると思う。

 でももしそうじゃないなら、すべての自覚者に警告してほしい。

 なにかが水面下で暗躍してる。私はこれからその正体を探りにいくつもりだ。


 もうなにも怖くはない。私がみんなも世界も助けてみせる。がんばる!


 これが本当に最後。

 私と関わってくれたすべてのひとに、こころからのありがとうを。


 そしてどうか忘れないでください。江利田カナが、たしかにここにいたことを。

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