〜1話から3話〜
ーー家族、友達、一緒にいて分かり合える人、笑い合える人、私にそんな人はいない。なぜなら私は使用人こと『奴隷』だから。
当然名前何てない。いや、知らないのかな?
自分の親が誰かも、どこにいるかも、存在するのかも分からない。
主人達からはひたすら仕事を押し付けられる。失敗なんてしたら殴られ、蹴られ、酷い時は骨を折られる。断るなんてもってのほか。ご飯も作って余ったほんの少しの食べ物。食べない日もたくさんある。それが私のここ3年間ぐらいの人生だった。
2歳か3歳までは孤児院で暮らしてて、普通の子とは違って不気味な怪物みたいなのが見えたから忌み嫌われて、避けられてはいたけど、それなりに過ごせていた。いつの日か主人達に誘拐され、こうして奴隷を続けている。
ーー私の人生が変わったのは、この事件からだった。
<1話 救世主>
ーー憑魔、それはこの世界を魔で埋め尽くし、乗っ取ろうとする奴らが創り出した怪物。奴らが所持する核を身体に填めることで生成される、凶暴化した生物。そしてまた、その怪物と戦い、人々を守る者達。命を賭けた戦いの中で生まれる信頼関係、友情、絆。彼らによる壮絶な戦いにより世界の運命は決まってゆくのだった。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
(なん、で、かいぶ、つが、いる、の…?)
間違いない、昔見た怪物と同じだ。不気味で何か体に填まってる。たぶん私にしか見えてない。
逃げなきゃいけないのは分かってる。でも、逃げたらー。
殺されるかもしれない。
「おい、逃げようとしてんのか?どうなるか分かっているんだろうな?」
このヤクザ集団のトップの男が詰め寄ってきた。
(バレた…、どうしよう!?)
「助けてくれ!怪物が出た!!」
男の後ろに怪物が迫っている。
「ぐぁあ゙あ゙あ!!」グチャ…ッ
汚い叫び声と共に男の腕が噛み食われた。慌てて目をそらす。
(え、…?私以外の人にも怪物が見えるの??!)
「気をつけろ!!この怪物、人間食うぞ!こいつを囮にして速く逃げるんだ!」
男達は私を身動き取れないように壁に縛り付けて逃げていった。
(やばい、来る!殺されるっ!!誰か助けて っ!!)
ーっっ!だめだ、食われた。もう死……
ーーシャキン、パキッ……
ザッ、ドシャッ…
「生きてる、よね?」
「あぁ、重症だがな。」
「何でこのブラック犯罪集団に子どもがいるんだろう?」
「俺には分からねぇよ。変な名前付けんな。紅花はこの子連れて先に学園戻れ。治療室行ったら治してもらえるだろ。」
「橙輝は何するの?事件の調査?」
「その通りだよ。鷲崎に頼まれたんだ。はぁ、めんどくせ〜」
「ほら、めんどくさがんないで頑張って!あと鷲崎じゃなくてちゃんと『先生』つけなさい!」
「ちぇ〜」
ーーここは中高一貫白鷺魔法学園。学園とはいっても、普通の中学校、高等学校のような授業はしない。憑魔と戦う生徒達が通う、魔法学校である。義務教育である中学までは学園が普通の公立中学校に通っているという偽装をしてくれる。無論、戦う身であるため、命の保証はない。
(あれ?死んでない…?ここは?)
「意識が戻ったみたいね。紅花ー!」
「はい〜。え、!ほんとですか?!ありがとうございます!!」
「この子の親探すの大変そうだね。現場に犯罪組織の奴らとこの子しかいなかったんでしょう?」
(誰だろう?私に、親は、たぶん、いない……)
ここに奴らはいない。それにここはあのアジトじゃない。なぜならここは、中高一貫白鷺魔法学園なのだから。
「はい…。事件の調査は橙輝に頼んだんですよね?でも、この子のことを知るならこの子に聞くのが1番速いのでは?」
「そうね。だけどこの子がどこまで自分のことを分かっているのかも、奴らの正体を知っているのかも分からないのよ。」
ーーガチャ……
「橙輝…?どうしたの?そんな顔して……。」
<2話 奴隷>
「事件のことは大体分かった。この子は…奴らに使われていたんだ。『奴隷』として……。おそらくは重労働をさせていたんだろう。こんな小さな子どもに。」
「え、……?」
思いもよらない事実に動揺を隠しきれない紅花。だがこの事実はここで終わりではなく…。
「あの、ここは、どこ、ですか…?」
尋ねながらも目の前にいる人達が誰か分からず、殺されないか心配になる。
「ここは、中高一貫白鷺魔法学園。簡単に言うと憑魔を倒すための魔法を勉強するところね。」
「憑魔…?魔法…?」
この人が何を言っているのかさっぱり分からない。
「それはあとから聞けばいいわ。私は養護と高2を担当している鷲崎華梨菜。あなたの名前は?」
「名前…、ないんです。17番って呼ばれてた…。あるかもしれないけど、私は…知らない…。」
あるかもしれないとは言っても、全く心あたりはなかった。
「そっか。分かった。じゃあ何をしてた?」
(してたこと、か…。色々やってたんだよね…。)
「主人達の表向きの仕事全般、掃除から洗濯、料理まで色々やっていました。たまに壊れた物の修理とかも。でも、私の存在を世間にバラしてはいけないので、買い物とかに行ったことはないです。」
そう、だから私は、ここ3年ぐらい外に出ていない。1回も。
「強制的に、罰もありで、か?」
先程言っていたことを確認するように彼は私に尋ねた。
私はコクリと頷いた。そして言葉を続ける。
「私は3年ぐらいあそこに居ました。その前は孤児院にいて、誘拐…されたんです。よく暴力をふられたし、ご飯もちゃんと貰ったこともない。簡単に言うと『奴隷』ってやつで……。」
「そうか。」
うなだれながら答えられる。
「でも、そんなに心配しなくて平気です。3年も奴隷生活してたら慣れたので。もう、辛さも感じないくらい。」
(最初は辛くて辛くて逃げたかったけどその方がより酷い目に合うって分かったしね。)
ーーガチャ……
「やっほー!…おっ!意識戻ったみたいだね〜。おはよーう!僕、蔵田桂。よろしく!紅花、それで何か分かった?」
「よくこの状況でテンション上げて入ってこれるわね、桂。少しは配慮を覚えたら?」
(ほんとに誰なの?この人達。)
「しょーがないでしょ!今どんな状況なんだよ?」
「しょうがなくない!それは…この子に説明してもらった方が速いかな。ねぇ、話せる?」
「うん……。」
私の説明で理解してもらえるのだろうか。こんな、非現実的な出来事を。
「私は親を知らなくて、物心ついた頃には孤児院にいて。怪物が見えるという理由で忌み嫌われていた。ある日、誘拐されてあそこに連れて行かれた。重労働をさせられて時には暴力をふられたし、私の存在を世間にバラしてはいけないから、外に出たこともない。」
「そういうことだったのか。ごめん、紅花。」
「私じゃなくてこの子に言って。随分と辛い人生だったのね…。かわいそう…。ちなみに、憑魔がどこから来たか分かる?」
「??」
(どういうこと?)
「そこは俺が説明する。奴らはこの子の前に何人も使ってたらしい。奴らの内の1人がエルスピリクトによって憑魔にされたらしい。」
(える、すぴり、くと?、ん??)
<3話 問題教師>
「え、じゃあ、エルスピリクトがそこにいたってこと?!」
「いや、痕跡はなかった。でもおそらくいたんだろう。そうでなかったら憑魔が移動している間に目撃されるはずだ。」
「そっか。痕跡残さずに人間憑魔にしていなくなるなんてどんだけなのよ、エルスピリクトは。」
(どういうこと?)
何回同じことを思っているのか分からない。それぐらい、私の中の常識から外れていた。
「ねぇ、怪我は大丈夫?酷かったけど…。」
(あ、そういえば殺されそうになったんだ…。でも、治療してもらえてる。そんなに痛くない。)
「えと、大丈夫、です。」
「良かった。そういえば井川は?」
(誰?)
「なんかさっき教室で変な板書してましたね。私が聞いたら『あとでのお楽しみ〜!』とか言ってましたけど。」
「何が楽しみなんだか。大事な時に来ないのね、あの人は。」
ーーガチャ……
(誰か来た?)
「噂をすれば!井川、変な板書して大事な時に来ないというのはどういうこと?」
「変な板書とは?俺は、生徒のためになる、板書を、してたんだけど。」
「紅花が言ってたことをそのまま言っただけだけど?」
「何が変な板書だって?紅花。紅花のためを思って板書してあげたんだけど〜?」
(この人アホっぽいなー。まぁ、初見で決めつけない方がいいよね。)
たが、そう思うのもしかたない。実際アホなのだ。
「そんなこと言いましたっけ?と、とりあえず本題に入ってください。この子意味分からなさそうな顔してますから。」
「それもそうだね。初めまして、俺の名前は井川海斗。よろしくね~!と、君のことを支配していた連中は警察にお願いしたよ。そいつ等は刑務所行きという訳だ。それから、君の親は今のところ分かってない。だからとりあえずは白鷺魔法学園に居るといいよ。あとでDNA検査してくる。あ、そうだ、君憑魔が見えるんだっけ?」
やっぱり私の親は分からないようだ。
「憑魔ってあの怪物ですよね?それなら、私、見えます。昔から見えるせいで忌み嫌われてた…。」
「やっぱりね〜。憑魔が見えるのは俺達みたいなのだけなんだけどな。君も魔法師なんじゃない?」
(私が、魔法、師?どういう、こと?)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回、〜4話から6話〜
ーあらすじー
井川に魔法師なのではないかと言われた少女。明かされる、少女の正体!彼女が選ぶ道は…?!
個性豊かな仲間達が描く、魔の戦い、開幕!!