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場所が変わって、どこかの採掘現場にやってきた。
そこには無数の大きな重機があり、まるで反重力で浮いているような乗り物がいくつも空を移動している。その背景の空は淡いオレンジ色だ。そこに白い雲や黒い雲がうっすらと流れている。
そこへ飛んできた赤い機体から、白いヘルメットをかぶった人物が降りてきた。
「よう、鉱山長どの。今回の有機鉱山の規模や質はどんな感じだったい?」
「そうだな……。可もなく、不可もないと言ったところか……」
答えるなり、鉱山長がタバコを口に咥える。
「この鉱山一つで五世代は暮らせそうかい?」
「いや、掘り尽くすまで一〇世代は暮らせそうだぞ」
「それは大当たりじゃないか。そんなに大きいのか?」
「違う。鉱山の動きがかなり速いんだ。動きの止まる大激震の日が過ぎるまでは、安定した無機大地に街を作れそうもないからだよ」
「つまり無機大地に街を作っても、今はあっという間に離れてしまうのか。どのくらいの速さだ?」
「年、三〇〇キロ以上だ」
「三〇〇キロ以上? そんなに速いのか?」
「だから判断に困ってるんだ。この鉱山は規模も質も優良だ。だが、動きが速すぎて、そのデメリットが無視できん。このまま採掘を続けるか。それとも思いきってやめるか。付加価値の高い鉄の水の採掘だけに留めるか……」
鉱山長がそうぼやいて、ぶわぁ〜っと煙を吐き出した。
「そんなに動きが速いと、ガイア理論の宗教団体も集まってきそうだな」
「有機大地が生き物だと言ってる連中か? たしかに人型と思われる有機鉱山は数多く見つかってるが、全体像は誰も見たことがないんだぞ」
「そりゃあ光が届かないからな。せいぜい千数百キロしか飛ばないというし……」
「それは可視光に限った話だ。短い波長の光は四百キロしか飛ばないぞ。それに対してこの鉱山の厚さはおよそ三千キロ、長さに至っては一万キロはあると見積もられてる」
「その大きさは電波測定の結果……だっけ?」
「そうだ。電磁波は波長によっては何十億キロも飛ぶことが確認されてる。そのおかげで不完全だが、だいたいの形や大きさは推測できるし、遠くと通信もできる」
「それで、この鉱山も人形なのか?」
「過去、記録のない形だ。有機鉱山だけなら人型の可能性はあるが、その下の無機大地との間に幅の狭い金属鉱山がある。これはかなり硬いので採掘できそうもないし、予算の都合もあるので全体像はつかんでない」
そう言って、鉱山長が観測データを見せてきた。
「これは前傾姿勢で何かに乗ってるような形だな。柵にでもまたがってるのか?」
「下の金属鉱山が柵のようには思えないが、不思議な形ではあるな」
「もしも有機鉱山が生き物だとしたら、これは何をしてる姿なんだ?」
「おまえも生き物だなんて非科学的なことを言うなよ。大地を擬人化してイメージするだけなら俺も嫌いじゃないが、そんな非科学的なことを本気で言ってる連中なんて、バカバカしくて相手にしたくねえよ」
鉱山長の表情が、どんどん不機嫌そうなものへ変わっていく。
「鉱山長も頭が固いなぁ」
「おいおい。全長が一万キロを超える生き物だぞ。そんなものがいると思うか? 生き物だとしたら、何を喰ってんだ? 寿命はあるのか? どうやって子孫を増やす。周りとは、どうやってコミュニケーションを取ってんだ? 有機鉱山の間は何十万、何百万キロって距離があるんだぞ。光が届かねえだろうが!」
「いや、届くだろ。波長の長い電磁波は、無限に飛ぶらしいって話じゃないか。有機鉱山ほど大きな生き物だったら、無限に飛ぶ波長で物を見てるんじゃないか?」
「……ん? その可能性はある……のか?」
文句を言ってた鉱山長が、思わぬ反論で固まった。
「有機鉱山が生き物だったら、無限に届く電磁波を光として見たり、電波やテレパシーとして通信に使ったりしてるんじゃないのか? 他にも未知のコミュニケーション手段があるかもしれんが……」
「あ、ああ……。なるほど、コミュニケーションの問題はクリア……だな……」
あっさりと一つ論破されて、鉱山長が呆けた表情になっている。
「それにしても光が無限に届く世界……か。そんなもので見える世界では、どんな光景が広がってるんだろうな?」
「それは想像もつかないな。そもそも空は何色だ? 無限に遠くまで見えるから黒かな? いや、光が千数百キロしか届かないこの世界の空でもオレンジ色に染まってるから、背景として何かの色が広がってるのだろうか?」
鉱山長たちが、そんな話題に花を咲かせている。
その間も鉱山では重機が採掘を続け、掘り出した資源を空を飛ぶ大きなコンテナに積み込んで運び出していた。