迷子
「ビエェェーー! ママァー! ビエェェーー!」
夕闇が濃くなる時刻、広い墓地の中に幼い子供の泣き声が響き渡っていた。
大方、里帰りしてきた親に連れられて来た子供が墓参りに来て、親と逸れて帰り道が分からず迷子になったんだろうね。
泣き声を頼りに泣いている子供の下に歩を進める。
案の定、袋小路の奥で4〜5才くらいの男の子が泣き叫んでいた。
「坊や、何処の子だい? って、あんた謙太かい?」
「ビエェェー、え? あ! ばあちゃん!」
末の息子のところの孫の謙太だったわ。
「お父さん達と墓参りに来たの?」
「うん! そしたらね、こんな大きな蝶々がいて、捕まえようと追いかけたら、皆んながいなくなっちゃったのー」
あたしに出会えて安心したのか謙太は饒舌になり、左右の掌で見つけた蝶の大きさを表した。
「アハハハ、ものは言いようだね。
お父さん達もあんたを探している筈だから帰ろうか?」
「う、……うん、お、お、怒られるかな?」
「ちゃんと謝るんだよ、婆ちゃんも一緒に謝ってあげるから」
「う、うん」
「さ、帰ろ」
帰ろと言いながら謙太に手を差し出す。
「ばあちゃん、おんぶ!」
手を引こうとしたらおんぶをせがまれたので、しゃがんで謙太に背を向けた。
謙太をおんぶして歩く。
「あんた重くなったね、何歳になったんだい?」
「5才」
耳元で「ごさい」と言いながら謙太はあたしの顔の前で片手を広げて見せる。
「そうかい、そうかい、大きくなったんだね、前におんぶした時はまだ3つだったからね」
幼子が去年亡くなった婆ちゃんに背負われて帰路についた。




