9話 着せ替えられちゃいました?
「……ふふ」
ぼくは昨夜の報酬を思い出してニヤニヤしてしまう。
なにせ一気に5人の冒険者から金貨をいただき、350枚から620枚に増えたからだ。
さっそく金貨を20枚だけ換金したところ1枚35000円で売れた。
つまり、ぼくは一瞬にして70万円を手に入れたのだ。
「おっ真央くん、今日はなんだかご機嫌だねー? そんなにお姉さんとお買い物に行くのが嬉しいのかなー?」
「いえ。お金を稼げたのが嬉しくて」
今日も今日とて金剛さんと【剣闘市オールドナイン】を散策していた。
ちなみに今日の彼女はしっかり帯剣していて、背中には大きな盾を背負っている。
「ほー? まあ冒険者になるとけっこうお金って稼ぎやすくなるかもね? その代わり命賭けだけど……って、真央くんのステータスなら心配ないかな?」
「ど、どうでしょう?」
「ここは異世界だもんね。その警戒心はとってもいいと思うよ」
最初にぼくの警戒心を解くために主武器を置いてきた人の言葉じゃない。
なんて無粋なことは口に出さない。
だって今日は金剛さんが行きつけの武器・防具屋さんに連れて行ってくれるからだ。親切に案内してくれる彼女の機嫌を損ねたくはない。
「ほら、真央くん真央くん、こっちにお勧めの店があるのよ。籠手を買いましょ!」
「ナッ……クル? ぶ、武器も欲しいですけど、防具もそろえてみたいです」
「あー、防具はねー……なかなかステータス値が上がるものはないからなあ」
「そんなにですか?」
「稀にステータスに影響する防具もあるけど、すごく分厚かったりね? ステータス防御が1上がるって、相当の防御力だって真央くんもわかってるでしょ?」
「ま、まあ……軽く石を投げつけられても、血が出なくなるレベルですもんね……」
「だからステータス補正のある防具はかなりレアだしお高いの。武器は力+1とかたくさんあるのにねー」
「防具は高いのかあ……」
予算が間に合うか心配である。
いや、70万円もあるからきっと大丈夫!
「でもね? 防具は大丈夫よ。お姉さんがとっておきをプレゼントしちゃうわ!」
「えっ!? わ、わるいですよ……そ、そんな……」
金剛さんは店先で豪華な袋に包まれた何かを渡してくれる。
「冒険者デビュー祝いよ? 特別製なんだからね? 大事にしてね?」
「も、も、もちろん! 絶対、大切にします!」
「うんうん、真央くんはいい子だね。じゃあさっそくお店の試着室で着てみようね?」
「はい」
この時のぼくは金剛さんの真っ黒い笑みに全く気付けていなかった。
◇
金剛さんが案内してくれたお店は、わりとこじんまりしていた。
しかしその扉だけは異彩を放っている。金と銀の美しい金属細工があしらわれ、ステントグラスがふんだんに散りばめられている。
吊り下げられた看板を見ると【金海が眠る扉】と記されていた。
いざ中に入ってみると、確かにそこは財宝の海が広がってるみたいで、雑多な物が所狭しに陳列されている。用途不明の品から禍々しいオーラを放つ呪物、綺麗な輝きを放つ宝石まで、目を惹かれる物であふれている。
壁に多くの武器が掛けられていて、カウンターには薄い笑みを浮かべた店主らしきの男性が鎮座していた。
「ようこそ【金海の眠る扉】へ。やあ、コンゴウさんじゃないですか」
「やっほーゴチちゃん! 友達の武器を見繕いにきちゃった」
「コンゴウさんのお友達……? 貴女様自ら面倒を見るなんて珍しいですな」
ゴチちゃんと呼ばれたその店主は、艶やかな短髪を一撫でして驚く。
よくよく見れば彼の頭上には『御土出 彗蓮Lv7』と表記されていたので、彼も冒険者のようだ。
Lv7だと……キルして復活させれば……一発で金貨220枚……。
ぼくはそこまで思考してフルフルと首を振る。
「ゲーム時代はゴチデスだったので、ゴチデスと呼んでいただければと存じます」
こんな礼儀正しい人をそういう目で見ちゃいけないぞ。
というか、さらっと金剛さんに友達と呼ばれたのがちょっとだけくすぐったい。
「ゴチちゃん、まずは試着室を借りてもいい? ちょっと真央くんに着替えてほしくて」
「どうぞお構いなく」
わあ。
入店早々、金剛さんは色々と強かった。
そしてやっぱりゴチデスさんは優しい人だ。
店内の服を試着するならまだしも、持ち込んだ服を着るために試着室の使用を許してくれるなんて……。
金剛さんとは付き合いが長いのだろうか?
「じゃー真央くん! さっきプレゼントしたやつ! 着てみて?」
「やっ……でも何か買ってからの方がいいんじゃないですか……?」
「何言ってるの。服と似合う武器を選ぶためにも、先に服装を整えないとね?」
「あ、なるほどです」
こうして妙に着替えを催促してくる金剛さんに押され、僕は試着室に入った。
「…………で、どうして金剛さんまで試着室に入ってるのですか?」
「えっ、だって真央くん、この手の服って着たことあるの? けっこう、着る手順が複雑だよ? 私がパパっと教えちゃうから、ね?」
「なるほどです」
やっぱり冒険者たちの装備ってやつは自分の命を守る分、見た目ではわからない複雑な構造になっているのだろうか?
そう思いながら金剛さんからもらった豪華な袋を丁寧に開ける。
すると、その中から出てきたのは————
「えっと……これ、本当に貴重な装備なのですか……?」
「そうよ? 【嘆きの館】ってダンジョンのボスドロップで手に入れたの。【幽霊男爵フォーエンハイム】が、『これを着せたかったんだああああ』って叫びながら落とした。これは多分、小さめのメイド服? うーん、でもどちらかといったらゴシックロリィタ調のショートドレスかな?」
「メッ!? メイド服!?」
「正式名称は【幼き令嬢の日々】ね? これ、こんなにヒラヒラなのに防御+2もあるのよ? 鉄製の全身鎧と同じ防御力補正の優れものなの!」
「そ、それはありがたいのですけど……あ、あの……メイド服ってこんなに肩回り、はだけてるのですか……?」
「さあ? でも真央くんなら似合うかなーって」
ニッコニコの金剛さんを前にしたら、ぼくに選択権なんてなかった。
「はい脱いでー」
「は、はひ」
「はい、ここはこうしてー、ヘッドドレスはズレないようにー」
「あっ」
「はい、ジュエリーリボンは角につければちょうどいいかな?」
「わっ」
「真央くん……おっきいのに……つけてないの!?」
「うっ」
「これは後でランジェリーショップも行かないとね。まずは脇下からしっかり寄せて、整えて……はいっはいっ」
「あっ……くっ……く、くすぐったい……です」
「はい、はい、はーい! よくできました!」
金剛さんは僕を着せ替え終えると、子供にするみたいにヨシヨシと頭をなでてきた。
もはやぼくは羞恥心でいっぱいだ。
こんなフリフリした女性ものの服を着るのも初めてだし、女性に着替えを全面的にエスコートされるのも初めてだ。
でも、だからといって彼女の好意を無碍にするなんてできないし……せっかく用意してくれた服だから……着ないのは悪いから……なすがままだったけど……。
「うーん……やばいわね、真央くん。うーん、うーん……すっごくやばいわね。私の見立て通り破壊力抜群よ……」
「……こっち見るなあ」
つい本音が出てしまった。
さすがに食い入るようにこちらを凝視する金剛さんの視線に耐えきれなかった。
「あっ、ごめんね? 舐め回すように見ちゃって。でも、ね? すっごく、すーっごく似合ってるわよ!」
「え……? 似合ってる?」
「ええ! とっても可愛いわ!」
「そんなこと言われたって……べ、べつに嬉しくないです……」
「真央くんこそ至高ね……! 真央くんこそが世界……! 私の一番の癒しよ!?」
「…………」
恥ずかしい。
恥ずかしすぎるけど……すごく喜んでる金剛さんを見て、悪い気はしなかった。
だって……誰かにこんな褒められるなんて、久しぶりだったから。
真央ちゃん……ちょろいですね。
作者のTwitterにササッと描きですが、
真央ちゃんの【幼き令嬢の日々】姿のイラストをアップします。
よければ覗いてみてください!
@hoshikuzuponpon
#TS魔王ちゃんねる