6話 魔王の微笑み
「僕は金剛さんと一緒に遊びたいです。なので遠慮してくださると嬉しいです」
僕が3人の男性に微笑みで以てお断りを入れると、彼らは途端に色めき立った。
「……かわいいな。その角は……魔人か?」
「君って歳はいくつ?」
「ま、ま、ま、まごうことなき姫である」
それから僕は無言で湖面から顔をのぞかせる巨大蛇を指す。
「おう? あー白蛇がいるな!」
「いつ見ても迫力あるよなー。あれって大木より太くね?」
「ひっ、姫よ、声を発するのだ」
一言だけ、警告してやる。
「……怖いよ?」
それは【白波の監視蛇】の驚異を示唆するものか、それとも僕たちに付きまとう男性3人の人間性を指すものなのか————
「大丈夫大丈夫! あいつら滅多に襲ってこねえから!」
「なんだよ、お姉さんはそんなことも教えてなかったのー?」
「ま、ま、ま、まごうことなき天女の声である」
『————襲って』
僕は橋の真下に潜んでいる【白波の監視蛇】に『攻撃させる』と『思考命令:人間の男性3人が対象』を無言で実行する。
「よーっし、俺たちがたっぷり教えてや————」
「いいか、あの白い巨大水蛇はな————」
「りりり、凛として透き通る声が最高ッ————」
呑気に遠くの【白波の監視蛇】を眺めている三人だったけど、とつぜん橋に白い虹が架かれば姿が掻き消えてしまう。至近距離で、三本のアーチがかかるように【白波の監視蛇】が水面から飛びだし、またたく間に3人の冒険者を大きな顎で捉えたのだ。
「——わ!?」
「——なぎぇッ!?」
「——ぶひ!?」
彼らは為す術もなく、白い濁流に呑まれて水中へと落ちていった。
「真央くん! 下がって!」
金剛さんが突然の事態に、ぼくを庇うように周囲を警戒してくれる。
彼女はぼくのステータスが異常だと知っているのに、ぼくを守ろうと動いてくれたのが少しだけ嬉しかった。
「大丈夫です————【魂と魔力の無限回収】」
【白波の監視蛇】に丸呑みされた3人は、ゲームで復活するみたいに淡い光を伴ってぼくらの前に無傷のままの姿で現れる。
:下根太郎Lv3 → Lv1で蘇生 金貨50枚を取得:
:南波太吉Lv4 → Lv2で蘇生 金貨70枚を取得:
:萌部太一Lv5 → Lv2で蘇生 金貨120枚を取得:
:【銅の剣】を獲得:
:【しなる弓】を獲得:
:【鉄の槍】を獲得:
:技術【宝物殿の支配者】を習得しました:
:獲得した武器は自動で【宝物殿の支配者】に入ります:
わあ。
なんか便利な技術を自動で習得したぞ。
「わー偶然の事故ですねー」
僕がそう言うと彼らは我に返り、そしてパニック状態に陥っていた。
三人は目を丸くしながら、自分の身体を何度も何度も確認している。
「え……い、生きてる!?」
「お、お、おれたち……何が起きた!?」
「ぱ、ぴ、ぴ、ぽ、ひっ」
「真央くん……キミって子は……そうほいほいと蘇生魔法を使われると……うん、悪いことではないんだけどね? うん、なんていうか……」
「ほらほら金剛さん、ここは危険ですから街に戻りましょう」
僕はその場で動揺し続ける彼らを置き去りにして、証拠動画の配信を切る。
そしてホクホク顔で【剣闘市オールドナイン】に凱旋を果たした。
一回で金貨240枚はおっきい報酬だ。
◇
「それにしても真央くんが、私と一緒に遊びたい、なんて嬉しいことを言ってくれるね?」
「金剛さんは呑気なこと言ってないで、ああいう時のために武器はちゃんと持っておいてくださいよ」
仮にも彼女は冒険者としてトップ層なはずなのに。
いくら初期都市周辺のレクチャーだからといって、危なくないですか?
「んんーでもそっちの方が…………真央くんは警戒しないかなって?」
あっ。
冷静になってみると、上位の冒険者でありながら自分の主武器を携帯しないのはおかしな話だ。
どうして彼女が武器を持たずに、ぼくと異世界で会ったのか。
それは多分……ぼくが彼女を警戒していたから。
だから金剛さんは警戒を解くために、あえてリスクを冒してまで信頼を勝ち取ろうとしていた……?
「どうしてそこまで……?」
「友達になりたいから、それ以外ありえないわ」
彼女は初めから————
敵意はないし、友達になりたいって、態度で示し続けていたのだ。
少しだけ、ほんの少しだけ胸の奥がぽかぽかした。
だから自然と口元がゆるんでしまう。
「あれあれ~? 真央くん、照れちゃってるのかな? お姉さんにその可愛いお顔をもっと見せて~! デュヘヘッ」
でゅへへって……やっぱりなんかこの人、信用できない!
ちょっ、くっつくな!
あっちいけっ……やっ、ぼくが少しでも本気を出したら金剛さんが肉片になっちゃうかもだから、ストップ、ストップ。
くっ、振り払いたいのに振り払えない……!
「真央くんかわいいいいぃぃ……! ねねっ、もう私たちは友達?」
「…………」
「友達以外ありえないわよねっ?」
「……ま、まあ……たぶん」
「真央くん、お顔が真っ赤だね?」
「う、うるさいです……!」
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