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11話 月夜の密会


「ゴチちゃんもなかなかやるけど、真央(まお)くんもやり手よね」


 お店を出て開口一番に金剛(こんごう)さんはしたり顔で褒めてくる。


「ゴチちゃんに印象付けて、深いつながりを持っておくのは利口なやり方よ。お金に汚い人だけど、間違いなく優秀な商人なの。『異世界アップデート』が始まってたった半年も経たないうちに自分の店舗を構えられた冒険者は、数えるほどしかいないもの」


「あははは……あまり得意なタイプではないですけどね」


「私もよ。ゴチちゃんはね、私が真央(まお)くんを可愛がってると知って、20万円なんて高額をふっかけてきたのよ。真央くんのためなら私が支払うって踏んだんでしょうね」


「うわー……」

 

「っと、マオちゃんちょっと待ってね……」


 金剛さんはスマホを取り出し、耳に当てて相槌を打ったり喋り始める。


「ああ、やほー。うん、うん、え!? 私も一緒に行く! わかったわ、【金歌(きんか)めぐる花街】の転移聖堂ね」


 通話を終えた金剛さんは申し訳なさそうな顔でぼくを見る。



「ごめん! もう少し一緒にいたかったのだけど……最近、解放されたばかりの街が、魔物の集団に襲われてるらしいの」


「ほう……すでに人間によって、神の封印が解かれた街があると……」


「うん。せっかくの黄金領域が消えちゃったら、私たちの活動圏も狭まっちゃうからさ。その防衛戦に参加できないかーって誘われちゃった。ごめんね?」


 謝る金剛さんに、僕は大丈夫だと頷いてみせる。

僕が受理すると、コンゴウさんはニコリと笑ってくれる。

 いつでも眩しい人だな。


「それじゃあ、ありがとね! たくさん魔物を狩って稼いでくるから、また一緒に遊ぼうね!」

「こちらこそ色々とありがとうございました」


 遊ぼうね、かー。

 命がけの遊びって素晴らしいね!

 なんて走り去ってゆく金剛さんの後ろ姿を眺め、僕は一息つく。

 

これからなるべく穏便に色々とやっていきたいから、『不殺の魔王』をカモフラージュするために他のスキルや技術(パッシブ)も磨いた方がいいのかな。

 そこで折よく習得できたのが鍛冶技術(パッシブ)だ。


 ちなみに技術(パッシブ)Lvの上げ方は、記憶を上昇させればポイントが手に入るのでそちらを消費すればいい。


 金貨の手持ちには余裕があるので、試しに20枚の金貨を消費して記憶を2に上げる。

 すると技術(パッシブ)Lvに1だけポイントが振れるようになったので、さっそく鍛冶技術(パッシブ)に投入。



———————————

金貨600枚 → 580枚

記憶1 → 2


記憶力を活用して、〈鍛冶〉Lv0 → Lv1に上昇

精錬(せいれん)】を習得


[精錬……原料鉱石から不純物を取り除き、その純度を増す]

[必要工具:タイプ炉]

———————————


 わー……武器の元になる素材作りから始めるのか。

 わりと本格的なんだな。


 ふーむふむ。

 とりあえず必要工具を揃えますかね。

 道具屋を探しに都市を散策している最中、屋外で鉄を打った痕跡があったのでフラッと寄ってみる。そこには火の灯った炉らしき設備があり、試しに近づいてみると妙なログが流れた。


:【剣闘市の炉】があります:

:【精錬】しますか?:


 おおう、買わずとも工具を見つけてしまった。

 他にも僕のように鍛冶技術(パッシブ)を習得した冒険者が、精錬をしてないかチェックしてみるも誰一人いない。ゴチデスさんが言ってた、生産人(クラフティン)が多い【創造の地平船ガリレオ】になら鍛冶師がたくさんいるのかもしれない。 

今度行ってみよう。



「工具は見つかったから、あとは鉱物採集かな? ま、そっちは魔物たちにお願いすれば————」


 周囲を静かに見渡せば建物の影が大きく伸び、日が傾き始めたのだと気付く。

西の最果てに太陽が落ちゆくのを眺め、僕は思わずニヤリと笑んでしまう。


「鉱物採集、たのしそうだなー」


 夕闇が【剣闘市オールドナイン】を包みこもうとしていた。





 冷たい月光が【白き千剣の大葬原(だいそうげん)】を照らす。

 一見すると雪原のような色のない綺麗な世界が広がっているけど、その(じつ)、至るところで赤い花が咲き乱れている。

血で血を贖う戦い、【亡者】と冒険者の殺し合いが静かに繰り広げられていた。

 僕はその光景を眺め、一人ほくそ笑む。



「今日はなんだか人が多い……? 大チャンス?」


【神々を(あざむ)く者】で自分の気配を遮断しながら、周囲をつぶさに観察してゆく。さて、近場に潜んでいる【亡者】をさっそく呼び寄せよう。



「【亡者】って言っても、実は二種類いるんだなーこれが」



————————————

【亡者】〈命値2 信仰0 力3 色力0 防御2 敏捷1〉

黄金の欲望に囚われ、不死者となった彼らは永遠に終わらぬ生を享受する。

だが、繰り返される死の苦痛に耐えきれず、ついには女神の呪縛から解放されたいがために自らの魂と意思を魔に売ってしまった。

女神はこの失敗から学び、不死者ではなく転生者を創った。

〈ドロップ:金貨1枚(5%)〉



【亡者】〈命値2 信仰0 力3 色力0 防御3 敏捷1〉

月樹神アルテミスは宣告した。

『個性などというものがあるから人間は道を(たが)える。個、そのものとしての意思を、色を奪い、白く染め上げればよい。貴様らが多産を望むのならば、その望み叶えてやろう。人間の血肉骨で新たな生命の息吹を、白葬の実りを茂らそうではないか』

不死者は大葬原(だいそうげん)へと埋められる。その血肉は養分として根に吸い上げられ、白骨は草の一本一本となり、永遠に奪われ続ける。無色な草原のために、今日も新たな養分を求め彷徨う。

〈ドロップ:金貨1枚(5%)〉

————————————



「闇深い、闇深いぞー【亡者】の歴史。この地も色々あったんだろうなー」


 不死者たちは連綿と続く生死が苦痛になったと。そこで魔に魂を売った罰として、この白い草原のための、意思なき養分人形になっちゃったってわけか。しかも永遠に。

 不死性をそんな風に扱う神々こええ……。


「ふむふむ。どうりで高い草が生えてる地中に【亡者】がひそんでいるわけだ。【亡者】が養分なら草の成長はよくなるもんね」


 そんな独り言をもらしつつ、【神々を欺く者】で自分の名前とLvを表示しないようにしておく。さらにスキルや身分、レベルなんかもいじれたりもするので、万が一に備えて身分は『修道女』という割とオーソドックスな身分に改ざん。

これからやる事を考えれば、誰かに見られた時のリスクを極力減らさなければいけない。



「よっこらせっと」


 おっさん臭い掛け声と共に、僕はあえて背の高い草原地帯へと腰を下ろす。

 こうすればスッポリと僕は草原に隠れきってしまう。

 そして地中からは【亡者】がずるずると姿を現す。

 肉がドロドロにこびりついた頭蓋骨をひょっこりのぞかせる【亡者】と目が合い、手を振ればカクカクと答えてくれる。


「よしよし、夜の暗がりも相まって、冒険者は僕らを見つけ辛いね。(つど)え——」


 この調子で『呼ぶ』を繰り返し、今や僕の周囲は【亡者】だらけになりつつある。

 真っ白な草原で、屍に囲まれながらお月見とか、これもまた(おもむき)のある夜です。

 なんて、けっこうホラーだよなあ。



「【亡者】さんたち、頼むよー。なんかすっごい石ころ探してきて」


 集まった【亡者】たちに『採集』と『思考命令:地中/鉱物』と指定しておく。すると【亡者】たちは次々と地面に潜り消えていった。

 彼ら彼女らが戻ってくるまで暇だし、周辺で【亡者】狩りをしている冒険者を草陰からこっそり観察する。

 ふむふむ、パーティーを組んでる人達はやっぱり強いなあ。

 

「ソロで戦ってる冒険者は、ひ、ふ、み……Lv2やLv3を狙った方がいいかな。襲え——」


 僕はさらに【亡者】を5人ほど呼び出し、まずはLv2の冒険者から襲わせてみる。

 Lv2の彼は【白き千剣の大葬原】には慣れているのか、しっかりと草の背が高い箇所を避けて、必ず【亡者】と一対一になるよう立ち回っていた。


 そこで僕が命令した【亡者】2人が地中よりこんばんは。



「な!? えっ、ど、どうして!?」


 一瞬動揺した彼だけど、すぐさま【亡者】の1人を蹴り上げ、流れるような体裁きでもう一人も切り上げた。次いで、もとから戦っていた【亡者】の攻撃もかわす。

 見事だ。

 追加で3人の【亡者】が地中より出てきて、彼の腰と両足に掴まりさえしなければ。


「な!? こんな、こと、ありえな!? ぎゃっ」


 当然、先ほど彼がいなした【亡者】2人の命値は削り切れていないので、襲い掛かる。

 時間にして10秒と少し、彼はあっけなく死んでいった。


 南無。

 あとでまとめて復活するから、ちょっと待っててね。


「よくやったぞ、亡者小隊。次の任務はあのLv3の冒険者だ。出撃」


 僕はこの調子で白草の影に隠れながら、Lv2やLv3のソロ冒険者に【亡者】小隊をぶつけてゆく。


「な!? どうして地中から!? 誰かたすけっ」

「草が短いところは安全じゃなかったのがよ゛!? うおっ、やめっぐおお」

「亡者たちが組織だってないぎゃ!? ぎゃああっ」


「魔王ちゃんはいずこにっ!? うわ!?」

「そんなこと言ってる場合じゃねえ! まずは俺たちが助からないと!?」

「助けっ、ぐああああああっ」


 月夜の晩は獲物を見つけやすくていい。

 しかもこの小さな体躯と銀髪というのも、白い草原の中で身を隠すには持ってこいだ。

 十人を超える冒険者を屠ったところで、『採取』活動をさせていた【亡者】たちが色々な物を持ってきてくれる。


「ありがとう、ありがとう、うわ、なんだこの石は……【白石(はくしゃく)の伯爵】? ふむふむ、百年近く白き大草原に転がっていた石。ここ一帯の草々が、神々に色を奪われてしまった理由を知る古き石、か……」


 ご満悦な僕の様子を喜んでくれたのか、グチャグチャカタカタと【亡者】たちも笑ってくれた。なんだか地面から上半身だけ出す【亡者】たちに妙な愛着がわき始める。

 そんな【亡者】たちを狩り続ける冒険者は、未だに僕らの周辺にチラホラいるのだ。

 PTを組んで確実に数匹を仕留める者もいる。



「よし、ヤッてみるか」


 草原の影に隠れ潜む。

 そんな月夜の密会は、多くの収穫を上げてゆく。


 そして日の出が上がると共に、人間狩りは幕を閉じたのだった。





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河合(かわい)真央(まお)

身分:不殺の魔王

Lv :3 (Lv4にするには金貨40枚を捧げる)

記憶:1 → 2  (記憶量を増やすには金貨30枚を捧げる)

金貨:580枚 → 1200枚


命値(いのち):300 信仰(MP):999

力 :300 色力(いりょく):702

防御:300 敏捷:300



【スキル】

〈不殺の魔王Lv3〉


技術(パッシブ)

宝物殿の支配者(アイテムボックス)Lv1〉

〈記録魔法Lv1〉


〈鍛冶Lv0 → Lv1〉

Lv0……石砕き

Lv1……精錬

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[良い点] 素材は魔物たちに頼んで安全に集め放題、スキルは人間狩りでレベル上げ放題、まさしく魔王の所業。もう既に亡者さんたちに慣れちゃってるし... [一言] えっげつねえ狩りだあ...さすまお
[一言] 可愛い魔王ちゃんの人間狩りしつつの聖女ムーブ超楽しいですね! なぜか癒されるw
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