羊
こんばんは、土三夕凡です。
暖かい目でお読みください。
広い草原に一本の川。それ以外に何も無い場所に
「羊が一匹。」
羊が一匹現れた。どこから現れたかはわからない。
羊はとりあえず歩いてみた。目的がある訳では無い。でもやることがなかったから歩いてみた。歩きながら鳴いてみた。
「ヴェーーー!」
低い音が響いた。何も起こらない。
自分は何故ここにいるのか。何故自分という存在があるのか。知りたかった。
もう一回鳴けば何か起こるだろうか。
「ヴェーーー!」
もう一回もう一回もう一回…と。何度も鳴いた。
いくら鳴いても何も起きない、何も返ってこない。
虚しい。
羊は周りを見渡した。広い草原の中に自分一匹。
この世界には自分しかいないのだろうか。
もう一度鳴いてみよう。鳴き続ければ何か起こるかもしれない。誰かが返してくれるかもしれない。
「ヴェーーー…。」
何も返ってこない。もう一度。
「ヴェッ…。」
声が出ない。
そうか、喉が乾いたのか。
羊は川へと歩いていった。
水を口に含む。冷たくて美味しい。
喉が潤ったからまた鳴こう。
「ヴェーーー!」
何度も何度も。
喉が乾いたら水を飲んでまた鳴く。
「ヴェーーー…。」
誰も何も返してくれない。
どのくらいの時間が経ったかわからない。
羊は鳴き続けた。
羊はふと空腹を感じた。
下を向き、足元に生えている草を食べた。
美味しい。お腹の中が少しずつ満たされていくような…。
空腹感は消えた。孤独感は消えない。
何をすればいいのだろう。そう思いながら歩く。
歩いているときの自分の足を見た。この足の動きをもっと速くしたらどうなるんだろう?
羊は試しに足を速く動かしてみた。景色が速く移動する。なんだか楽しい。
「ヴェーーー!」
思わず鳴いた。
歩いて鳴いて水飲んで、走って鳴いて水飲んで、空腹を感じたら草を食べる。
とても楽しい。何が?と聞かれても答えられないけど…。
楽しかった。でも繰り返すうちに虚しくなってきた。何故だろう。
「何が楽しい?」と聞いてくれる人がいれば楽しいのかな?
「ヴェェェェ…。」
鳴くと同時に泣いた。自分とは何だろう?そもそも自分は存在しているのか?何が楽しくて何が虚しいのか。
考えれば考えるほど、誰かが恋しくなる。
誰でも良い、誰か来てください。来れないなら遠くから鳴いてください。
私はここに居ます…。
羊は考えるのを辞めて寝た。
「羊が二匹。」
二匹目の羊が現れた。
一匹目の羊は思わず起きた。自分以外にも羊がいる。
はじめまして、待ってました。
こんな言葉は堅苦しいかもしれない。でも確かに二匹目の羊はこちらを見ている。
鳴いたら反応してくれるかな。
「ヴェーーー!」
すると二匹目の羊はこちらを見て
「ヴェーーー!」
と鳴いた。
もう一匹じゃない。自分はここに居て、あなたはここに居る。
「羊が一匹。」
二匹目の羊は消えた。
また一匹か。でもまた来るかな。
「羊が零匹。」
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