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千と八人の転生者  作者: 紗琉瑠
第一章 【終わりの始まり】
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別れと転生

 気がついたら此処に居た。緑が豊富な、森というには美しすぎる場所だった。

 自然豊か且つ、美しい幻想的な植物達、天に浮く白鯨、天を舞う龍、美しい奏声をあげて優雅に飛翔する彩りの鳥達、色鮮やかな美しい動物達、鮮やかな色彩の巨蝶、睡蓮の花が浮かぶ美しい透き通った湖。

 巨大な樹木が緑の輝く葉をゆらゆらとそよ風が揺らしていた。

 輝く葉の間からは天から太陽の綺麗な光を通していた。


 そこはまさしく天国の様な場所だった。


「どこだ…ここ」


 セイジはこの美しすぎる場所に気がついたら立っていた。


 訳が分からない…

 俺は確か…化け物の大群が押し寄せて来て、コウと戦った筈。逃げながら何十体と倒したけど最後には巨鳥に襲われて…死んだ筈だ。

 そうか、ここは天国か。

 服も何だか白衣?の様な物を着ているし間違いない。


「あれ?人が居る」


 少し遠くの方で自分と同じ格好の人が歩いていた。

 よく見るとちらほらと何人か人が歩いている。


「俺だけじゃないのか」


 一瞬話しかけようかと思ったが、まあもう死んだんだしどうでもいいかと、この幻想的な場所を見ながら思う。


「にしても綺麗だなぁ…」


 美しい湖の傍には天すら穿いて頂上が見えない程大きい樹木が立っている。

 あんなに大きい木は見た事がない。

 蝶々も羽根を舞う度に光を撒き散らしていてとても綺麗だった。

 違う場所では翼と角を付けた白馬の様な生き物が、美しい湖の水をごくごくと飲んでいる。

 あんな馬初めて見た。ユニコーンって奴だろうか?

 天国ってこんなに幻想的で美しい場所だったんだ。


「セイジ…か?」


 聞き覚えのある声が俺の名前を呼んでいた。


「コウ!」


 二人は天国で再開を果たした。

 近づいてくるコウはいつも通りアホ面だった。


「ここ天国だよな?」


「多分…」


「やっぱ俺達死んじまったか」


「だね」


 二人は少し沈黙した。



「母さん救えなかったな…」


 そう感傷に浸りながら二人は腰を下ろしてこの風景を眺めていた。


((ここは美しいだろう?))


 な、なんだ?今声が…


 どこからか男性の様にも女性の様にも聞こえる声が近くで聞こえた。

 何処を探してもその語りかけて来た存在は近くに居ない。

 コウも辺りを探しているが見つからない。


((今は魂に直接話しかけているので、私の姿は見えない))


 魂?念話的な奴だろうか。

 にしても誰だ?


((私は地球の神。そしてここは神の叡智))


 神様!?いや不思議な事ではない…のか?

 それに神の叡智?天国じゃないのか。


((魂を保護する為、そなたらには直接此処に来てもらっている))


 魂を保護?何を言っているのかさっぱりわからないぞ。


((地球は次元変動によって崩壊した。私も手を尽くしたがどうする事も出来なかった))


 次元変動…あの化け物が出てきた地割れの事だろうか。


((私も万能ではないのだ。許してくれ))


((そして本題だが…贖罪として君達にはルール付きで転生してもらう。転生してもらう場所は地球規模の八つの世界が繋がっている遠い異世界だ))


 転生!?転生出来るのか!?いや待って、ルール付き?どういう意味だ…?


((今此処にいる千と八人に転生してもらう。それ以外の者は私と共に輪廻に還る事になる。私の力ではそれが限界なのだ、すまない…))


 千と八人…地球の人口からしたらほんの僅かだけど…神様もそれが限界なんだろう。


((魂を違う輪廻に乗せて転生させるのは、魂の強度が高くないと消滅してしまう。故に千と八人しか転生できないのだ))


((そして転生してもらう異世界はスキルや魔法といった、地球にはない概念が存在している。そなたらには固有の能力を与えはするが…生き残れるかどうかは運とそなたら次第だ))


((固有能力はどんな物になるかはあちらの世界に行くまでは分からない。だが、魂の強度が強い君達ならきっと強力な物になる筈だ))


「おぉ!ファンタジーキター!」


「コウうるさい」


「はい…」


((記憶についてだが…千と八人には私が勝手にあちらの世界に送るので、記憶を持たないまま転生する事も可能だ。あちらの世界に送る時に確認するので、記憶の保持をどうするか決めておいてくれ))


「記憶か…もちろん保持したままだよな?」


「だね。他の人はどうかわからないけど」


((転生する時期はあちらの世界で三年を通して行われる。同時期に転生させると色々と不都合なのでな))


((最後に…親、兄弟、友人、想い人。会いたい人が居るなら私の力を使って会わせる事が可能だ。ただし、魂を生前の記憶を持ったまま留めるのは力を大分使うのでな、会わせられる時間は限られているが))


 今の説明をうけて衝撃を受けた。

 母さんに会える…?


「親父…澪…」


 コウも会いたい人が居るようだ。


((納得出来たものから私に語りかけてくれ。念じれば繋がる))


「はは、まさか二度目の人生があるなんてな」


「だね〜、にしてもこの兎ちゃんかわいいー」


「キュー!」


 真っ白な兎が近寄ってきて、首を傾げてこちらを見つめていたのでつい抱き締めてしまった。


「お前は呑気だな…」


「コウも抱いてみる?」


「いいのか?」


 そう言いながらコウに真っ白な兎ちゃんを渡そうとすると。


「シッー!!」


 めっちゃ怒った。


「あぶねっ、こいつ噛むぞ!」


「コウが嫌われてるだけだよ。ねー?」


「キュー」


 それにしてもこの子いい匂いするなぁ。


「で?もう行くか?」


「そうだね。あっちの世界でまた会えるかな?俺達」


「さあな。八つの世界が繋がってるんだっけ?それも地球規模の大きさの世界が」


「みたいだね」


「まあ俺は旅でもしながら探してやるよ。夏休みに出来なかった冒険も一緒にしたいからな」


「はは、冒険か。じゃあ俺も旅をしながら探すよ」


 また会えるかどうかわからない。

 でもなんだか不思議とあっちの世界でも巡り会う気がするのは何故だろうか?

 二人は名前も姿も変わるので合言葉を決めておいた。


「決まりだな!冒険楽しみだぜ!」


「ま、コウが骨になってない事を祈るよ」


「ひでぇッ」


 そんな話をしながら二人は転生する為に神様に話しかける。


 念じれば繋がるって言ってたけど…


(あーあー。神様聞こえますか?)


((君達か、聞こえるぞ。準備が整ったようだな))


(おーよかったよかった。ん?君たち?)


((君達二人は次元変動が起きた時に異界の者を倒して出てきた魔石を食べただろう?))


(あ、はい。飴みたいな味の)


((あれは魂が具現化した物でな。あれを食べた分、魂が強化されていてな。他に六人ほど食べた者が居る。君達はそれで千と八人の中に選ばれたのだが…強化された魂には他の人とは違って二つ固有能力を授かる事になる))


「おお!?チートってやつですか!?」


 コウは声に出して喜んでいるようだ。


((アホな事を言うでない。無作為に能力は決まると言っただろう))


 ぷ。神様にまでアホって言われてる。神様お墨付きのアホってことだな!


((それだけ伝えたかったのだ。では転生する前に…記憶はどうする?))


(二人とも記憶は保持したままで)


((ふむ。次に別れを言いたい者はいるか?))


「俺は…親父と澪に会いたい」


 コウは親父と如月さんに会いたいみたいだ。


((如月澪は既にここには居ないぞ))


「え…?」


((既に転生の準備は済んで送ったのでな。あちらもそなたに会いたがっていたが、両方転生すると言ったら納得したので送ったのだ))


「澪も転生するのか…よかったぜ」


「よかったね」


「ああ」


((では会いたい人は父親一人でいいな?会って別れを済ませた後、転生させる。))


「お願いします」


 そう言ってコウは親父さんと最後のお別れをするみたいだ。


「じゃあ俺は行くぜ、またな」


「またね」


 そう言葉少なに俺達は別れを済ませた。

 そしてコウは段々と光に包まれて消えていった。


((君はどうする?))


(俺は…母さんに会いたい)


((よかろう。では母親と別れを済ませた後、転生させる。準備はいいな?))


(お願いします!)


((その兎は離してやってくれ…一緒には連れて行けないのだ。すまない))


(あっ!ごめんなさい!)


 ずっと抱えたままだったから忘れてた。


「ごめんね兎ちゃん。ばいばい」


「キュ」


 真っ白な兎ちゃんはチラチラとこちらを何度も振り返りながら去って行った。

 かわいい…


((ではゆくぞ))


(はい)


 そうしてセイジも光に包まれて消えていった。












 目を開けるとそこは真っ白な空間だった。


「コウ」


 後ろを振り返ると母さんが居た。


「母さん!」


 母さんを見つけた俺は母さんの所まで行き抱きついた。


「セイジったら…」


「ごめん母さん…」


 泣きながら抱きついた俺に、母さんは少しの間優しく頭を撫でてくれた。


「神様から聞いたわよ。転生するんだって」


「うん…コウも一緒だよ」


「あら、よかったじゃない」


「うん…」


 でも母さんはもう…


「そんな悲しい顔しないで笑いなさいな」


「だって母さんとはもう…」


「いいのよ、私の事なんて。私は幸せだったから」


 女手一つで育ててくれた母さんは幸せだったと言う。

 親孝行もできていないこんな息子でほんとにごめん。


「ほら、涙拭いて。次の人生楽しみなさい」


「うん…ありがとう母さん」


 それからコウとは旅をする約束をしただとか、コウの事が好きな如月さんも転生する事とか色々な話を母さんとした。


((そろそろ時間だ))


 神様がもう時間だと伝えてくる。


「最後に一つ、母さんと約束して」


 母さんは真剣な顔で俺にそう言ってきた。


「なに?母さん」


 もう視界が涙で見えないぐらい泣いている俺に母さんは言う。


「笑いなさい」


「笑う…?」


「えぇ。悲しくて辛くても、絶望しそうになっても。笑っていればなんとかなるわ。だから笑いなさい」


「わかった」


 笑いなさい、か。

 母さんらしいっちゃ母さんらしいな。


「じゃあ行きなさい」


「うん」


「愛しているわ、セイジ」


「俺も愛してるよ母さん」


 そう言って二人は光に包まれて行く。

 これで母さんとはもうお別れだ。

 次の人生も母さんの分まで幸せになるよ。


「行ってらっしゃい」


 母さんは最後に笑いながら行ってらっしゃいと言ってくれた。

 俺も涙を拭いて精一杯の笑顔で。


「行ってきます」


 と言った。















((新たなる人生に幸あらんことを))


 こうして新田正治(あらたせいじ)の人生は幕を閉じた。

次から第二章です

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