始まりの終わり
あれから一日が経って、今は朝ご飯をコウと食べている。
一日経ってもドアの前から動かない化け物に、どう対処したもんか話し合っているのだ。
「二階から見る限り、あいつ以外は近くに化け物が見えないから…あいつさえなんとか出来ればいいんだけどね」
化け物がドアの前から動かないので、外に出る事さえ出来ないのだ。
「二人なら倒せるだろ。やろうぜ?このままだとジリ貧だ」
「昨日めちゃくちゃブルってたのに?」
「何言ってんだ。あれは…そう。武者震いってやつだね」
仕方ないか。
化け物が増える前にあいつをなんとかしなくちゃ。
それと武者震いじゃなくて、産まれたての小鹿だったよ?
「じゃあコウが前衛ね」
「おま、そこはじゃんけんしようぜ!」
やっぱりブルってるじゃん。
まあ…あの化け物、ゾンビみたいだしビビるのも仕方ないな。
でっかい牙生えてるし。
それから作戦をたててあの化け物を迎え撃つ事にした。
まず、セイジがドアを勢いよく開けて即退散する。
因みにドアは外開きだ。
化け物が中に入って来て、セイジを見つけ追ってくる。
少し長めの廊下を抜けて、コウと交代する。
廊下は二人歩くには狭いぐらいなので、攻撃も当てやすい筈だ。
そしてコウが先端に包丁をぐるぐる巻に付けた神剣(笑)で突き刺して倒す。
単調な作戦だが化け物は走ってこないので倒せるはずだ。
「じゃあ開けるよ」
「おう」
そしてドアを勢い良く開けた。
ドア越しにどんと音がしたので結構吹っ飛ばせたはずだ。
その隙にセイジは廊下まで走る。
「交代!」
そう言って神剣(笑)をもったコウと交代する。
化け物は少しふらつきながらも獲物を見つけたとばかりに追ってくる。
その足取りは遅めだ。
「グラッッ!」
「おらぁ!」
コウは廊下にやってきた化け物に向かって神剣(笑)を胸の辺りに突き刺した。
だが化け物の足は止まったものの倒せてはいない。
大分深く刺さってるのに倒せないのか。
てか、どんだけ勢いよく突き刺したんだよ…めっちゃ刺さってて怖いんだけど…
それよりもだ。
「コウそのまま刺しといて!」
「お、おう!」
そう言って俺は化け物がもがいてる隙に出刃包丁を頭に勢い良く振り下ろした。
「グラッ…」
化け物は力尽きたのか粒子に変わっていく。
「た、倒せた…」
「ナイスだセイジ!」
なんとか倒せたけど…これ一人じゃ無理だ。
二人でもこんだけギリギリだし。
てか怖えぇ、今もめちゃくちゃ手が震えている。
「ん?なんだこれ」
化け物が死んだ場所には小石の様な物が落ちていた。
それを手に取って見てみると、指の爪先ぐらいの紫色の小石だった。
「お?ドロップか!?」
コウは興味津々なのかまじまじと紫色の小石を見ている。
「魔石…か?」
「魔石?」
魔石というとゲームとかで出てくる?
何に使うんだろ。
「というかドア開けっぱだぞ」
「あ、やべ」
化け物を倒せて気が緩んでいたのか頭から抜けていた。
化け物がまた来るかもしれないのですぐに閉める。
「にしてもこれどう使うんだ?」
「さあ?」
二階から外を見て何も居ない事がわかったので、ドロップした魔石をどう使うか二人で悩んでいた。
「なんか飴みたいだな。食えるんじゃね?」
え。これ食うの?まじで?
あの化け物の中から出てきた様なもんでしょ?見た目ゾンビだよ?牙生えてたよ?
いや、待てよ。
またじゃんけんしようぜ!とか言いそうだからここは煽ててコウに食べて貰おう。
きっと行ける筈だ。
「確かに美味しそうな見た目だよね!きっと美味しいに違いない」
「だよな!よし食ってみるか」
よし!やっぱアホだなコウ。
全く美味しそうではないから。
そう思いながら見ていたらぱくっとコウは魔石を食べた。
「お?結構うまいぞ」
「まじ?」
まじか。あれ美味いんだ。
「特に変わった様子はないが…まあいいか」
結局、魔石が食べれる事はわかったが、何も変化がないので次にどうするかを話し合う。
「二人でなら人型の化け物は倒せるが、問題は…」
「大型犬だよね」
そう。ゾンビみたいな化け物は足が遅いので二人で倒せたが、大型犬は足が早いのだ。
逃げる事すら難しいんじゃないだろうか。
「逃げるよりも打って出た方が勝機はありそうだから、もし出会ったら逃げるより戦うしかなさそうだな」
「遭遇しない事を祈るしかないね」
「そうだな」
化け物の対処方は粗方相談して、次に助けが来るのか。
避難所はどうなっているのかを二人で話し合ったが、どちらも希望は薄いと結論付けた。
避難所は学校の近くで地割れから近いのと、自衛隊が殺られた現状、避難所も安全ではないと思う。
全国で地割れが発生して化け物に襲われてるし、助けが来るのも望み薄だろう。
それに化け物達は俺達の居場所が、ある程度の距離になると探知でも出来るかの如くバレる。
もし巨鳥が近くを飛んできたら即退場だ。
この家もあの大きさの巨鳥からしたらあってないようなものだし。
「絶望的だな」
「うん…もし母さんを生き返らせる事が出来ても世界がこんなありさまじゃ、生きる意味を見失いそう」
「そうだな…まあなるようになるさ」
「コウは怖くないの?」
「怖ぇよ。怖ぇし、いつ死ぬかもわかんねーしな」
やっぱりコウも怖いんだ。
いや、当たり前だ。
こんな世界になって怖くない人なんて居ない。
明日死ぬかもしれない。今死ぬかもしれない。
希望すら殆どない世界で怖くないはずがない。
「でもよ、絶望して死ぬより笑って死んだ方がかっこいいだろ?」
「はは、そうだね」
笑って死ぬ…か。
きっとコウには出来るんだろうな。
俺には出来るだろうか。
出来たらきっとかっこいいんだろうな。
「俺今かっこいい事言ったな!はっはっは!」
自分で言うとかやっぱりこいつアホだな。
せっかく少し見直したのに。
それから少し休憩していたらまたドアの前まで人型の化け物が来た。
やっぱり俺達の居場所がバレてる。
あんまり探知距離は広くないのか、今回も単体みたいだ。
同じやり方でなんとか倒せたので良かったが。
複数になると厄介になりそうだと話しながら、俺もコウに勧められてまたドロップしていた魔石を食べた。
意外と美味しかった。ただし変化はなし。
ホントこれなんの意味があるんだろ?他に使い方があるのかな。
その後、化け物は現れず夜ご飯を食べて就寝した。
そして次の日、俺達は笑って死んだ。
夏も真っ只中な、鈴虫が鳴いていた美しい満月が夜の闇を照らす穏やかな夜だった。