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千と八人の転生者  作者: 紗琉瑠
第一章 【終わりの始まり】
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母の愛

少しシリアスになります

 

 あれから母の会社に電話をかけて、数時間前には帰宅したと確認は取れたけど一向に帰ってこない。

 携帯も依然と繋がらないまま。

 警察に電話をしても回線が混み合っているのか繋がらないし。


「大丈夫かな」


 高校2年生でまだまだ子供なセイジは、母の事が心配で堪らなかった。

 今から探しに行くというのも手だけど…テレビからはずっと外には出ないでくださいとニュースキャスターが叫ぶかのように呼び掛けている。


「それでも…行くしかない」


 自分の身も危ないかもしれないがなによりも母の身が心配だ。

 よくコウにはマザコンなんて言われるけど。

 いつも母には迷惑をかけてばっかりだから何かしてあげたいと思うのは変ではないと思う。


 いざ行くとして準備しなくちゃ。


 何が必要だろうか?取り敢えずリュックに保存食用のクッキーを幾つかとサバ缶を4つに水。

 それからタオルにライターと、必要最低限の物をリュックに詰めていく。


 大型犬に襲われるって言ってたけど…なにか武器とか持っていった方がいいかな。

 包丁とか?

 普通だったら銃刀法違反で捕まりそうだけど。

 そんな状況じゃないし余裕もないだろうけど。


 念の為、キッチンにある包丁入れから家庭用の出刃包丁を持っていく。

 服装は高校の体育で使うジャージを使う。

 少し汗かいたから臭くないかな?まあいいか。


 そして準備が整ったので、いざ玄関に立って母を迎えに行こうと扉を開けようとしたら。


 ガチャ


「ただいまぁー」


 帰ってきちゃいました。



「ん?なにしてるのセイジ?」


 何事もなかったかのように話しかけてくる母に。


「いや…帰ってくるのが遅いから迎えに行こうかと」


 そう声をかけた。

 近くにあるスーパーの帰りなのか、だいぶ中身が詰まった袋を両手にぶら下げながら帰宅した母は呑気に鍵を閉めていた。

 ん?にしてはなんか…


「外に出ちゃだめよ」


 母は少し強めに外に出るなと言ってきた。


「別に心配することなかったのに」


「だって電話しても出ないし」


 そう。

 何回も電話したのに繋がらなかったから、なにかあったのではないかと心配だったのだ。


「携帯…どっかで落としちゃったみたいで」


「あぁ、だから連絡取れなかったんだ」


「ごめんね。それよりセイジ…ちょっとタオルもってきてくれる?」


「別にいいけど」


 母は少し落ち込んだ様子でタオルを持ってきてと俺にお願いした。

 なんでタオルなのかと少し疑問に思いながらもお風呂場にあるタオルを取りに行く。


 タオルを持って玄関まで戻ると母がぐったりとしていた。


「母さん!?大丈夫?」


 すぐに駆け寄り母の顔色を見ると大分青白くなっている。

 やっぱりなにかおかしいとおもったんだ。いつもと様子が違うというか、違和感を感じていた。いつも呑気だけどしっかりものの母が携帯まで落とすし。


「セイジ、タオルかして」


「救急車呼ばなくちゃ」


 そう返しながら母にタオルを手渡す。

 母は服を捲ると脇腹の方に怪我を負っていて結構な量の血が出ていた。

 それをタオルで巻いて固定していたのか血だらけになったタオルが母の傍に落ちていた。


 携帯から救急車にかけても混み合っていて後ほどおかけくださいとしかかえってこない。こんな時に…どうなってるんだよ!


「セイジ、よく聞いて」


 母は顔色を悪くしながらもタオルで脇腹を抑えながら俺に言葉を掛けてきた。


「あんまり話すと怪我が…」


 悪化する、そういいかけたが。


「いいから聞きなさい」


 あまり怒らない母が珍しく強い口調で言ってきたので、心配しながらも母の話を聞く。


「外には変な人達が暴れ回っているから助けがくるまでは外に出たらだめよ」


「それから食料は1週間分の買い出しに行ってたから1人でなら暫くは大丈夫なはず」


「1人でなら?ど、どういうことだよ」


「母さんね、噛まれた人がいたから車に乗せて一緒にここまで逃げてきたのよ」


「その人、腕を噛まれてたんだけど…すぐに死んじゃったの」


 嘘でしょ…


「ひ、酷い怪我だったの?」


 嫌な予感を感じながらも母にその人の様子を聞く。


「いいえ、致命傷ではなかった」


 そんなことあるのか?そして俺は母がこれから言う事が怖くて堪らなかった。

 聞きたくない…


「いい?私もあんまり長くない。体が動かなくなってきてね…歳かしら?」


 母は冗談混じりにそんな事を言う。こんな時にまで呑気にしてるんだから。


「俺が車で病院まで連れて行くよ」


 車の免許すらない俺が何を言ってるんだか。


「無理よ、外は車すら走れないほどパニックになっている」


「なら背負ってでも!」


「セイジ」


「だって母さんが…」


 俺の頬には滴る雨のように涙が溢れて止まらなかった。


「セイジは良い子だからきっと大丈夫。母さんの自慢の息子だもの」


 母はそれからリビングのソファーでぐったりと横になって辛そうにしていた。

 セイジは何度も救急車を呼ぼうと携帯から電話をかけたが繋がらなかった。警察の方も混み合っていて繋がらない。


 母がソファーに横になってから二十と五分。



 母は愛していると俺に告げて眠りに着いた。







 夜の帳が降りようかという夏休みも目前に迫り鈴虫が鳴き始める穏やかな夜だった。






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