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断罪されていますが全く身に覚えがありません

作者: ロゼ

ゆるゆると書いた物です。

あまり考えずにサラーっと読んでいただけたらなぁと思います。


誤字報告ありがとうございますm(_ _)m

断罪。


罪を犯した人を裁く事。


今目の前でデスリー・アモルドが発した言葉に声も出なかった。


「スーザン!今この場で貴様を断罪する!貴様の悪行には最早救済の余地などない!婚約者として最早庇い立て出来ぬ所まで来ているのが分からないか?!」


言われている意味が全く分からなかった。


悪行?


救済の余地などない?


私はいつ断罪される程の悪行を行ったのだろうか?


「貴様はこのキャサリン・ヘラーを殺害しようとしたな!証言は取れている!言い逃れなど出来ないと思え!」


キャサリン・ヘラー?


どちら様でしょうか?


デスリー様の隣に現れた金髪に全く見覚えがない。


殺害しようとしたなどとんでもない事だ。


名前も先程知ったばかりの見知らぬ人をどうやって殺そうと思うのだろうか?


そもそも人を殺したいと思った事すらない。


「だが俺も鬼ではない!貴様に反論の機会位は与えてやろう!言い分があるのなら今言ってみろ!」


反論の機会ですか?


ええ、いいでしょう、反論してやりましょうとも!


そもそも今は王宮主催の夜会の最中。


何故そんな場所で私は断罪されなければならないのでしょうか?


「では言わせていただきます。私の悪行と申されましたが私には全く身に覚えがありません」


「何を白々しい!」


「白々しいも何も、キャサリン様でしたか?私、その方のお名前もお顔も先程初めて知りましたのにどうやって殺そうと思うのでしょうか?」


「は?!知らないだと?」


「はい、全く存じ上げません。第一私、今夜の夜会に参加するまで隣国に留学しておりましたのにどうやってその方と知り合い、どういう経緯で殺そうなどと考えなければならないのでしょうか?その方は隣国にお住まいの方なのですか?」


「は?留学?」


「はい、留学しておりましたが」


「嘘ならもっとまともな嘘をつけ!」


「嘘ではございません。今朝隣国より戻りこの夜会に参加致しましたのは我が家の皆だけでなく私の婚約者のリュカ・エハリア様も知っておりますわ」


「は?!婚約者?!貴様の婚約者は俺だろう!」


「私、貴方様と婚約した事は一度たりともありませんが?」


「貴様は俺の婚約者だろうが!」


「何をどう勘違いされているのかは分かりませんが、私の婚約者は10歳の時よりリュカ様ただ1人でございます。アモルド子爵家と婚姻の約束などした記憶も記録もございません」


「なっ!そんな訳は!」


「そもそもアモルド子爵令息とは本日初めてお会いしたはずなのですが?そんな私が何故謂れもない罪で断罪されなければならないのでしょうか?」


「お前とは何度も会っていたではないか!1週間前にも会ったぞ!」


「先程も申し上げましたが1週間前には私、隣国におりました。お疑いならば王家にご確認ください。この度の留学は王家からの要請で行われたものですので」


「お、王家?!」


「はい。リュカ様が留学をするにあたり私も同行して欲しいとの事でしたので」


「リュカとは何者だ!もしや詐欺師ではないのか?!」


「詐欺師?貴方様こそ何を仰っているのです?リュカ様はこの国の第二王子ですが?まさか自国の王子の事もご存知ありませんか?」


「お、王子?!」


「というかこの茶番劇は一体何時まで続くのでしょうか?そもそも侯爵家の私と子爵家の貴方様の間で婚約が結ばれる事がおありだとお思いですか?」


「侯爵家?!お前は男爵家のスーザン・マキュー(・・・・)だろうが!」


「私、侯爵家が長女スーザン・マシュー(・・・・)でございます。よもや貴方様はご自分の婚約者の顔すら把握されておられないのですか?婚約者が呆れた事でございますわね」


「だ、騙されないぞ!お前はスーザン・マキューだ!」


「もしや貴方様は視力がお悪いのではございませんか?この距離でご自身の婚約者かどうかも判断出来ないとは相当視力に問題があるとしか思えませんが?それに私が侯爵家の人間である事はこの場にいる大勢の方がご存知だと思いますが?」


「そ、そんな…まさか…いや!俺は騙されないぞ!第一髪色がスーザンそのものではないか!」


「先程から私の名を勝手に呼び捨てにされていますが、私、一度も名前を呼ぶ事を許可した覚えがございませんので、どうか私の事はマシュー侯爵令嬢と呼んで頂けませんか?貴方様と親しい間柄と誤解を受けたくはございませんし、貴方様に呼び捨てにされる謂れもございません。それに私の髪色はこの国ではとても一般的な茶色でございます。きっと貴方様の婚約者であるスーザン・マキュー様も茶色い髪をされていらっしゃるのでしょ?だからと言って私を貴方様の婚約者だと勘違いなされても困ります」


そこに茶色い髪の少女が飛び込んできた。


「デスリー!いい加減にして!貴方が私に興味が無いのは分かっていたけど、顔すら覚えていなかったなんて信じられないわ!」


髪色こそ私と同じ色だが顔立ちも体型も私とはまるで違う彼女がスーザン・マキュー嬢なのだろう。


私はリュカ様に「折れてしまいそうだ」と言われる程にほっそりとしているのだが、スーザン・マキュー嬢はふっくらと肉付きの良い健康的な体をしていらっしゃる。


私はアクアマリンに例えられる瞳をしているがスーザン・マキュー嬢は落ち葉の様な赤みを帯びた茶色い瞳だ。


こんなにも似ても似つかないのにどうしたら見間違える事が出来るのだろうか?


「なっ!スーザンが2人?!」


「何を馬鹿な事を言ってるの?!こちらの方は侯爵家のご令嬢じゃない!」


「侯爵令嬢…」


漸く状況を理解したのかデスリー様の顔色が見る間に青ざめた。


「前にも言ったわよね?眼鏡を掛けなさいって!眼鏡を掛けてお隣にいらっしゃるキャサリン嬢のお顔をよくご覧になれば?きっと面白い事になるでしょうね!」


「よければこの眼鏡を使うかい?」


近くにいらしたマクリアン伯爵様が眼鏡を差し出してきた。


それをスーザン・マキュー様は「ありがとうございます。少しの間お借り致します」と受け取るとデスリー様に差し出した。


眼鏡を掛けたデスリー様はキャサリン様を見て悲鳴を上げた。


「だ、誰だこいつは?!」


「誰だなんて酷ーい!貴方の愛しのキャサリンじゃなーい!」


クネクネと身を捩りながら甘える仕草でデスリー様の腕に絡みつくそれは、レディと呼ぶにはかなり歳が行き過ぎていて見苦しい。


首元には何本も皺がより、金色に見える髪には白い物が沢山交じっている。


声こそ愛らしいが、どう見ても私の母よりも年上に見える。


それがピンクのブリブリしたドレスを恥ずかしげもなく身に纏い、頭には同色の大きなリボンまで着けているのだから珍妙この上ない。


「う、嘘だ…キャサリンはこんな化け物じゃない!」


「化け物?!はぁ?!誰が化け物だって?!いつも私の胸にチューチュー吸い付いてたのはどこのどいつだ!」


その言葉を聞いて周囲の女性達から悲鳴が上がった。


デスリー様は首を横に振りながらもキャサリン様から距離を取り始めている。


「何があったんだ?」


そこにリュカ様がやって来た。


本当であれば私をエスコートする予定だったのだが急用が入り遅れていたのだ。


事情を説明するとリュカ様は愉快そうに笑い始めた。


「笑い事ではありません」


「わ、悪い!でも、こんなに傑作な事はそうそうないだろう?!」


涙まで流して笑っているリュカ様を半ば呆れた顔で見ていると、キャサリン様の金切り声が聞こえてきた。


「散々人の体を良い様に弄んどいて今更逃げるなんて許さないよ!」


「よ、寄るな!俺のキャサリンはお前の様な化け物じゃない!」


「人の体の隅々まで堪能しておいて顔は見てませんでしたなんて話、通用すると思ってんのかい?!」


「ひ、ひぃぃ」


「デスリー…この婚約は破棄させてもらうわ」


「ス、スーザン!待ってくれ!」


「貴方にはそちらのキャサリン様がお似合いよ!どうぞ末永くお幸せに!あ、そうだ!眼鏡はお返ししなければならないから外して頂戴!眼鏡が無ければ元のキャサリン様に戻るのでしょうから、良かったじゃない!」


皮肉をたっぷりと込めた口調でそう言うとスーザン・マキュー様はデスリー様の顔から眼鏡を外してマクリアン伯爵様に「ありがとうございました」と眼鏡を返した。


「ま、待ってくれ!」


縋り付く様に私の元へとやって来たデスリー様を躱すと、リュカ様が愉快そうに笑いながら


「私の婚約者に触れようとするとはいい度胸だな」


と言い、それを聞いたデスリー様はこの上なく顔色が悪くなった。


「さあ、茶番劇はここまでだ!デスリーとキャサリン嬢?は別室にてゆっくりと話し合うといい。ここにいる皆が証人だ、スーザン嬢との婚約破棄は速やかに処理する事にしよう。さあ、君達にはこの場から退場願おうか?」


リュカ様がそう言うと2人は衛兵に連れられて別室へと移動させられた。


□■□■□


リュカ様とお茶を楽しんでいると


「そうだ、デスリーの件なんだけどね」


と愉快そうに話し始めた。


デスリー様は王宮主催の夜会で騒ぎを起こした責任を取らされ平民に落とされたそうだ。


子爵家は自ら爵位降下を願い出て男爵に位を下げ、弟のカリス様が継ぐことになったらしい。


断罪の内容もキャサリン様の虚偽の言葉をそのまんま受け取り、調べる事もしていなかったらしい。


呆れた話である。


「キャサリン嬢だけどね、御歳62歳だったそうだよ」


リュカ様がお腹を抱えて笑いながらそう述べた。


「62歳?!」


確かに随分と薹が立ちすぎたご令嬢?とは思ったがまさかお祖母様と同年代だったとは驚きである。


「キャサリン嬢はね、その昔それはそれは人気のある舞台女優だったのだそうだよ。今でこそ女優は引退して酒場で給仕の仕事をしていた様だけどね、後ろ姿だけは若々しく見えるし、何よりあの声が若いせいで年齢不詳の魔女とも言われていた様だよ」


「まぁ、あの方のお声は若いご令嬢のものと同じ様に若々しく愛らしかったですけどね…だけど62歳なのですよね?何故気付かなかったのでしょう?」


「デスリーは視力が相当悪かった様だけどね、後はキャサリン嬢の涙ぐましい努力の結果もあるのかもね…ククククク」


「人の顔も認識出来ない程の視力の悪さでよく今まで生きてこられたものですわね」


「ぼんやりとは見えていたらしいからね。何なのかハッキリとは分からずとも生きてはいけたんだろうね…ククククク」


「それにしてもです!だって、その…ね、閨、を共にされていたのでしょう?それなのに分からないなんて…」


「そこはキャサリン嬢の努力だよね。会うのは徹底的に薄暗くなってから、ベッドを共にする時は一切明かりをつけない、キスをする時は相手に最初から目を閉じさせる、その他色々行っていた様だよ?凄いよね…ククク」


「だからっておかしいですわ」


「そもそも論だがデスリーは元々おかしい男なのかもしれないよ?」


「え?」


「だってそうだろ?生活に支障が出る程の視力の悪さなのに『眼鏡は俺の魅力を減らす』と頑なに掛けず、己の見た目に絶対的な自信すら持っていた自己愛の強い男だったしね」


「魅力…あの方のどこに自信を持つ程の魅力があったのでしょう?」


「視力が悪かったのだ。ぼんやりした視界で自分が美男子に見えていたのかもしれないね」


「美男子、ですか…」


デスリー様の容姿を思い出す。


鼠色のベッタリと重そうな髪、腫れぼったく細い瞳、鼻から頬にかけて濃いソバカスがまるで胡麻のようにハッキリと浮かんでいて、鼻はボテッと団子っ鼻。


身長はそこそこ高かったがやけに頭が大きく足は短かった。


美男子と言うのはリュカ様の様な方を表していると思う。


プラチナブロンドの輝く様なサラサラの髪にルビーの様に輝く赤い瞳。


きめ細かな白い肌は女の私から見ても羨ましい限りだ。


それがスッキリと収まった顔はとても美しく、幼い頃は天使の様だった。


今は性格も知っているので天使だとは思わないが、美しさには磨きがかかり、隣国での留学中も沢山の女性がリュカ様に熱を上げていた。


ここだけの話、リュカ様には相応しくないと何度となく嫌味を言われ嫌がらせをされたものだ。


そんなリュカ様が私に愛を囁いている現実の方がたまに不思議な気もする。


「デスリーは強制的にキャサリン嬢と婚姻させられたから、今後はおかしな者同士仲睦まじく暮らしていくんじゃないか?ククククク」


「婚姻?!62歳と19歳でしたわよね?」


「祖母と孫の様な年齢差だよね。でも事は為せるのだから問題はないだろう?まぁ子孫は残せないだろうけどね。…ダメだ、おかしすぎる…アハハハハハハ」


耐えきれなくなった様にリュカ様が爆笑し始めた。


「そんなに笑わなくても」


「笑わずにいられないよ…アハハ…だ、だって、この上なく滑稽じゃないか…アハハハハ」


「現実を知らない方が良かったのかもしれませんねぇ」


「僕はしっかりと現実を知りたいと思う人間だけど、デスリーの様にどこか夢見がちな人間は知らない方が幸せな事もあるのかもしれないね?ククク」


「リュカ様ももし視力が落ち始めたらしっかりと眼鏡を掛けてくださいね?」


「君の愛らしい顔がぼんやりとしか見えないなんて辛いからね。もしそうなったら勿論眼鏡を掛けるつもりでいるよ?眼鏡を掛けたら僕の魅力は減るかな?」


「眼鏡を掛けても掛けなくてもリュカ様は素敵です」


「ありがとう、スーザン。君は本当に可愛くて最高の婚約者だよ。あぁ、結婚が待ち遠しいよ。早く君の全てを手に入れたい」


熱く熱の篭った目で見つめられ、恥ずかしさのあまり俯いてしまった。






色々指摘される点があるかもしれませんが、そういうもんだと思っていただけたら有難いです。


あまり手厳しい感想は凹みますのでご容赦いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう展開も良いですね。 面白い。
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