57話 神薬エリクサー
「……んっ」
久しぶりの何も痛みも苦しみもない目覚めに、ルヴァイスは違和感を覚え目を開けた。
「……ここは?」
横に視線を向けると、いつもの自室でテオがお茶を注いでいる姿が見える。
「お目覚めになりましたかルヴァイス様」
「……テオか、私は一体?」
そういってぼんやりした頭をおさえ体を起こし違和感を覚え、隣を見ると、すぅすぅと寝息をたてて一緒に寝ているソフィアの姿がある。
数秒ソフィアを凝視したあと。
「……状況がつかめんのだが」
と、半眼でつぶやいた。
「おや、ルヴァイス様がソフィア様に一緒に寝てほしいと引き留めたはずですが」
「なっ!? 私がかっ!?」
慌ててベッドから起き上がろうとするルヴァイスにテオは面白そうに笑う。
「冗談ですよ。薬を飲まれたあとそのままソフィア様と手を握ったままでしたので、起こすのも忍びなくてそのままに」
そう言いながら「薬ですからお飲みください」と入れたお茶を手渡す。
「……そうか」
ルヴァイスは受け取りながら視線をソフィアに移した。
病で伏せっている間。なぜかソフィアの声が聞こえた気がした。
内容は朧気で思い出せないが、夢の中の自分は必死にソフィアの手を取ろうとしていたような気がしたのである。
(……もしかしてあれは夢ではなかったのだろうか?)
考えようとすると、急に頭痛に襲われて頭を押さえた。
「ルヴァイス様?」
「……いや、なんでもない。テオ。私は今どういう状態だ?
病に伏せっているときの記憶が曖昧で思い出せない」
「ソフィア様の作ってくださった神薬エリクサーの効果で、体に害をなしていた瘴気がすべて中和されました。瘴気によって蝕まれ、損傷していた臓器もすべて回復しております」
「神薬エリクサーを? 古に失われたというあの薬を?」
ルヴァイスは眉をひそめた。
神薬エリクサーのことは王族の閲覧できる秘書で読んだことがある。
あの薬は確かにエルフの【錬金術】で作れるとは記載してあったが特別な材料が必要だったはずだ。
「はい。ですが、神薬エリクサーをもってしても呪い自体は解除できませんでした。
体が瘴気を吸収してしまう体質自体は変えらておりません。
定期的にエリクサーを呑む必要があるでしょう」
テオの言葉にルヴァイスは考え込む。
呪いの件はどうでもいい、それよりも重要なのはエリクサーの材料が手に入ったことだ。
「……神薬エリクサーを作れたということは、【ファティナの花】が手に入ったということか?」
「はっ。ソフィア様が入れるエルフの領域で手に入ります」
「なるほど……その話詳しく聞かせてもらおうか」
そう言いながらルヴァイスは立ち上がるのだった。