56話 立派な婚約者
「こちらです。お入りください」
薬を作ったあと、私とテオさん、ジャイルさん、クレアさんの四人でルヴァイス様のお部屋に通された。
大きな天蓋付きベッドでルヴァイス様はいまだ眠ったまま。
そばにはメイドさんと騎士さんが控えている。
「何か変わったことは?」
護衛の人にテオさんが聞くと、護衛の人は首をふり
「今日は比較的容態は安定していました」と答えてくれる。
「わかりました。あとは私たちが観ます。あなたたちは下がって休みなさい」
そうテオさんが言うと、護衛の人とメイドさんは部屋を出て行った。
「ジャイル、この部屋に違和感は?」
テオさんが急にジャイルさんに聞く。
「違和感? 何かあるか?」
とジャイルさん。
「……いえ、気のせいならいいのですが」
そういってテオさんは視線をルヴァイス様に落とした。
いつものルヴァイス様なら私が近づいただけで目を覚ますのに、今日のルヴァイス様は苦しそうに肩を上下させているだけで目を覚まさない。
「う……あ……」
「「ルヴァイス様!?」」
テオさん、ジャイルさん、クレアさんが声をあげる。
ルヴァイス様がうめいて手を伸ばすので私はその手をとった。
大丈夫? 大丈夫?
私が心配になってぎゅっと手を握ると、ルヴァイス様もぎゅって握り返してくれる。
私はルヴァイス様の手をぎゅってして治りますようにっていっぱい祈る。
「ジャイル薬を!」
「いや、意識がないのに飲ませるのはまずい。
水が気管に入ってしまう可能性があるし、今のルヴァイス様の状態だと意識なく急激に回復するのはかえって命を危険にさらすってわかるだろ? お前らしくない落ち着け」
ジャイルさんがテオさんの肩に手を置いた。
テオさんが心配するのもわかる。
ものすごく顔色が悪いし、黒いもやもやがすごいの。
目を覚ましたらすぐにお薬を飲ませなきゃ。
お願い。お願い。苦しさが消えますように。
お願い。お願い。この瘴気が全部全部消えますように。
私はさらにぎゅっーとルヴァイス様の手をつかんで祈る。
大好きだから死なないで。
まだ私はルヴァイス様に何も返していない。
ルヴァイス様の役に立ちたい。
だからどうか――。
私がルヴァイス様の顔を覗き込んだその時。
「……ソフィア……」
ルヴァイス様がうっすら目をあけて、私の名を呼んだ。
◆◆◆
「あーー!!」
私は黒いもやもやが晴れて、のっそりと上半身を起こしたルヴァイス様に抱き着いた。
あれからルヴァイス様がエリクサーを苦しそうに飲み干すと、ルヴァイス様の黒いもやもやはさーって消えていったの。
「心配をかけたな。すまなかった」
そういってルヴァイス様が私の頭を撫でてくれる。
『大丈夫?痛いところない?苦しくない?』
「ああ、気分がいい。体が軽くなった」
そういって微笑むけれど、すっかりやせ細ってしまってるルヴァイス様は再びベッドに力なく倒れた。
私は慌ててルヴァイス様の手を取る。
「「「ルヴァイス様!?」」」
「……眠い」
「え?」
「…楽になったら眠気がひどい」
そういって目を閉じる。
「疲れたのでしょう。よく休んでください」
テオさんが言うとルヴァイス様は「ああ」といってそのまま、私の手を握ったまま微笑んだ。
「ありがとう。ソフィア。そなたのおかげだ」
そういって、微笑んだあと、そのままうつらうつらして目をつぶってそのまま寝てしまう。
「俺たちの前でまぁこれだけ無防備に寝るってことは、よっぽど眠いんだろうな」
ジャイルさんがぽりぽりと頭をかいて、主治医の人も脈をとりながら、「これなら大丈夫でしょう」と微笑んでくれた。
よかった。 ルヴァイス様治ったんだ。
「ではいきましょうか。ソフィア様」
クレアさんがそういうけれど、ルヴァイス様は私の手をしっかり握ったまま寝てる。
私の視線で手が握られていることに気づいたのかクレアさんが「どういたしましょう?」いうから私はにっこり微笑んだ。
「あー」ってちょこんってルヴァイス様に寄り添って隣で寝ると、テオさんとジャイルさん、クレアさんが顔を見合わせる。
「さすがに嫁入り前の女の子がベッドで一緒にいるのはまずくないか?」
「ですが、婚約者ですよ? 問題はないはずですが」
テオさんの言葉にジャイルさんが私とルヴァイス様の顔を見比べる。
「そういえばそうだったな。ソフィアちゃんの容姿で完璧に忘れてた」
どういう意味だろう。子供に見えるってことかな?
私だって立派なレディの年齢だよ。
そして立派なルヴァイス様の婚約者!
私が怒ってジャイルさんをみると、ジャイルさんが笑って、「悪い悪い」って頭をなでてくれた。
「ではルヴァイス様が手を放すまで、ここでよろしいですか?」
と、クレアさんが言うから、私は嬉しくてうんって頷いた。