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16話 竜王陛下


 これから……どうなるんだろう。


 私は煌びやかな神殿の控室のソファで座らされて、ただ周りの様子を見ていた。

 神殿の神官の人が今日は竜王ルヴァイス様が来るからあなたも用意をと、包帯をとられてドレスを着せさせられた。竜王の嫁選びの舞踏会のために。


 魔法で火傷だらけに見える肌なのに肌の露出の多い不釣り合いな白いドレスを着せられて、神官達に囲まれてソファに座らされている。

 火傷でただれた肌にみんな私から目を背けるの。


「何もあんなおぞましい子を出席させる必要もないでしょうに」


「【聖気】ももたないあの子が選ばれる事なんてないでしょう?」


「デイジア様に嫉妬してデイジア様にキャンドルを投げつけようとして、誤って自分に火をつけて火傷を負ったのですよね?

 そんな心根の曲がった女が選ばれるわけありませんわ」


 すごく広い部屋の片隅のソファで座らせて待っている私にわざと聞こえるようにリザイア家の血筋で従妹の聖女候補たちや神官たちがひそひそと話していた。


(……そっか。私の火傷の理由はそういう事になってるんだ)


 無理やり部屋に閉じ込められて、火をつけられて殺されそうになったのに。

 痴話げんかで、誤って火傷したことにされていたなんて。


 すごく苦しくて、レイゼルさんに治してもらうまで息をするのも辛いほどひどい火傷だった。

 ひゅーひゅーと息をするのが怖かった。

 火に囲まれて、熱くて息苦しくて、肌全身を刺すような痛みを思い出して怖くなる時がある。


 いまだって火が怖くて一人暮らしをしているのに火を使えないから生のお野菜と時々持ってきてくれるパンしかたべられない。


 酷い事をされたのは私の方。


 なのにそれまでも私が悪い事にされているなんて。 


 悔しくて泣きたくなったけれど、私はぐっと我慢した。


 ここで泣いても仕方ないもの。

 負けちゃだめ。私が悲しそうな顔をしてみんなが嬉しそうにするのを私は知っている。

 私を虐めるとデイジアとお母さまが喜ぶからみんなが私を虐めるんだ。

 だから無表情を貫くの。

 悔しくてドレスをぎゅっと掴む。


 ……ふと、広間にアルベルトと兵士たちの揉めている姿が目に入ってきた。


(アルベルト。なんでここにいるんだろう? デイジアと一緒じゃないの?)


 その様子を不思議にも思って見ていると、神官服の兵士と、怒鳴りあってもめていたアルベルトと目が合う。 


「……ソフィアっ!!

 ああ、会いたかった!!!」


 目が合った途端アルベルトがなぜか手を広げてこちらに歩みよってきた。


 会いたかった? デイジアと一緒にいじめてきたのに?


 ニコニコ顔で迫ってくるアルベルトが怖くて、私はあわてて逃げようとするけれど、アルベルトに腕をつかまれる。


「待ってくれ! ソフィア! 私は君に謝りたいんだ!」


 アルベルトが私の手をとっていってくる。


 謝る? 何を?



「お前に近づいたのはデイジア様の気を引くためさ。

 お前になんて興味がない」



 婚約破棄されたその日、二人きりになったとき、私が彼に言われた言葉。

 ずっと信じてた。好きだって言葉に舞い上がってた。

 みんな私を嫌いというのに、初めて好きって言ってくれた人。

 お友達がうれしくて私は彼が大好きだった。

 

 だからあの言葉がどんなにショックだったのかアルベルトは知らない。


 神殿でよくアルベルト達にいじめられたのを思い出して手も足も震えてしまう。

 レイゼルさんとの幸せな日々と、一人の時間が長すぎて忘れていた。

 そうだ神殿は怖いところ。みんな私を虐めるの。


「あー!!」


 離してって手を振りほどこうとするけれど、「会いたかったよ。ソフィア」ってアルベルトは離してくれない。


 嫌だ。 嫌だ。

 私は会いたくなかった。

 私が会いたいのはレイゼルさん。

 あなたじゃない!!


 お願い誰か助けて。

 キュイと一緒だった男の人も「必ず迎えにくる」って言って去ってしまってから姿を見せない。

 キュイもいつの間にかいなくなってしまった。


 私を助けてくれる人は誰もいない。


 私はまたアルベルトとデイジアにいじめられる生活になるの?

 また神殿に戻らないといけないの?


 なんでこんなところに呼ばれたの?

 元のお家に戻りたい。レイゼルさんと私のお家に。


 あの小屋でレイゼルさんが戻ってくるのを待ってたい。


 私が逃げようとしていると、急にがやがやと部屋のドアの前が騒がしくなる。


 そしてドアが開かれて わーっと歓声があがる。

 なんだろう? デイジアが部屋に来たの? 私をいじめに?


 アルベルトの視線もそちらにいって、私もつられて扉のほうに視線を向けた。


 恐る恐る扉のほうを見ると、そこにいたのは、私のことを助けてくれると約束したキュイと一緒にいた人。

 今日はすっごく豪華な衣装で、勲章をじゃらじゃらつけていて赤いマントを翻して部屋の中に入ってくる。

 絵本の中の王子様みたい。


 その人の姿を見たとたん、みな声をあげた。


「竜王陛下っ!!!」「なんでここに?」


 皆が口々にその男の人について語っていた。


(竜王陛下?あの人が?)


 私がぽかんと、男の人を見ていたら男の人は私の姿を見るなり、嬉しそうにほほ笑んでくれて、私のもとに向かってくる。


 会場がいっきにざわつく中。


 私の手を握るアルベルトと私の前で男の人は立ち止まった。


「さぁ、私の愛しいソフィアから手を放してもらおうか」


 男の人がそういうと、会場がシンッとした。


「まさかこんな【聖気】ももたない役立たずを!?」


 アルベルトがそう言って、はっとした顔になる。

 その言葉に竜王陛下はアルベルトの手をひねり上げた。


「なっ!? 痛っ!!」


「私の愛する女性を侮辱したのだ。これくらい当然だろう?」


 そういって男の人はアルベルトをひょいっと持ち上げて、放りなげた。

 投げられてアルベルトは床にたたきつけられている。


「あー!?」


 私が思わず声をあげると、男の人は私の前でかがんで、手を取ると手の甲にキスをした。


 ……え!?


 ……ええええええ!?


 もう意味がわからなくて、私があたふたしていると。


「お迎えにあがりました。愛しのマイレディー」


 そう言って男の人はすごくいたずらっ子な笑みで微笑んだ。




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