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オルタナティヴ・ブック

作者: 水野泡

 私の好きな本は、1人の人間にしか刺さらない。


 100人中、99人が「くだらない」、「つまらない」などと言う。それは仕方のないことだと思っている。だって自分でもどうしてこんな本が好きなのかも分からないのだから。

 それでも、好きなものは好きだから、「おすすめの本は?」と聞かれればその本を紹介する。ほとんどの人間が「面白くなかった」と言われても、誰か1人に刺さるまで。


 ただ最近、困ったことがある。その本は既に絶版で、地元の図書館も、その本を除籍してしまった事だ。


 自分の持っている本を貸すことはできる。でも、誰かがこの本を気に入った時、どうやってこの本を手に入れるのだろう?

 絶版した本は、高い値段に吊り上げられるか、廃棄処分のように安く売り出される。後者ならまだどこかの古本屋にあるけれど、前者の場合は希少になったからこその吊り上げだ。手に入れるには難しい。

 何より図書館にも要らないと捨てられたことで、この本の存在価値も、私自身の存在価値も、全部捨てられてしまった気分になった。


 「お前のような人間は要らないよ」


 そんな風に言われた気がしたのだ。


 新しい本は、魅力的。面白い本は、魅力的。みんなが読む本が正しくて、みんなが読まない本は正しくない。

 少数派はいつだって追いやられる。「つまらない」「興味がない」「要らない」――そんな言葉を吐かれて、今日も人気のない場所で隠れるようにして本を読む。


 でも、もう、隠れる場所さえ残っていない。


 私の行く図書館は、いつの間にか、明るい、本を読むのが苦手な子のためのものになった。

 私が好きだった薄暗い図書館は、古いもの、要らないものとして捨てられた。

 また1つ、私の居場所はなくなったのだ。


 それでも私はその本が好きで、おすすめを聞かれればこの本を紹介する。

 無かったことにはさせたくないから。

 こんな本があったのだと、少しでも多くの人間に覚えて欲しいから。


 そして、いつかきっと現れる「この本が好きになる誰か1人」のために、この本を紹介して回るのだ。




 いつかこの本を、好きになってくれる貴方へ。


今日たまたま母校の話題になって、今どうなってるのかサイトを覗きに行った。「明るい図書館」にリニューアルしたというお知らせを見て「あ、自分が好きだった本は捨てられた可能性高いな」と思った時の気分を小説風になんとなーく綴ってみました。

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