魔物討伐遠征②
「着いたわね。ここがレイゼルフォード、見ての通り美しい町よ」
「壮観だな」
到着した町は広大で、見渡す限りの色鮮やかな花畑。
そして周囲には、爽やかな木々の緑も生い茂っていた。
つまりは美しい自然があふれる町、という表現が適切だった。
だからこそ、馬上のルミラとアンネリーゼは思わず笑みがこぼれてしまう。
それは後ろに続くゲルフやリーゼロッテ、兵士達も同様だった。
「だけど町の外には、魔竜の住処があるのよ。それも最近活発で、よく姿が確認されるみたいよ。だから住人は、どんどん町の外に出られなくなっているの。経済活動にも支障をきたし始めているわ」
「何か理由があるのか」
ルミラは振り返って、アンネリーゼを見る。
「わからないわ。本当にここひと月ほどのことなのよ」
「被害はどうなんだ」
「それが、直接の被害はないのよね。一応、襲ってきたりはしないみたいなんだけど……でも竜がうろついてたら、おちおち外に出られないでしょ? だからまぁ、討伐っていうより調査が先かしらね」
「腹が減ってるわけじゃないのか」
「人は食べないみたいよ」
そこまで会話したルミラは、前に向き直ってじっと考え始める。
魔竜――それは文字通り、魔物である竜のことだ。
そして、その種類はピンからキリまで様々である。
下は最低ランクのカテゴリーE級に該当するようなワイバーン。
上はカテゴリーSSS級に該当するような、それこそ神魔と同等の力を持つとされる幻の神竜までだ。
「さ、今日はひとまず町で休みましょ。長旅で疲れたしね」
「あぁ」
とにもかくにも、アンネリーゼの言葉にルミラは軽く同意する。
「色々な意味で疲れた、全ては明日にまわそう」と、ルミラは心の中で愚痴るが――
彼が本当に困るのは、まさにその夜のことだったのだ。
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レイゼルフォード 宿屋
「絶対におかしいだろ」
「何がよ」
その日の夜――
旅の疲れをやっと癒せると、珍しく気分が晴れていたルミラだった。
幸いにして、泊まる宿は皇女であるアンネリーゼがくるだけあって豪華で綺麗なところだったのもあり、がらにもなくわくわくと期待していたのだ。
――が。
「わかるだろうが」
宿の部屋割りを確認してすぐに、アンネリーゼに抗議したのだ。
「なんで俺と同室なんだよ」
「空きがなかったんでしょ」
しかし、アンネリーゼは少しもまともに取り合う気はなかった。
それどころか、上機嫌でふかふかのベッドにぼふっと腰をおろして、挙句の果てにはふんふんと鼻歌まで歌いだした。
この状況を、これ以上ないほどに楽しんでいる始末だったのだ。
「事前に知らせているのにか」
ルミラはじとりと視線を送る。
「それに、私の警護も兼ねてるから」
「外に見張りの兵士もいるんだが」
「当たり前でしょ、それに加えて必要なのよ」
「そういうもんか」
だがすぐに、いとも簡単に言いくるめられてしまった。
皇女ってのは、それくらいのポジションなんだなと、悲しいくらいにルミラは疑問を持たなかったのだ。、
「じゃあ何でベッドが一つしかないんだ」
「たまたまよ」
「なのに枕は二つなんだが」
「たまたまよ」
「机とかは全部二組あるんだが」
「たまたまよ」
しかし、ここまで会話してから、流石にルミラも頭を抱えてしまった。
「ちょっと、何してるのよ」
「俺は椅子で寝るぞ」
だからこそ、ルミラは腕組みをして、椅子にかけて目を閉じたのだが――
「ダメに決まってるでしょ」
「なんでだよ」
「私の身に何かあったらどうする気なの」
今度はアンネリーゼが、ルミラの行動に抗議する。
しかもルミラに声をかけながら、目線を枕に向けて「ここで寝なさい」と指図するのだ。
「どう考えても男を隣に寝かせる方が何かあるだろ」
「大丈夫よ、信頼してるから。それに長旅で疲れてるでしょ?」
「だがなあ」
そこまで、努めて平常心で渋るルミラだったが――
「ほら、おいで?」
「――ッ!?」
笑顔で両手を広げて迎えようとするアンネリーゼに対して、流石にどきっと心が動揺してしまう。
くそ、お前は自分の可愛さをもっと自覚しろと、ルミラは心の中で悪態をついた。
「いや、やっぱりだめだ」
しかし、そこはルミラの鉄のような理性が勝ったのだ。
ルミラはきっぱりと断って、顔をそむけて目を閉じる。
その姿は、俺はもう寝るぞ、これ以上のやりとりは無駄だと言わんばかりだった。
「ふーん」
――のだが。
「神魔達とは添い寝した癖に、私とはしないんだ」
突然の、底冷えするようなアンネリーゼの声にどうしても反応してしまう。
「譲歩できるラインがそこだっただけだ」
「嬉しかったでしょ」
アンネリーゼの言葉は、さらに冷たさを増していた。
「それに正直、身の危険を感じる」
「馬鹿ね。私がそんなことするわけないでしょ」
「……………………」
そしてついに――
「本当だな?」
ルミラは悲しいことにも、根負けしてしまったのだ。
確かに、椅子では疲れはとれないからなと、一人納得してしまったのだ。
だが――
「当たり前でしょ」
それはあまりに軽率な行動だったと、その翌朝に彼は気付くことになるのだ。
「最初はやっぱり、される方がいいもの」
次回は遠征前に、あれやこれやと事実が発覚……!
次回は12時頃、次々回は19時頃の豪華三本立てでアップします!
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