表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/33

魔物討伐遠征②

「着いたわね。ここがレイゼルフォード、見ての通り美しい町よ」


「壮観だな」


 到着した町は広大で、見渡す限りの色鮮やかな花畑。

 そして周囲には、爽やかな木々の緑も生い茂っていた。

 つまりは美しい自然があふれる町、という表現が適切だった。


 だからこそ、馬上のルミラとアンネリーゼは思わず笑みがこぼれてしまう。

 それは後ろに続くゲルフやリーゼロッテ、兵士達も同様だった。


「だけど町の外には、魔竜の住処があるのよ。それも最近活発で、よく姿が確認されるみたいよ。だから住人は、どんどん町の外に出られなくなっているの。経済活動にも支障をきたし始めているわ」


「何か理由があるのか」


 ルミラは振り返って、アンネリーゼを見る。


「わからないわ。本当にここひと月ほどのことなのよ」


「被害はどうなんだ」


「それが、直接の被害はないのよね。一応、襲ってきたりはしないみたいなんだけど……でも竜がうろついてたら、おちおち外に出られないでしょ? だからまぁ、討伐っていうより調査が先かしらね」


「腹が減ってるわけじゃないのか」


「人は食べないみたいよ」


 そこまで会話したルミラは、前に向き直ってじっと考え始める。

 

 魔竜――それは文字通り、魔物である竜のことだ。


 そして、その種類はピンからキリまで様々である。

 下は最低ランクのカテゴリーE級に該当するようなワイバーン。

 上はカテゴリーSSS級に該当するような、それこそ神魔と同等の力を持つとされる幻の神竜までだ。


「さ、今日はひとまず町で休みましょ。長旅で疲れたしね」


「あぁ」


 とにもかくにも、アンネリーゼの言葉にルミラは軽く同意する。

 「色々な意味で疲れた、全ては明日にまわそう」と、ルミラは心の中で愚痴るが――



 彼が本当に困るのは、まさにその夜のことだったのだ。



xxx



レイゼルフォード 宿屋



「絶対におかしいだろ」


「何がよ」


 その日の夜――

 旅の疲れをやっと癒せると、珍しく気分が晴れていたルミラだった。

 幸いにして、泊まる宿は皇女であるアンネリーゼがくるだけあって豪華で綺麗なところだったのもあり、がらにもなくわくわくと期待していたのだ。


 ――が。


「わかるだろうが」


 宿の部屋割りを確認してすぐに、アンネリーゼに抗議したのだ。


「なんで俺と同室なんだよ」


「空きがなかったんでしょ」


 しかし、アンネリーゼは少しもまともに取り合う気はなかった。


 それどころか、上機嫌でふかふかのベッドにぼふっと腰をおろして、挙句の果てにはふんふんと鼻歌まで歌いだした。

 この状況を、これ以上ないほどに楽しんでいる始末だったのだ。


「事前に知らせているのにか」


 ルミラはじとりと視線を送る。


「それに、私の警護も兼ねてるから」


「外に見張りの兵士もいるんだが」


「当たり前でしょ、それに加えて必要なのよ」


「そういうもんか」


 だがすぐに、いとも簡単に言いくるめられてしまった。

 皇女ってのは、それくらいのポジションなんだなと、悲しいくらいにルミラは疑問を持たなかったのだ。、


「じゃあ何でベッドが一つしかないんだ」


「たまたまよ」


「なのに枕は二つなんだが」


「たまたまよ」


「机とかは全部二組あるんだが」


「たまたまよ」


 しかし、ここまで会話してから、流石にルミラも頭を抱えてしまった。


「ちょっと、何してるのよ」


「俺は椅子で寝るぞ」


 だからこそ、ルミラは腕組みをして、椅子にかけて目を閉じたのだが――


「ダメに決まってるでしょ」


「なんでだよ」


「私の身に何かあったらどうする気なの」


 今度はアンネリーゼが、ルミラの行動に抗議する。

 しかもルミラに声をかけながら、目線を枕に向けて「ここで寝なさい」と指図するのだ。


「どう考えても男を隣に寝かせる方が何かあるだろ」


「大丈夫よ、信頼してるから。それに長旅で疲れてるでしょ?」


「だがなあ」


 そこまで、努めて平常心で渋るルミラだったが――


「ほら、おいで?」


「――ッ!?」


 笑顔で両手を広げて迎えようとするアンネリーゼに対して、流石にどきっと心が動揺してしまう。

 くそ、お前は自分の可愛さをもっと自覚しろと、ルミラは心の中で悪態をついた。


「いや、やっぱりだめだ」


 しかし、そこはルミラの鉄のような理性が勝ったのだ。


 ルミラはきっぱりと断って、顔をそむけて目を閉じる。

 その姿は、俺はもう寝るぞ、これ以上のやりとりは無駄だと言わんばかりだった。


「ふーん」


 ――のだが。


「神魔達とは添い寝した癖に、私とはしないんだ」


 突然の、底冷えするようなアンネリーゼの声にどうしても反応してしまう。


「譲歩できるラインがそこだっただけだ」


「嬉しかったでしょ」


 アンネリーゼの言葉は、さらに冷たさを増していた。


「それに正直、身の危険を感じる」


「馬鹿ね。私がそんなことするわけないでしょ」


「……………………」


 そしてついに――


「本当だな?」


 ルミラは悲しいことにも、根負けしてしまったのだ。

 確かに、椅子では疲れはとれないからなと、一人納得してしまったのだ。



 だが――



「当たり前でしょ」



 それはあまりに軽率な行動だったと、その翌朝に彼は気付くことになるのだ。




「最初はやっぱり、される方がいいもの」

次回は遠征前に、あれやこれやと事実が発覚……!

次回は12時頃、次々回は19時頃の豪華三本立てでアップします!


ここまでお読みいただきありがとうございます!

【作者の励み】【モチベーションアップ】になりますので、少しでも面白い・続きが読みたいと感じていただけたならばブクマ・評価【特に評価は是非!】の程よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ