新たな恋敵①
評価を……、評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「本当にいいのかね」
「何がです」
「君の正体だよ」
夜が明けて翌日――
朝からの宮廷魔術師任命式を控えたルミラは、自身に与えられた仮宿でエーメリッヒと話し合っていた。
昨日ルミラは、自身の過去をエーメリッヒに明かした。
その際、自分が"大英雄レギナ"の生まれ変わりであり、【凶禍の呪術師】であることを周囲には隠してくれと、エーメリッヒにお願いしていたのだ。
何故ならルミラは、自分自身の力で帝国の役に立つまでは、事実を伏せる気でいたからだ。
「正体とはまた」
「帝国中の国民が、泣いて喜ぶはずだ」
しかし、エーメリッヒは完全には納得していなかったのだ。
「泣くか喜ぶか、どちらかにしてもらいたいですね」
「もはや今の君は、無力などではないのだぞ」
"神魔サタン"におんぶに抱っこだった頃ならまだしも、今のルミラは彼女すら凌駕している。
いや、それどころではない。
"七獄の神魔"と呼ばれる、最強の神魔達すら従えているのだ。
これはこの国で伝説の、"大英雄レギナ"すらも成し遂げることのなかった偉業だ。
だからこそ、広く世間に知らしめるべきだと、エーメリッヒは考えていたのだ。
「それだけの男でしょう。何かこの国の為に、特別貢献したわけでもない。俺はただの、新人宮廷魔術師です」
しかしルミラは、少しもまともにとりあう気はなかった。
それほどまでに、彼の決心は固かったのだ。
「とんだ頑固者だな」
「褒め言葉として、受け取っておきます」
呆れて笑いながら、そう口にするエーメリッヒ。
ふっと笑みを浮かべて、すまし顔で身支度を整えるルミラ。
昨日会ったばかりの二人の間には、やはり確実な信頼関係が芽生えていたのだ。
「わかった。君がいいならそれでいい」
やがてエーメリッヒは納得して、部屋を後にしようとするが――
「違いますよ、エーメリッヒさん」
ルミラに言葉で引き留められてしまう。
「何がだね」
それから晴れ晴れとした顔で、ルミラは一言だけ口にした。
これからやっと始まるのだと、胸をこれ以上ないほど期待させながらだ。
「それがいいんですよ」
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ベルスタルージュ帝国 宮廷魔術師任命式 会場
任命式は澄み渡った大空の下で、粛々と行われた。
終了した今の時刻は、ちょうど正午。
日はてらてらと輝き、風は大木の緑をさわさわと気持ちよく抜けていく。
それでも少し、この恰好は蒸し暑いなと、ルミラはおろしたばかりの指定装束に一人で愚痴る。
(もっとも、昨日まで着ていた黒のローブに比べれば、随分と涼しい造りだがな)
それから、またもや一人で納得して、ルミラは会場を後にしようと歩み始める。
「あんた」
さぁ、午後からは暇だし、これから帝都であるドルムントのどこをまわろうか。
せっかくだから、色々と見て回りたいなと、ルミラは気分良く考えていたのだ。
――が。
「こっちを向きなさい」
残念ながら、彼に平静など、どうしても訪れてくれなかったのだ。
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面倒事なら勘弁してくれと、ルミラははぁと溜息をついた。
それから声のした方向に、渋々視線を向ける。
「あんた、もしかして縁故採用じゃないでしょうね」
声の主は、美しく長い金髪と白い肌にすらっと伸びた手足の持ち主。
それに気品溢れる顔立ちで、うっすらと施された化粧はまさにいまどきの子という言葉が相応しかった。
しかしその表情は、酷く怒りに満ちていたのだ。
「何故そう思う」
「一般受験組から"特別権限"試合を受けて、それも首席の私と同じく"第七階級位"なんてどうかしてるわ」
「それほどに実力があるとは」
「思わない。だってあんたの魔力、全然感じないもの」
そりゃそうだ、昨日よりも強力な"封魔の呪印"を施さずにはいられなかったからなと、一人心の中でルミラは返した。
その理由は、紛れもなく暴走した彼女達だったのだが。
「不満なのか」
「当たり前でしょ」
目の前の美少女は、少しも追及を緩める気はなかった。
「一応、俺は勝利したんだが」
「直接見てないもの。エーメリッヒ様が手を抜いたんでしょ」
だめだ、この子もなんと言っても聴かないパターンだ。
なんで美少女ってのは、どいつもこいつもこうなんだ。
ルミラは即座にそう理解して、またもやはぁと溜息をついた。
「それで満足なの?」
「では、エーメリッヒ様に"第九階級位"にしてくれと頼んでこよう」
そうだ。
こういう時は、さっさと折れるに限る。
昨日の望んでもいない濃密な経験から、ルミラは瞬時に判断してそう口にした。
この子は俺と同列に扱われているのが、たまらなく許せないのだ。
そしてどうせこの国に貢献するのに、階級など飾りでしかないだろう。
さらには、仮に階級が必要だったとしても、手柄を上げて貢献してからでも遅くはない。
そこまで考えたルミラは、エーメリッヒに会うために、さっそく歩み始めたのだが――
「やっぱり、後ろめたいのね」
美少女の追及は、ルミラの想像を遥かに超えてしつこかったのだ。
「いや」
そしてどうにかならないかと考えたルミラは、もうひとつの本心まで吐いてしまうのだ。
「美少女の怒った顔は、もうこりごりなだけだ」
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「なんでついてくる」
「ちゃんと監視してないと、何を言うかわからないでしょ」
「お前は俺の母親か」
「誰がよ」
喧嘩するほど仲がいいとは誰が言ったのか。
はたから見れば、痴話喧嘩をしているカップルにも見えなくはなかった。
「シュレーゲル公爵家嫡女、リーゼロッテ=シュレーゲルよ」
「俺の前に任命されてたから知ってるぞ」
「うるさい」
任命状を渡されるのは成績順だったため、余計にリーゼロッテは腹が立っていたのだ。
「それにしても、箱入り娘だったか」
「実力はあるわ。あんたと違って」
そんなにぷりぷり怒らないでくれよと、ルミラは本日何度目かの溜息をついた。
「もうその認識でいいから、帰ってくれないか」
「絶対嫌よ。私が見てないのをいいことに、また不正を働く気でしょ」
「どうしたらいいんだよもう」
リーゼロッテの様子から察するに、たとえルミラの階級が下がったとしても、とても満足するようには見えなかった。
「簡単なことよ」
だからこそ、ルミラはどうしようもなく白旗をあげてしまったのだが――
これがまたもや厄介事の火種となるとは、思いもしなかったのだ。
「私と勝負しなさい」
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「力づくか」
「皆の前で、不正を暴いてやるわ」
「随分と、正義感が強いことで」
「あんたに比べればね」
リーゼロッテはいまだ、少しも緩まない姿勢を見せた。
「男がわんわん泣く姿を見たいのか」
「馬鹿じゃないの」
リーゼロッテの視線が、更に強みを増した。
「俺が勝ったらどうする」
「何でも言うことを聴くわ」
「そうか。じゃあ先に決めておこう」
「何よ」
もしや、いやらしいことでも考えているのではと、リーゼロッテは警戒する。
とはいえ、自分が絶対に負けるはずがないと、勝利を疑わなかった。
――だからこそ。
この後、ルミラの約束を忠実に守ることになるとは、思いもしなかったのだ。
「今後俺の前で、ぷりぷりと怒るのは禁止だ」
次回、まったく勝敗の分からない戦いが……ッ!(すっとぼけ)
次回は明日9/15の19時頃にアップします!
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