決着と再会
評価を……、評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「エーメリッヒ様!」
高らかな勝敗のコールと同時に、必死の形相で飛び出した試験官が一人。
エーメリッヒほどではないにしろ、十分に立派な装飾が施された装束に身を包む男だった。
それから、男はまるで壊れ物でも扱うかのように優しく、気絶しているエーメリッヒを抱きかかえる。
「大丈夫です。"精霊加護のペンダント"のおかげで、命に別条はありません。気絶しているだけですよ」
ルミラは出来る限り、優しくそう男に伝えた。
「ま、本来ならば。我が主の掌底をモロに喰らっておったから、とっくに即死しておるがの」
そしてルシファーは、後ろから呆れるようにそう言った。
「……………………」
そんな二人の様子に、真っ先に飛び出した試験官、ローゼルはじぃっと沈黙する。
後から来た部下にエーメリッヒを任せて、やがてゆっくりとした口調で口を開き始める。
「私は"第三階級位"宮廷魔術師、ローゼル=アルハルトと言う。エーメリッヒ様は私の上官だ」
「……そうでしたか。しかし、勝負の世界は厳しいものです。どうかお許しを」
ルミラはローゼルに深々と頭を下げた。
尊敬する上官を観衆の前で恥をかかせた男だと、この人はお怒りなのかもしれないと考えたからだ。
――だが。
「いいや、そのことについて私から何も言うことはない。当然、エーメリッヒ様もだ」
それは、あまりにも杞憂だった。
凛として淀みなくそう返したローゼルに対して、ルミラはふっと笑って心の中で感謝した。
――のだが。
「だが、教えてくれないか?」
「……?」
ローゼルの話の本題は、これからだったのだ。
「君は一体……何者なんだ?」
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「何者……というと?」
「とぼけないでくれ」
ローゼルは、間髪いれずに返す。
「"神魔召喚"はいまだかつて、"大英雄レギナ"様しか成しえなかった最上級召喚魔術だ。しかし、それを君はあっさりと、それも七体もの神魔を召喚してしまったのだぞ?」
「……………」
対するルミラは、沈黙してしまった。
それからローゼルは、しばらくじぃっとルミラを見つめるが、やがて埒が明かないと判断した。
それから、「とんでもなく罰あたりな発言かもしれないが」と前置きしてからさらに発言するのだ。
「君の実力は明らかに、"大英雄レギナ"様すらも凌駕している。だからこそ、何者かと聴いている」
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目は口ほどにモノを言うとはよくいったものだ。
ローゼルの目はまさに、「話すまでは帰さない」と言わんばかりだったのだ。
だからこそ――
ルミラはふーっと一つ長い溜息をついて、それからゆっくりと口を開き始めたのだ。
「"大英雄レギナ"の生まれ変わり……」
「や、やはり……ッ!?」
ローゼルの目が一杯に見開かれるが――
「――とでも言えば、貴方達は俺を歓迎してくれるのでしょうね」
「違うのかッ!?」
ローゼルを茶化すように、笑顔でそう口にするルミラ。
「馬鹿にするな」と、対するローゼルは、もう待ちきれない様子だったのだが――
「さて、俺はそろそろ退場します。指定受験組の採用試験はまだですからね。また後ほど、エーメリッヒさんの様子を見に行きますよ」
「まっ……待ちたまえ! まだ話は……ッ!」
急にくるりと反転して、この場を去ろうとするルミラに焦ってしまう。
待ってくれ、まだ何一つとして聴けていないのだと、ローゼルはルミラの肩を掴んで阻止しようとするが――
――ガシッ!
「――ッ!?」
「それ以上は、野暮というものじゃ。今はな」
背後に控えていたルシファーに、右手を掴まれて阻まれてしまう。
それから他の六人の神魔達も、ルミラに続いた。
(彼は……彼は本当に何者なんだ……? あれほどの圧倒的な力を持ちながら、我々にいまだ顔すら見せず、少しも語りはしない……。どんな理由があるのだ……?)
そうローゼルは思考したが――
「――かつて」
ルミラへと、思いが通じたのだろうか。
ルミラは歩みかけた足をぴたりと止めて、澄み渡る天を仰ぎながら口を開いた。
「かつて、俺は約束したんですよ。正真正銘、自分自身の力でこの国の皆さんのお役に立てた時こそ、喜んで歓迎を受けるとね」
「約束……?」
「少なくともそれまでは――、ただのルミラ=アルカディアとして生きたいんです」
――それから、突然振り返ってルミラは伝えたのだ。
「"大英雄レギナ"の名に恥じぬように、そしてなにより、自分で自分を認めてやるためにもね」
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ベルスタルージュ帝国 闘技場医務室
「ようやく、起きましたか」
「私は……どのくらい眠っていた?」
「今はもう夕方です」
それから闘技場の医務室で、ルミラはエーメリッヒが起きるのを待ち続けた。
数刻の時が過ぎ、斜陽は窓から部屋に差し込んで、空はとっくに赤く染まっていた。
「そんなにか」
ベッドの隣で椅子に掛けるルミラに対して、エーメリッヒは短く一言だけ返した。
「指定受験組の採用試験は、どうなったのかね……?」
「貴方の部下の、ローゼル宮廷魔術師が」
「そうか……」
ひとまず試験は問題なく行われたようだと、エーメリッヒはほっとした。
「ははっ……情けないな。強さは私の……唯一の誇りだったのだがな……。結局、君の恐るべき実力の前では、赤子同然だったようだ」
エーメリッヒはそう自嘲するが――
「そんなことはありません」
ルミラは間髪いれずに、強く否定した。
「貴方は圧倒的強者である俺の力を見ても、少しも諦めることはなく戦いに挑んだじゃないですか」
「……少しも謙遜しないのが、逆に気持ち良く感じるよ。それで? それは慰めの言葉かね?」
「迷惑でしたか?」
「いいや、この上なく嬉しいよ」
そこまで会話を交わすと、二人はふっと軽く笑みを浮かべた。
今日が初対面のはずなのに、二人の様子は、まるで気心知れた友人同士のようだった。
「私は全力を出し尽くしたのだ。悔いなど、あろうはずもない。それにこの年でまだ、挑戦者であり続けられる。結構なことじゃないか」
「……本当に、素晴らしい心掛けです」
それから「さて」と短く言葉にして、エーメリッヒは凛とした表情でルミラへと向き直った。
「ルミラ=アルカディア君。"特別権限"試合の結果、君を新人宮廷魔術師で最高位の"第七階級位"宮廷魔術師に任ずる」
こうして、ルミラは順調に宮廷魔術師になったのだ。
――ギィッ……
――と、思われたのだが。
これからまた、ひと悶着起こってしまうのだ。
開かれた扉からの、懐かしき人との再会を契機に――
「ルミラ……君……?」
次回、感動の再会……と修羅場です。
次回は明日9/12中にアップします!
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