凶禍の呪術師VS神聖魔術師②
あまりに熾烈な戦いを見せられ、水を打ったように静まり返っている闘技場。
エーメリッヒはついに意を決して、全力でルミラを倒すことを選択する。
「来たまえ――"神の番人"ッ!」
エーメリッヒの詠唱と共に、光の渦が上空に出現する。
「あ……あれは……ッ!」
そこから出てきたのは、全身を白鎧で包まれた立派な男だった。
しかも背中には見事な白翼を携えて、右手には神秘的な大剣を握っている。
「――召喚されるなんて、何年ぶりだろうな」
"神の番人"と呼ばれた男は、感慨深く呟いた。
「おぉッ! 白鎧の……なんと見事な天使だ……ッ!」
「大天使……ザフキエル……ッ!」
大天使ザフキエル――神の番人と呼ばれる、天界の守護者だ。
優れた容姿と立派な白鎧に身を包み、大剣を扱わせたら右に出るものはいないと言われている大天使である。
ルミラはメルドルフ魔術学院にいた頃、天界史の授業でその存在を知っていたのだ。
「その通りだよルミラ君。彼は正真正銘、私の"天魔召喚"に応じた大天使だ」
エーメリッヒは立ち上がり、臨戦態勢をとる。
そして――
――グンッ!!!
再度、自身に残る全力の魔力を一気に解放したのだ。
「み……見ろよッ! エーメリッヒ様を纏う魔力を……さっきまでの比じゃねぇぞッ!?」
「これが第一階級位、最高宮廷魔術師の実力だというの……ッ!? 桁違いにもほどがあるわ……ッ!」
観客の驚愕の声をバックに、エーメリッヒは不敵に笑い、ルミラへとゆっくり歩み寄る。
「君を――」
一歩、二歩、三歩――そして丁度十歩ほどのところで、ぴたりと止まった。
「君を――試すような真似をしてすまなかったな。素直に非礼を詫びよう。どうやら君は、私の想像をはるかに超えた存在のようだ」
「……それはどうも」
対するルミラは、平静を取り戻して短く返した。
「だが、君は思い知ることになる。エーメリッヒ=ハルンツェルトがなにゆえ、ベルスタルージュ帝国の最高宮廷魔術師たるかを――」
その瞬間だった。
――ダンッ!
「――ッ!?」
「は、速い!」
突如、先ほどとは比較にならない速度で、エーメリッヒはルミラの懐にはいって拳を構える。
同時に召喚されたザフキエルも、ルミラへと上空から襲いかかる――ッ!
「くッ……! "煉獄の凶刃"ッ!」
不意打ちを喰らったルミラは、上空のザフキエルを防ぐのに精一杯だった。
「"武装創造"か! なかなかに器用なのだな君はッ! だがッ!!」
「――ッ!」
そのため、腹部がガラ空きとなってしまう。
そして――
――ドガァッ!
「ぐうぁッ……ッ!」
――ズガガガガガガッ! バァンッ!! ガラ……
モロに鳩尾へと、エーメリッヒの渾身の拳を喰らってしまう。
その結果、先ほどとは正反対に位置するフェンスまで、ルミラは吹っ飛ばされてしまった。
「これは先ほどのお返しだよ、ルミラ君」
「あぐッ……」
「立ちたまえ。まだまだ君の力はこんなものじゃないはずだ」
ルミラにゆっくりと近づきながら、更にエーメリッヒは口にした。
「私に"神の番人"まで出させたのは、人間では君が初めてなのだ。光栄に思いたまえ、ルミラ君」
そして――
その後のエーメリッヒの発言は、全観客を驚かせてしまう。
「ならば――君もその返礼として、全力を出すべきではないかね?」
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――ザワザワッ!
「あ、あの【呪術師】……まさかッ!? エーメリッヒ様相手に、全力じゃなかったって言うのかッ!?」
「そっ……そんな恐るべき馬鹿がいるの……ッ!? 相手はこの国で最高の宮廷魔術師よ……ッ!?」
息をのんで試合を見守っていた観客が一斉にざわめく。
そんな馬鹿な、流石に買いかぶりすぎだと、大勢の観客は思うのだが――
「全てお見通しとは……。流石、最高宮廷魔術師は伊達じゃないってことですか……ッ」
ルミラの発言を聴いて、さらに驚いてしまうのだ。
そして、ルミラの返答は予想通りだったのだろうか。
エーメリッヒはふっと笑みを見せた後、嬉しそうに言葉を続ける。
「その通りだ、ルミラ君。私が君の腕に施された"封魔の呪印"を見破れないとでも? いい加減に解呪したまえ」
「――ッ!」
ルミラは「それも気付かれていたのか」と驚いてしまう。
"封魔の呪印"――それは呪術師が魔力を抑えるための呪術印だ。
通常は敵に対して施すものだが、特に強大な魔力を持った呪術師は、日常生活で意図しない呪いをかけてしまわないように、わざと己に施すこともある。
そしてルミラも例にもれず、後者の立場だったのだが――
「――ですが」
実のところ――
エーメリッヒとの戦いにおいて、それは丁度良いハンデとなっていたのだ。
「――そうしてしまえば、もはや貴方は俺の敵になりえない」
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「流石に強がり……と受け取ってもいいかね?」
エーメリッヒは努めて冷静に返した。
「…………」
対するルミラは、静かに目を閉じた。
「――かつて俺は」
「…………?」
そしてしばらくした後、何かを決心したかのように口を開く。
「かつて俺は――絶体絶命の危機に晒された時、スキルの"自動認識"によって彼女に助けられました」
「彼女……? 何の話かね?」
(彼は……何を言っている……?)
「それからは流れに任せて、彼女におんぶに抱っこ状態だった。その結果、彼女が助けた女の子に感謝され、さらには多くの人々に歓迎されました」
(一体……何の話なのだ……?)
「しかし――それが自身の力だとはどうしても受け入れられなかった。そして自分一人では何もできない無力さが堪らなく嫌で、俺はこの国を離れました」
エーメリッヒは理解できなかった。
考えなくとも、当たり前のことだった。
何の脈絡もなく、突然に断片的な昔話をされているのだから。
「…………」
「――ですが」
そしてついにルミラは、"封魔の呪印"を解くこととなる――
「今は他でもない、自身の力で彼女を――いや、彼女達を呼ぶことができる」
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ルミラが言い切った、まさにその瞬間だった。
――ゾワッ!
「――ッ!?」
「ば……馬鹿な……ッ! これが、人間の魔力量か……ッ!?」
ルミラが"封魔の呪印"を解いた瞬間――
歴戦の古豪であるエーメリッヒと天界の守護者であるザフキエルは、心底怯えきってしまったのだ。
(なっ……なんだこの、禍々しい魔力は……ッ!? それも震えあがるほどに圧倒的だ……ッ! この私を……最高宮廷魔術師である私を遥かに超えている……ッ!?)
「エーメリッヒさん。貴方は言いましたね。俺は全力を出すべきだと――」
「あ、あぁ……ッ!」
驚愕の表情で、思わずじりっと後ずさりして構え直すエーメリッヒ。
大天使ザフキエルも同様にルミラへと備える。
対するルミラは、ふっと笑った後に小さく口にした。
そしてこの後――あまりに一方的な試合展開が繰り広げられてしまう――
「――"禍神"、来たれ我が僕、"七獄の神魔"達よ」
ついに解かれた封印、そして"七獄の神魔"とは……ッ!?(すっとぼけ)
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