凶禍の呪術師、覚醒する
新作です!
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「……………………」
それからすぐにアルカディア家を追い出された俺は、あまりのショックでふらふらになりながら、目的地も特にあるわけでもなく、とぼとぼと道を歩いていた。
「ねぇ、あれアルカディア家のルミラじゃない? ほら、【凶禍の呪術師】の……」
「俺知ってるぜ! "周囲の人間に凶事を招き、禍となす呪われたスキル"だろ!? 疫病神も同然だ! おい、石を持ってこい!」
――ドカッ!
「……ッ!」
【凶禍の呪術師】のスキルに認定されたという俺の噂は、そこら中に広まりきっていた。
道行く人にことごとく罵倒され、指をさされた。
石をぶつけられたり、酷い場合は暴力を振るわれたりさえもした。
――だけど何も言い返せず、そのたびに死ぬほど惨めな気持ちになった。
そりゃそうだ。
昨日まではこのロスタリフィーエ帝国の誇る名門、メルノイス魔術学院の首席で皆の憧れの的だったのに――たったの一日で完全に厄介者、疫病神扱いに俺は急変したのだから。
おまけに父上から支度の準備をすることも許されず、荷物もなし、持ち金もなし、おまけに行くあてもなしときたもんだ……。
「よくもまぁ、畏れ多くも法王猊下の前に出られたわねアイツ! 神罰が下ればいいんだわ!」
「この国から出ていけ疫病神! アルカディア家の恥さらしが! ルイス司教様に死んで詫びてこい!」
この人も、あの人も、さっきの人も――いつも俺が来ると、精一杯のにこやかな笑顔で出迎えてくれた人達ばかりだった。
それがスキル認定式で【凶禍の呪術師】に認定された途端にこの扱いだ。
「俺が……俺が一体、何をしたっていうんだよ……ッ!」
悔しさでいっぱいになった俺は、怒りをぶつける先もなく、涙しながらそう口にした。
悲しいことに、人々は俺そのものを評価してくれていたのではなかったのだ。
"【聖魔術師】系統のスキル認定を受ける見込みの高かった俺"を評価していただけに過ぎなかった。
そうでなければ、たとえ【凶禍の呪術師】のスキルに認定された俺であったとしても――
父上は以前と変わらず、俺を大切にしてくださったはずだ。
兄上も以前と変わらず、俺に優しくしてくださったはずだ。
周囲の人々も当然に以前と変わらず、俺を温かく迎え入れてくれたはずなのだ。
そう考えると、俺がいままで幸せに感じてきたものはなんだったのだろうか。
あまりに薄っぺらくて、あまりに価値のないものだったのに――
そこまで考えて、俺はとうとう悪い方向に吹っ切れてしまった。
「死ぬか……。皆の言うとおり、俺は生きていても周囲に迷惑をかけるだけの疫病神だ……。もっとも、このままだと何もしなくても野垂れ死にしそうだがな……」
どこか適当な崖でも見つけて、飛び降りて自殺しよう……。
どうせ……どうせ誰一人として、悲しんでくれることもないしな……。
考えているうちに、気づけば俺は見たこともない森の中へと足を踏み入れていた。
ここは……一体どこなのだろうか……?
だいぶ歩いたから、少なくともロスタリフィーエ帝国の領地ではないだろうが……。
そこまで俺が考えた瞬間だった。
「――い、いやああああああああああああッ!!!」
突然、女性の悲鳴が鳴り響いたのは。
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俺は悲鳴の上がった方向へと、ばっと目を向ける。
すると夜も更けきった中で、ゆらゆらと蠢くように、いくつもの松明の光が見えた。
その数はざっと十数本くらいだった。
冒険者パーティ小隊二つほどの規模だと判断した俺は、木々をかき分けて、すぐに近くまで駆けつけると――
そこにはカテゴリーA級に属する、夜は無敵の吸血鬼が一人。
対するは、手負いの立派な鎧を着た老人と、老人を抱きかかえている、いままで見たこともないほど美しい女の子が一人。
そして二人の前で守る十数人の兵士が、ヴァンパイアへと武器を向けていた。
「ゲルフッ! お願い……お願いよ……死なないで……ッ!」
「アンネリーゼ皇女殿下……敵は夜は無敵の吸血鬼……はやく……このような老いぼれなど捨て去って……どうか……どうか、お逃げくだされ……」
「嫌ッ! そんなの絶対嫌よゲルフッ! 護衛騎士団長の貴方を一人残して、どうして私が逃げ去れると思うのよッ!?」
あの娘お姫様かよ……なんだってこんな真夜中に……ッ!
しかも相手は吸血鬼……クソッ……どうする……!?
俺は必死に頭を回転させながら、なんとか助けられる方法を考えた。
しかし――この状況を打破できる案はまったく浮かんでくれなかった。
「その死に損ない爺の言うとおりだよ、お嬢さん。僕は無敵の吸血鬼だ。ここにいる憐れな力しか持ち合わせていない全員を一瞬にして皆殺しにできる。――もっとも、お嬢さんだけは僕の眷属、奴隷として大切に飼ってあげるから安心していいよ」
その言葉を聴いた瞬間、俺は頭に血が上ってしまった。
考えている暇なんてないんだ……ッ、時間稼ぎでもいい、攻撃魔術を繰り出すしかない!
「喰らえッ! "稲妻の矢"!」
――だが。
予想通り、スキルの恩恵も受けられていない俺の"稲妻の矢"程度では、奴の身体にかすり傷すらつけられなかった。
「どうやら……小虫が一匹、まぎれこんでいたようだね」
ぎらりと奴の眼光が、茂みに隠れていた俺に突き刺さる。
同時に、お姫様や兵士達も俺に気づいた。
「だ……だめよ! 逃げなさいってば! 相手は吸血鬼よ! そんな初級魔術が効くわけがないわッ!」
お姫様の言うとおりだが、だからといって俺はひけなかった。
「クソッ! "光輝の矢"! これならどうだ……ッ、"神聖なる矢"!」
俺は次々と攻撃魔術を繰り出すが、やはり奴にはなんの効果もなかった。
――ガシッ!
「ぐッ……、ぐぁッ……!」
俺は一瞬で奴に距離を詰められて、右手で軽々と首を持ち上げられてしまった。
「――馬鹿じゃないのか、君は。いい加減にしてくれないかな。君が放った魔術の矢はそれぞれ、"雷"、"光"、"聖"魔術のほとんど初歩の矢だ。そんなものが本当に、この完全たる無敵の吸血鬼である僕に効くとでも? それになにより、威力がてんでお話にならなかった。君の与えられたスキルは何だ? せめてくびり殺す前に聴いてやるよ」
この時、情けないことに俺は「今のうちに逃げろ」という一言すら、言うことができなかった。
自分の無力さを呪い、運命を呪った。
失意のどん底に突き落とされた気がした。
何が【凶禍の呪術師】だ、馬鹿馬鹿しいと、心の中で悪態をついた。
せめて【呪術師】ならば――俺の命と引き換えでもいいから吸血鬼を呪い殺させてくれとも願った。
だがついに――俺の意識は失われていった。
そして、もはやこれまでかと、潔く静かに目を閉じた――。
――のだが。
まさにその瞬間だったのだ。
『――くびり殺すだと? お前程度がか? 笑わせるわ。お前など所詮、我が主に比べれば虫ケラ同然であることを思い知るがいい』
待ち望んだ奇跡とやらが、起こってしまったのは――。
【――凶禍の"禍"スキル発動――最上級神魔召喚魔術"禍神"自動認識完了。対象を撃滅します】
次話は明日8/25にアップします!
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