凶禍の呪術師VS神聖魔術師①
ベルスタルージュ帝国 闘技場
「おい、本当に"特別権限"試合だってよ……あのエーメリッヒ様が自らお相手なさるそうだ」
「【呪術師】と【神聖魔術師】の試合なんて、いくら一般受験生を蹴散らした彼でも話にならないだろ……?」
エーメリッヒとルミラが入場を終えると、観衆のざわめきは一層激しくなる。
彼らは先ほどの、ルミラの独壇場を目の当たりにしていた。
「これで不合格なんて、あんまりじゃないか?」
「馬鹿ね。勝敗なんて最初から決まっているわ。"特別権限"試合は受験生の力を見るための試合。"精霊加護のペンダント"が破壊されたら即失格となるわけではないわ……。しかし、"特別権限"試合なんて何年ぶりかしら……」
「すげぇ奴が現れた!」だの、「こんな【呪術師】が存在するのか!?」だの、彼らの驚きようは様々だったが、"特別権限"試合が行われることに比べれれば小さなことだった。
それも、今回の総監督は"第一階級位"最高宮廷魔術師のエーメリッヒだ。
しかも、相手は指定受験組ではなく一般受験組だというのだからなおさらだった。
「ルミラ君、最初に言っておこう」
「はい」
ルミラは物怖じせず、短く返した。
「これは総監督である私の、"特別権限"による試合だ。よって、"精霊加護のペンダント"が破壊されたとしても、君が即不合格となるわけではない。君の力を見たいだけだからな」
「理解しています」
そして――
「言うまでもなく、全力でかかってきたまえ」
エーメリッヒがそう一言、言い終えた瞬間だった。
――グンッ!
「――――――ッ!?」
「さっ……寒気がするほどの魔力だわ……ッ!」
突如、エーメリッヒは自身の魔力を解放した。
そのおぞましい程の魔力総量に、観客席の人々は一人残らず冷や汗を流し始めた。
こんな怪物が本当に実在するのかと、恐怖に縛られてしまっていたのだ。
「君の前にいる男は、ベルスタルージュ帝国"最高宮廷魔術師"エーメリッヒ=ハルンツェルトなのだから」
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「は、始め!」
そしていよいよ、開始の合図が発された。
「先ずは小手調べだ! "神聖なる双子の大暴風"!」
エーメリッヒの詠唱と共に、巨大な二つの竜巻が姿を現す。
「こっ……これで小手調べかよ!? あんな大暴風、巻き込まれたら一溜りもねぇぞ!?」
観客が驚いている中、二つの竜巻はどんどんと勢いを増して、ついには対面するルミラを襲う。
避けようのないほどの巨大な竜巻に、もはや逃げ場など存在していなかったのだが――
「――来たれ"禍風"」
――パァン!
「なっ……何ッ!?」
自身の"神聖なる双子の大暴風"がいともたやすく消し飛ばされてしまったことに驚くエーメリッヒ。
対して、二つの小さな竜巻を造り出して防いだルミラは、少しも動揺した様子はなかった。
――ヒュオオオオオ………ッ!
相殺された竜巻は、叫び声のような音をあげて、天空へと消えていった。
「……なるほど。呪術の施された風を発生させ、私の"神聖なる双子の大暴風"を相殺したのか」
しかし、流石にエーメリッヒは歴戦の古豪。
すぐに平静を取り戻して、冷静に分析した。
「それでは、もう少し力を見せよう! "幻影展開"!」
「すげぇ!? エーメリッヒ様が何人にも分身したぞ!?」
そして今度は、何人もの分身を造り出してルミラを取り囲んでしまったのだ。
「――ッ!?」
これには流石に、ルミラも驚きを隠せなかった。
「無数に襲う私の拳をとても受けきれまいッ!」
そして全方位から、エーメリッヒの分身が一気にルミラを襲う――ッ!
「喰らいたまえッ! "神々の猛撃"ッ!!」
――だが。
――ギンッ!
「なっ、何ッ!?」
ルミラは本物のエーメリッヒを、いともたやすく見破ってしまったのだ。
「――遅いですね」
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「――――ッ!?」
見破られて驚くエーメリッヒ。
ギンと視線を送り、一言発したルミラ。
そしてルミラは――
ドガァッ!
「ぐぁッ!?」
ぐるりと素早く身体を回転させて、エーメリッヒの鳩尾に裏拳をきめた。
――バンッ!!! ガラッ……
「うぐぅ……ぐぁ……ッ! そ、そんな……馬鹿なッ……!?」
ルミラの一撃はエーメリッヒを観客席のフェンスまで運んだ。
そしてそのあまりの勢いに、フェンスはガラガラと音を立てて崩れ去ってしまった。
完璧に入った裏拳、そしてその圧倒的な威力にエーメリッヒは動揺を隠せないでいたが――
「はッ……はぁッ!? わ、私の腹部……ッ、私の腹部が……ッ!?」
自身の腹部が急速に腐食化する事態に、さらにエーメリッヒは驚いてしまう。
(私は常に、身体中に魔術防御の障壁を造り出している……ッ! 【神聖魔術師】である私の魔術障壁を……【呪術師】の彼がいともたやすく抜いて腐食化の呪いまで入れただと……ッ!? それにこの進行の速さは、とても並みの術師のものではない……ッ!)
そのように、戦いの中で現状分析していたエーメリッヒだったが――
「早く自己治癒せねば、本来なら腐り落ちて死んでしまいますよ。"精霊加護のペンダント"があるから、大丈夫ですがね」
ルミラの一言に、はっと我に返った。
「…………"神聖治癒"」
「――そして」
そこでルミラは、一旦言葉を区切った。
「もう一つ付け加えるとしたら、全力で向かってこなければね」
ここから、さらに戦いは熾烈を極めるのだ。
「――楽しいよ、ルミラ君。こんなに楽しいのは久々だ」
そしてついに、エーメリッヒは本来の力を出し始める――
「"天魔"……召喚……ッ!」
次回、エーメリッヒの全力が明らかにッ!(盛大な前振り)
次回は明日中にはアップします!
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