名門司教家からの追放
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ロスタリフィーエ教会 聖堂
「ルミラよ、次はいよいよ首席のお前の番だ。くれぐれも法王猊下に失礼のないようにな」
「えぇ、父上」
俺――ルミラ=アルカディアは15歳のこの瞬間に、人生の岐路に立たされている。
俺は今日、名門魔術学院であるメルノイス魔術学院を首席で卒業する。
そしてこのメルノイス魔術学院では卒業の際、畏れ多くも教会のトップであるラミエル法王猊下にご参席いただき、神の啓示に基づいた自身の"スキル"を認定していただけるのだ。
"スキル"――それは誰もが15歳で与えられる、あまりに強大な専門的能力のことだ。
たとえば【雷魔術師】系統のスキルに認定されると、基本魔術の"雷矢"から、いまだ誰一人成し遂げたことのない雷系統の"神魔召喚"に至るまで、ありとあらゆる雷系統の魔術が爆発的に強化される。
他にも物理に特化した【剣士】系統のスキルに認定されると、斬撃の威力が比べ物にならないほどあがるなど、スキルの恩恵は計り知れない。
しかし――スキルの認定が必ずしも良いことであるとは限らないのだ。
なぜならば――これは裏を返せば、自身の望む系統スキルに認定されなければ、その系統でいくら努力をしようが【系統スキル持ち】には絶対に勝てないということに他ならないからだ。
つまり、それほどまでにこのスキル認定式というのは、人生を左右する一大イベントだということだ。
だからこそ俺は3つ上の兄グスタフと同じく、【聖魔術師】系統のスキルに認定されることを心の中で祈り続けた。
「第87期卒業生、ルミラ=アルカディア!」
「はい!」
法王猊下のお声がかかり、いよいよ俺の番だ。
俺の父上――ルイス=アルカディアに「行ってこい!」と、ぽんと背中を押されて、背筋を伸ばして歩く。
そして法皇猊下の前まで辿り着き、堂々とおじぎした後、お声がかかるのを待った。
「首席での卒業おめでとう」
法皇猊下の言葉に喜びを覚えたが、はやる気持ちは抑えられなかった。
「さて、神から君に贈られるスキルを判定する」
それから法皇猊下が静かに目を瞑られて、先ほどまでと同じように両手を天へと向けられた。
いよいよ――いよいよ、運命の瞬間だ。
俺はだんだんと早まる胸の鼓動をなんとか鎮めようとする。
落ち着け――俺は名門司教家アルカディア家の嫡男だと。
一人の例外もなく、アルカディア家は【聖魔術師】系統のスキル認定をされてきたじゃないかと。
だから俺の心配など――きっと、まったくの杞憂に終わるのだと。
「こっ……これは……!?」
――しかし。
思えばここから俺の地獄は始まったのだ。
「君に贈られたスキルは【凶禍の呪術師】だ……」
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「【凶禍の呪術師】!? 法王猊下、何かの間違いではないですか!?」
父上の驚きの言葉が、聖堂全体に響き渡る。
「うそ……首席卒業のルミラ様がまさか【呪術師】系統のスキル認定……!?」
「そんな……私達の憧れだったのに……」
「ルミラ様……いや、奴は悪魔の子、メルノイス魔術学院の恥さらしだ!」
「名門アルカディア家の名に泥を塗ったわね。首席卒業で思い上がっていただろうからいい気味よ!」
卒業生、在校生、参席する保護者達から、次々と落胆と非難の声が上がる……ッ!
ざわざわと場が揺らいでゆくのを感じる……ッ!
いや、そんなはずはない、そんなことあるはずがないッ!
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ……ッ!
何かの間違いだ……間違いと言ってください法王猊下……ッ!
「法王……猊下……?」
なんとかそう言葉にした今の俺の顔は、あまりになさけなく、悲惨なものに違いない……。
しかしなりふりなど、構っていられるような場面でもない……。
そうして精一杯懇願するように、俺は法王猊下のお顔を見つめるが――
「いいや、間違いない……。君に贈られたスキルはやはり【凶禍の呪術師】だ……。なんということだ……このメルノイス魔術学院の首席が、これ程の邪悪なスキルに認定されてしまうとは……」
法王猊下自身もとても信じられないのだろう……。
驚きと落胆を隠せないでいらっしゃるようだ……。
【凶禍の呪術師】――それは文字通り、凶事を招き、禍いとなす呪われたスキルだ。
【呪術師】系統のスキルの中でも、周囲の人間を不幸にしてしまう災厄にまみれたスキル――
そんなスキルがあろうことか、神に仕える神聖な名門司教家のアルカディア家の人間に認定されたのだ。
法王猊下の落胆ぶりは、当然のことだろう……。
しかし、【凶禍の呪術師】に認定された当の本人である俺には及ばない。
お先真っ暗という言葉にもほどがあった。
そうして俺はただただその場で、呆然と木偶の棒のように立ち尽くすことしかできなかったのだ。
――本当の地獄はこれからだというのに。
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アルカディア家 ルイスの自室
「ルミラ、今夜お前に話がある」
最悪の卒業式兼、スキル認定式を終えたその日の夜――
俺は呼び出されて、鉛のように重い足取りで、父上の自室まで向かった。
今後の俺の処遇について、決して良くはない話があることは明らかだったからだ。
するとそこには俺の予想通り――これ以上ないほどの憎しみの表情で椅子に掛ける父上がいた。
しかもその隣には、ニタニタと下品な笑顔を浮かべた兄のグスタフがいたのだ。
そして二人の表情は、間違いなく今の今まで、一度として自身に向けられたことのないものだった。
「……ッ!」
その雰囲気に圧倒されていた俺は、はらはらと気が気でなく生きた心地がしなかった。
一体――、何を言われるのだろうかと。
そんな俺に待っていたのは――
考えうる限り、最も残酷な父上からの一言だったのだ。
「単刀直入に言おう。今日をもって、お前をこのアルカディア家から絶縁する」
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「ち……父……上…………?」
今……父上は、なんとおっしゃられたのだ……?
俺を……アルカディア家から絶縁する…………?
「お前は先祖代々司教を輩出してきた我が家門に泥を塗った。お前など見ているだけで不愉快だ。よってアルカディア家は【聖魔術師】のスキルに認定されたお前の兄、グスタフが継ぐことになる」
淡々と、まるで事務処理でもこなすかのように、父上はそうおっしゃった。
「そ……そんな…………!」
俺はきっと、これ以上ないほどの間抜け面をしていることだろう。
「そういうことだ、この恥晒しめ。まさか父上から慰めのお言葉をいただけるとでも思っていたのか?」
そんな俺に追い打ちをかけるように、兄上は悪意たっぷりで言葉にした。
「父上、兄上……? 何かの冗談……ですよね……?」
二人のあまりに急変した態度に対して、俺は頭が混乱していた。
なぜ、どうしてと、次々と疑問だけがわきあがり、考えはまったくまとまらない。
「父と呼ぶな、汚らわしい【呪術師】め!」
そんな中、唯一理解できたのは――
「いいか!? 今日までお前を育ててやったのは、お前の魔力総量が他よりも多少優れていたからに過ぎん! しかしそれも、【聖魔術師】系統のスキルに認定されることが前提条件だ! ましてや呪われ、禍を招く【呪術師】系統のスキルなど言語道断! 支度の猶予くらいはやろうと思ったが、もはやそれすら許せん! 今すぐこの家から出ていけ!」
「おらっ、父上がでていけってよ、この出来損ないがッ!」
――俺のこれからの運命が、完全に暗く閉ざされてしまったのだということだけだった。
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