一瞬の幸せ
残りのつまらない授業をなんとか真面目にやり通し、ようやく待ちに待った放課後がやってきた。
「むかいちゃん、行こう!」
何故か私よりもテンションの高いたんたんが、ショルダーバッグを片手にこちらを振り向く。
「もちろん! どこからにしようか?」
ポニーテールが顔に直撃しないように避けながら問うと、「ショッピングモールのゲーセンでプリクラ撮るのはどう?」と返事が飛んでくる。
「いいね! 行こう!」
二人で教室を飛び出して、バス停に向かう。ちょうどいいタイミングでやってきたバスに乗り込み、今日は駅のひとつ前にあるバス停で下車。顔をあげれば、そこには目的地であるショッピングモールが堂々と佇んでいる。都会や夜見月駅周辺のショッピングモールに比べたらかなり小規模だが、それでも立派だ。
「早くおいでよー、置いてっちゃうよー」
建物に入りかけているたんたんが、建物に見とれていた私を呼ぶ。
「あっ、待って!」
慌てて彼女の後を追いかけて、涼しい屋内へと入っていった。
「むかいちゃん、なんかセンスあるんじゃない……? めっちゃプリの落書きが上手いんだけど」
「えー、でもたんたんがやったやつも可愛いよ?」
プリクラ機で撮った写真をデコりながら、言葉を交わす。
たんたんが飾り付けているのは、顔のアップ。ゆるい動物のイラストをぽんぽんと散らしているだけのシンプルな飾りなのだが、とても映える。
一方、私が落書きしているのは全身写真。『ふりかけ』というキラキラしたフレークをふんだんに使い、全体的に豪華な雰囲気に仕上げる。もちろん、使いすぎないように気をつけた。その後、日付スタンプを画面下部に貼り、お互いのあだ名を顔のそばに書く。かすれペンを使ったから、少しだけこなれ感が出たような気がする。
結局、五枚撮ったうちの三枚を私が、二枚をたんたんがデコった。お互いに一枚ずつ写真をメールで取得し、送り合う。そして、印刷されたプリクラを財布に大事に仕舞い込んだ。「次は駅ビルに行こっか! ほら、前にむかいちゃん、靴下がほしいって言ってたでしょ? あそこの靴下屋さんに行って買おうよ!」
「うん!」
ショッピングモールを出て、駅に向かって歩く。
眩しくて暑い夏の日差しが、天から降り注いでいた。
その後、靴下屋さんで三足の靴下を買ってもらったり、雑貨屋で大人びたデザインの髪留めを手に取ったり、本屋さんでウィンドウショッピングをしたり、鯛焼き屋さんで冷たい鯛焼きをほおばったりと、楽しい時間を過ごした。
さらには、駅ビルのレストランズパークというエリアで和食のお店に入り、一緒に夕食も食べた。
本当に飛ぶように過ぎていった時間。
気がつけば外は、だいぶ暗くなっていた。