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また明日も、この場所で  作者: 秋本そら
日常――県立濱風高等学校
5/18

約束

 ――昼休み。たんたんや近くの席の子と一緒に弁当を食べていると、たんたんが「そういえば」と声をあげた。

「明日って、むかいちゃんの誕生日だよね?」

 その言葉に、思わず手が止まる。

「たんたん……覚えててくれたの?」

 私の誕生日は、四月の自己紹介の時に一回言ったきりだったはず。だから、絶対に忘れられてると思ってたのに……。

「もっちろん!」

 ウェリントンメガネの奥にあるつぶらな瞳を輝かせて、彼女は頷く。

「まじか、知らなかった!」

「明日なんだ! メモしとこー」

 近くの席の子たちがワイワイと騒ぎ始める。その中でも決して埋もれることのない、たんたんの甲高い声。

「それでなんだけど、明日学校が終わったら一緒に遊びに行かない? むかいちゃんの誕生日祝いってことでさ。学校の近くなら、駅ビルとかショッピングモールとかになると思うんだけど」

「行く!」

 舞い上がりそうなくらい、いや、人がいなかったら多分踊りだしてるだろうなって思うくらい、嬉しい。大袈裟な例えかもしれなけど、本当に。

 と、その時。

「おーい、馬っ子ー」

 唐突に割り込んでくる、空気を読まない男子の声。「馬っ子」というのは……。

「だーかーらー、あたしは馬じゃないから! せめて丹馬さんって呼んでよ!」

 男子がつけた、たんたんのあだ名だ。


 一応、「馬っ子」というあだ名にも由来がある。

 名字に「馬」の字が入っていること、馬の尻尾にそっくりな髪色とポニーテール、身長が高いこと、顔が面長なこと(前髪をアップにしているから、尚更縦長に見える)、甲高い声、つぶらな目などが理由で、「馬みたいな女子」と思われたらしく、そこから「馬っ子」になった……らしい。

 ふざけたあだ名だとは思うが、本人はそれを楽しんでいるし、お互いにふざけあいのトーンで言い合うくらいだから大丈夫なのかな、と思っている。実際、たんたんは「ほんと、呆れちゃうよね!」とか言いながらも笑ってたし。


「……んで、用件は?」

 たんたんの声が、私を現実に引き戻す。

「さっき先生が『丹馬を職員室に呼んできてくれ』って言ってたからさー。なんか、数学の課題が出てないとかボヤいてたぞ」

 ……そういえば、朝『数学の課題なんて知らない』って叫んでた人がいたなぁ……目の前に。

「あー、それ、あたしのことが見つからなかったってことにしといて!」

 ギクッとした顔をしたたんたんは、つうっと汗を滴らせながらそう叫んでいた。しかし、男子も呆れたように言葉を返す。

「いや困るぞ、馬っ子。……もしかして課題、忘れたのか? ならせめて、忘れたことくらい報告した方がいいと思うぞ」

「えー……めんどくさい」

 ぶつぶつと文句を言うたんたんに、男子は困り顔だ。……しょうがないなぁ。

「……行っておいでよ、たんたん。じゃないと、明日のお出かけ、なしにするよ?」

「むかいちゃん、ひどい! ……行ってくるよ。むかいちゃんなら、本当に明日の約束をなしにしそうだしさぁ……」

 しょんぼりと教室を出ていくたんたんに「いってらっしゃい」と手を振ってから、ご飯を一口頬張った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たんたんが職員室に呼び出された理由、ネットで何かやらかした?とか、ネットで知り合った人とイザコザになった?とか心配しましたが、課題未提出との理由で安心しました。 文章をとても自然に感じるの…
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