表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
また明日も、この場所で  作者: 秋本そら
日常――朝
2/18

朝の待ち合わせ

 時刻は朝の七時過ぎ。

 夜見月駅の東口改札に定期を押しつけ、一番線――下りホームへと続く階段を駆け上がる。電車がやってくる方、つまりホームの北側に設置されたベンチに腰掛ける、一人の少女を目指して。

「おはよう、えみちゃん!」

 人気(ひとけ)のない場所だ。たいして声を張り上げなくとも、この声はちゃんと届くはず。

 あ、ほら。えみちゃんが肩に届かないくらいの短い黒髪を揺らして、こちらを振り返る。彼女の丸いつり目が、キュッと嬉しそうに細まった。

「むかいちゃん、おはよう。今日も会えたね」

「ね! 会えてとっても嬉しいよ」

 笑って答えながらえみちゃんの隣に座り、今日も楽しいお喋りタイムが始まる。

「ところでえみちゃん」

 今日は、最初に何を話すか、既に決めていた。

「なあに?」

「ずっと気になってたんだけどさ、えみちゃんが通ってる学校って、どこ?」

 ――彼女が身につける制服は、私が見たことのないものだった。

 多分膝下まである、紺色のスカート。高校で膝下スカートのところなんてないし、多分中学校の制服なんだろう。ここまでは簡単に推測できる。でも。

 おそらく夏服であろう、白い半袖のセーラー服。スカーフの色は、真っ赤な赤。この服装が、どうも引っかかる。

 何故って、この辺りにはセーラー服を制服とする学校がないから。中学だけでなく、高校も。少なくとも、公立のところには。

「あー……私が通ってるの、私立の中高一貫校なんだ。あんまり有名なところじゃないし、この制服を見かけないのも当然かも」

 へえー、と言葉を返しながらも、頭を捻っていた。

 夜見月市に、私立の中高一貫校って、あったっけ? しかも、夜見月駅以南の場所に。

 ……まあ、いっか。えみちゃんも有名どころではないって言ってるし、私が知らない学校があったとしてもおかしくはないだろう。もしかしたら、市外の学校かもしれないし。


 ――そういえば、私、えみちゃんのこと、そんなに知らないな。

 通っている学校のほかにも、たとえば、えみちゃんの年齢を知らない。スカートの長さからして、中学生。見た感じ、多分十五歳くらいかな、とは思うけど……なんかもっと大人びて見えるような気もするし。どうなんだろう。

 他にも、私は彼女と連絡先の交換をしていない。だから、私とえみちゃんの関係は、会うことをやめさえすればあっさりと切れてしまうだろう。

 多分、本名も知らない。彼女は名乗った時「私のことは『えみちゃん』って呼んで」と言っていたのだ。彼女の名前が『えみ』ではない可能性も、十分にある。……まあ、私もその流れに乗って「じゃ、私のことは『むかいちゃん』って呼んで」と言ってしまったし、日向陽子って名前は教えてないし……お互い様だよね、うん。

 でも、名前を知らずとも、毎日会って話しているだけで友達になれるものなんだなあ、としみじみ思う。それに、私たち……出会ってから、そんなに長く経ってないし。


「ねえ、むかいちゃん。私たち、出会ってからどれくらいだっけ?」

 タイミングの良すぎる質問だ。

「うーん……私が乗車位置を変えた頃だから……二週間前くらい? 七月の頭だったのは覚えてるけど、日付は流石に覚えてないや」

「二週間か……もっと長い間話していたような気がするよ」

 えみちゃんの声に「たしかにね」なんて相槌を打ちながら、あの日のことを思い出していた。

 私がほんの気まぐれで、電車に乗る位置を変えた日のことを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 苗字が日向で「むかいちゃん」っていう呼び名が可愛いです♪ まだまだ始まりで、ストーリーはこれから……という感じですが、文章がとっても読みやすくて作品に引き込まれます。 [気になる点] こ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ