問いかけ
学校帰り、夜見月駅に着いた私は、改札を通り抜けずに下り線ホームに向かった。私の予想でしかないけど、たぶんこうすれば、えみちゃんに会えると思ったから。
ぎゅっと手を握りしめて、階段を上る。そして、ホームの北側に向かう。
「――むかいちゃん! 珍しいね、こんな時間に。どうしたの?」
聞き慣れた声に、目の前に見える白いセーラー服に、予想が正しかったことを知る。
「――えみちゃん、訊きたいことがあるんだけど」
そう声をかければ、彼女は寂しそうに笑いながら、そっと頷いた。
「えみちゃん……幽霊、なの?」
ベンチに腰かけて尋ねると、えみちゃんは「そうだよ」と認めた。
「もう、いつのことだったかは忘れたけどね。ここで、私は死んだの。それっきり、十六歳のまま、高校二年生のまま……私はずっと、ここに座ってる」
どうして死んだの、なんて訊けなかったけれど、私が気になっていることを察してくれたのか、話してくれた。
「私ね、夜見月高校ってとこに通ってたの。多分、むかいちゃんもこの高校については知ってると思うんだけど」
知っている。ここよりも少し北にある、夜見月市内の公立高校としては二番目に偏差値の高い、結構頭のいい人たちが通うところだ。今の制服はブレザーだけど……昔はセーラー服だったらしい、と噂を聞いたことがある。
「私の家はもっと南側にあるんだけど……あの日、学校帰りに夜見月駅で一回下車して、すぐ近くのショッピングモールに寄ったの。ちょっと、本を買おうと思ってね。それで、目的のものを買ってから、このホームに戻ってきたの。で、ここで電車を待っていたら……誰かに、突き落とされた」
……まさか、それで他の人のことを、同じように突き落としているのかな……。
「なんていうか……とにかく痛くてたまらなくて……気がついたら、ここにいたの。でも、このホームからは出られないみたいだから、仕方なく、ここでずっと駅と電車と、ここに訪れる人たちのことを眺めてた。朝も昼も夜も、ずっと。それだけだよ」
……あれ?
なんていうか、えみちゃんの言い分だけを聞いていると……えみちゃんが誰かを殺していたとは、思えないな。
「正直言ってね、つまらなかったよ。毎日あまり変わり映えのない光景を眺めているだけなんて。でも、そんなときにむかいちゃんに声をかけられたから……とても嬉しくって。私が幽霊ってばれたらもうここには来てくれなくなるかも、って思ったから学校とか年齢とかはごまかしてたんだけど……でも、そんなことなかったみたいだね。ここ最近は一緒に話せて、すっごく楽しかった。ありがとう、むかいちゃん」
いつも以上に幸せそうに笑う彼女を見ていると、一番大事なことを訊けなくなりそうな気がした。
だから、線路のほうを向いて、目を合わせないようにして、口を開いた。
「……ねえ、四日前にここで、事故があったの、知ってる?」
こんな遠回りな質問しかできないのも、結局は現実を見たくないから、かもしれない。
「……? 知らないよ」
彼女が今、とぼけているのか、本当に知らないからそう答えたのか。その判別が私にはできなかった。
「私ね、その事故の瞬間を見ていたんだけど……男の人を、突き落としている人がいたんだ」
えみちゃんが、息をのむ。
「その人はね――」
言葉が、声が、うまく出ない。
「――えみちゃんだった」
かすれてしまったけれど、確かに私は、そう言った。




