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また明日も、この場所で  作者: 秋本そら
予兆と予言と、現実と
10/18

去り際

「楽しかったなぁ」

 夜の電車で一人きり、私はそっと呟いた。

 たんたんと別れたのは、学校最寄駅の構内でのこと。私は上り線、彼女は下り線の電車に乗り込んだ。

 ガタコン、ガタコン。

 ゆらゆらと揺られながら、私はたんたんの言葉を思い出す。

『――気をつけてね、むかいちゃん』

 彼女は確かに、そう言ったのだから。


 ――学校最寄駅構内。上り線と下り線に向かう階段が分かれているため、利用する電車が違う私たちは、強制的にここで別れることになる。

「今日はありがとう。また明日ね!」

 そう言って笑い、ホームに向かおうとした、その時。

「……ねえ、むかいちゃん」

 その一言に、引き留められた。

「なあに?」

「むかいちゃんって、どこの駅で降りるの?」

 眼鏡の奥にある目に、興味と真剣さの両方が見えて、ちょっとだけ戸惑った。なんだか、いつものたんたんとは違う気がしたから。

「夜見月駅、だけど?」

 答えると、興味の色がすっと消える。つまり、彼女の目に残っているのは……。

「……あそこか。いや、上りホームだから大丈夫だとは思うけど……でも。

 むかいちゃん。夜見月駅には、こんな『噂』があってね」

 楽しげに噂話を繰り広げるたんたんじゃない。真顔で知識を披露するところなど、見たことがない。

「『夜見月駅の、夜の下り線ホーム、その北側には近づいてはいけない。もし近づいてしまうと、赤い目の怨霊が仲間を増やすために、突き落とそうとしてくるから』」

 一瞬、空気が凍りつくような、そんな錯覚を覚えた。

「――気をつけてね、むかいちゃん」

 暑いはずなのに、ざわざわと鳥肌が立つのが、分かった。

 けれど。

「……まあ、むかいちゃんが使うホームは上りの方だろうし、大丈夫だと思うけどねー!」

 自分で話を切りだしておきながら、話の雰囲気を一気にぶち壊したたんたんは、楽しげにからからと笑い、「それじゃ、またね!」とこちらに手を振り、下り線ホームに続く階段を上っていった。その後姿に私は、慌てて「またね!」と返すことしかできなくて……。


『次は、夜見月駅、夜見月駅。お出口は、左側です』

 車内アナウンスが流れてきて、現実に引き戻された。

 もう駅に到着するのか、十分ってあっという間だよなあ、なんて考えながら降りる準備をして、立ち上がる。

 扉が開き、下車。

 えみちゃんを探して辺りを見回すけれど、やっぱりいなかった。いつものことだから、もう半分くらい諦めているのだけど……それでも少し、寂しい。

 そうこうしているうちに電車が少しずつ遠ざかり、下り線のホームがよく見えるようになった。

『夜見月駅の、夜の下り線ホーム、その北側には近づいてはいけない』

 たんたんの声が、ふと蘇る。向かい側のホームに視線をやると、確かに南側のほうに人が固まっている気がした。……あの『噂』のせい、なのだろうか。


 ――下り線ホームで、電車の接近を知らせる音楽が鳴る。

 ホーム北側を見てみると、そこに、一人の男性が突っ立っていた。スマホをいじり、周囲のことはまったく気にしていないらしい。

 その背後に佇む、黒い影。

 線路に、下り電車が滑り込んでくる。

 

 すると、黒い影は、次の瞬間。


 男性を、ホームから、突き落とした。


 目の前で、人間が肉塊に変わっていく。


 周りは騒がしくなっていく。けれど、私はその音が遠ざかっていくような気がした。


 だって、だって。

 信じたくない。


 目の前が真っ白になっていく。


 赤い目を光らせていた黒い影は。

 短い黒髪を揺らし、白いセーラー服を身にまとったあの影は。


 朝、一緒に笑いあっている、えみちゃんだったのだから!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普段がお調子者な性格の人に、真顔で真剣に話をされると何だか緊張してしまいます。 先程までがワイワイキャーキャー楽しかっただけに、むかいちゃんはたんたんの話を聞いて落ち着かない気持ちになった…
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