『狭間の街』
都心から離れた、都会と田舎の狭間にある街。それがここ、夜見月市。
都会のものよりも少し小規模なショッピングモールや雑貨店が立ち並ぶ場所、海や森といった自然が豊かな地域、住宅街の中に畑が紛れ込んでいるようなエリア、他にも……いろんな光景が見られるんだ。
そんなこの街の中心地にある、夜見月駅の構内をちょっと観察してみてほしい。
ぱっと見だと普通の駅にしか見えないけれど、そこを行きかう人たちの中には、時々『ひとではないもの』が混ざっていることがある。その証拠と言っていいのかは分からないけれど、ずっと観察していると、たまに誰かが魔法を使うところに出くわしたりすることがある。……本当だってば。私も何度か見たことがあるんだから。
ここは、現実と『不思議』の狭間にある街、ともいわれている。
だから、この街では『不思議』な出来事が起こりやすくなるし、住む人々は『不思議』を信じる。もちろん、私もそのうちの一人。
そんな環境は『ひとではないもの』――妖や魔法使い、言い伝えの中の存在など――にとっても過ごしやすいらしい。だから、ここには自然と『ひとではないもの』も集まるようになっていた、らしい。
そんな『狭間の街』の中心地、夜見月駅の下り線ホームで起こった、ちょっとした怪事件を紹介しようと思う。
これは、私こと日向陽子が、実際に体験した出来事。わたしとあの子の、ひと夏の話。
『不思議』がいつでも、いいことをもたらすとは限らない――。