17話 『運がない男』 Ⅰ
(あるニュースサイトから抜粋)
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【阪京打線お目覚めでカード3連勝。杉宮灯特大弾。国奏パーフェクトリリーフ。フクロウ躍進の要因とは?】
4/13 22:34 配信
「公式戦 オウルズ3-1ドラーズ」(13日 甲子園)
ホワイトオウルズが投手戦を制し、カード3連勝を決めた。
エース庭田が6回1/3を1失点に抑える好投。杉宮灯が5回の裏に特大の3ランを決め、勝利を手にした。
これでオウルズは同一カード3連勝、貯金生活を続けている。
【写真】5回裏1死一二塁、ホームランを放った杉宮灯矢に向かって全身で喜びを表現する真野昭信監督
――今年のオウルズは何かが違う。
梟バンキシャ達の間で密かに囁かれていた言葉が、現実味を帯びてきた。
また梟が接戦を制した。序盤は相手先発に苦戦していた打線も、5回裏の先頭打者4番ブックスがレフト前にしぶとく運んだ事を皮切りに、続く5番は四球で出塁。今シーズン、ここまで好調な打撃を維持してきた杉宮が、自身初となる6番打者起用に応えた。捉えた白球はグングン伸びていき、オウルズファンの待つライトスタンドへ。値千金となる決勝スリーランを放った。
これで今シーズンのカード勝ち越しは早くも3回目。昨年の最下位チームとは思えない滑り出しだ。
このオウルズの好調、ある男の存在が大きい。
今シーズン、ウルフェンズからFA移籍してきた国奏淳也選手である。
7回表ワンナウトを取った後、制球の乱れと連打で失点し、ランナーを貯めてしまった庭田の救援として登板。
見惚れるほど美しいマウンドさばきで瞬く間に三振を奪い、チームのピンチを救った。
試合後の江藤コーチも「彼が後ろにいるという安心感が大きい。先発も計算して試合を作れる」と国奏を高評価。早くも信頼の言葉を口にしている。
十分な実績を持ちながら過剰な登板数による影響を心配されていた中継ぎ左腕は、それを吹き飛ばすかのような活躍を見せている。
シーズンが始まり、14試合を消化した今、彼は5試合に登板し防御率0.00を記録。
防御率だけなら同じ数字の中継ぎはいくらでもいる。しかし国奏が凄いのはその安定感。
彼は今シーズン、未だに打者に出塁を許していないのだ。
1投球回あたりに何人の走者を出したか表す指標、"whip"でも、当然のごとく彼の数字は0.00。
まだ判断を下すには時期尚早との声も上がるだろうが、彼の安定感は間違いなくオウルズブルペン全体の向上につながっていると言える。
今シーズン、常勝球団から移籍してきたこの男は、オウルズにどんな影響をもたらすのか。
これからの更なる活躍に目が離せないと言ったところだろう。
【写真】出口を間違い道具入れに入る不破
(記事担当:河合相馬)
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『オウルズの選手の交代をお知らせします。
ピッチャー、メルティに代わりまして国奏。9番ピッチャー、国奏。背番号、20。
ライト、ブックスに代わりまして島袋。4番ライト島袋。背番号51』
明瞭なウグイス嬢のアナウンスが流れ、今どきのポップな登場曲をバックに国奏淳也はマウンドに上がった。
数球の投球練習を終えた後、相手バッターが打席に入る。
電光掲示板に映るバッターの成績は、打率.389 本塁打4本 打点10。出塁率と長打率を加算して算出する簡易指標、opsでは現在1.000超えの怪物。
まだ打席数が少なく、成績のブレが大きい時期とはいえ、球界を代表するバッターである事には変わりはない。
そんな現在絶好調ともいえる相手の2番バッターは、ドラーズが誇る強力打線の一角である。
ワンナウト、走者一塁三塁。
一打で同点に追いつかれる可能性もある。
こういう状況で登板させられる救援投手に求められているのは、相手の流れを強制的に絶つピッチング。
即ち、大いに盛り上がる相手ベンチや応援団を黙らせる事である。
試合を左右するターニングポイント。
そこを任されるという事は、リリーフとして信頼されてきている証。
ベンチの首脳陣が、こいつなら抑えてくれると信じているからこそ名前を呼ばれるのだ。
――ならば、応えなければならない。
2番打者、三振。
鳴り響くような応援歌に溜息が差し込まれる。
相手ベンチの勢いがほんの少し後退する。
これが、心地良い。
最高潮まで高まった相手のテンションを断ち切り、黙らせる瞬間。
地鳴りのような歓声に、一瞬の静寂が訪れる瞬間。
これこそ中継ぎの、救援投手のやりがいである。
と、国奏淳也は考えている。
カウントツーツー。
3番打者に、インハイのストレート。
鈍く響いた打球音と共に、白球はライト方向へ飛んでいき――
(ライトフライ、終わりだな)
そう国奏が安心しながら、球の行方を見守っていると、先ほどライトに守備固めとして入った選手が、何やら怪しい。
一瞬前進したかと思うと、今度は急いで後ろへ。
ぎりっぎりの所で、倒れながらボールをグラブへ収めた。
スリーアウト、交代。
アウトはアウトだが、何とも冷や冷やさせられる締め方であった。
甲子園の外野、アウトフィールドというのはそれなりに守るのが難しい。
まず、甲子園という球場自体が他の球場と比べて、特殊な形状をしている。
両翼95m、中間118m、左中間右中間が中間と同じ118m。
ポール際が狭く、反対に左中間右中間はとても広い。
フェンスは急激な曲がりを描いた後、緩やかに繋がっていく。
こういう特殊な形状をしていると、守備側としては守るのにコツが必要になる。
クッション処理、他ポジション選手との守備範囲の連係、その他諸々……。
そして、甲子園にはもうひとつ特徴的な点がある。
ライト方向からレフトに吹き抜ける風、"浜風"である。
当然、この風にフライボールは影響され、風が強い時は打球の軌道が変化したりする。
これが、甲子園の外野守備は難しいと言われる理由。
同時に、甲子園は打者にとって不利だと言われる理由でもある。
まぁ、だからと言ってエラーしていいのかと言うとそうではないが。
そういう点もある、という事を見ている人には知っていて欲しい、というだけだ。
「守備固めがそないな守備すなやー! 見ててヒヤヒヤするんじゃ!」
「…………」
という事で、ライト方向に上がったフライボールの軌道を読み間違え、随分と危なっかしい姿勢で捕球した島袋陽介は、外野席のファンから野次を飛ばされていた。
帽子を深く被り、なるべく声の聞こえる方を見ないように努める。
野次の内容は尤もである。
守備固めの選手が、打球が難しいからエラーしました、なんて言い訳にもならない。
実際、今の守備はアウトには出来たとはいえ、もし落としていたら同点にまで追いつかれていた。
首脳陣からの印象も、余りよろしくないだろう。
やらかし8割。結果としてはアウトになったが、選手としては落第点。
これは何処かでこの失態を挽回しなければならない。
幸い、この試合中に一度は島袋にも打席が回ってくる。
そこでヒットを打てば何とか総合評価的にプラスにできる。
そう意気込み、彼は必ず打つと心の中で呪文のように唱えていた。
端的に言えば、島袋陽介は焦っていた。
ヤバい、ヤバい、ヤバい。
もう27歳。優先して使ってもらえる年齢ではない。
少ないチャンスをモノにして、死ぬ気で働かなければならない。
そんな焦燥感を抱えたまま、打席に入る。
相手は敗戦処理の投手だぞ、絶対に打てる、打て陽介!
当然、そのような雑念溢れた心持ちで打てるほど、一軍の舞台は甘くない。
『また無駄にするのか』
声が聞こえた気がした。
「…………ッ!」
島袋陽介はあっさりと追い込まれ、最後は外に逃げるスライダーで簡単に切って取られた。
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