商売繁盛に導いた男、、、、?
これはフィクションです。
そうです、夢です。
自宅の屋上は少しばかり広く開放されていて、私のお気に入りの場所だ。
雑居ビル群に並ぶそこは、花壇があって家庭菜園を楽しんだり、ハンモックを設置してひなたぼっこをしたり、軽めの運動をするには十分なスペースがある。
テニスコート1台分ほどがすっぽり収まる広さと言えば、分かりやすいか。
大きめな物置小屋には、数々の遊び道具や家庭菜園するのに欠かせない道具など沢山収納できる。
そんなマイフェイバリット・スペースで、今日も呑気にひなたぼっこをしていたら男が1人やって来た。
何処からやって来たのか。
たぶん、建物をよじ登ってやって来たのである。
それ以外の方法だと、屋内からしかないのだが、ここは自宅だ。
私の家で、知らない男を許可なく通すはずがない。
というか、どう見ても不法侵入だ。
その男は紺の長靴を履いていた。
清潔感はなさそうで、髪はぐしゃぐしゃ、髭はボーボー、私服もなんだか小汚い印象だった。
男は「チーっス」と言って登場した。知り合いか何か、とてもフレンドリーな装いで、しかし、不法侵入者に対して私はスルーした。
人見知りという性格もあるのだが、あれに関わってはろくな事は起きないなと思った。
男はスルーされたことなど気にもとめずズカズカと不法侵入をして、ズカズカと花壇の中に入っていき、隣のビルの屋上で作業している業者っぽいオッサンと世間話を始めた。
「ココ、いい所っすねー。そっちは景気はどうっすかー?」みたいなどうでもいいやり取りをだ。
私は堪らず怒鳴った。
「おいコラちょっと待てや」
「はい?」
流石に怒った。今度は憤る気持ちを少し抑えて怒鳴った。
「うん、ちょっと待って。お前、人んちで何してるの? 」
「え?」
「いや、え?じゃなくて、、、、っ!」
何も分かっていない顔が余計に腹たった。
「花壇に足入るなよ」
「花壇?いや、何も咲いていなっスよ?」
「そういう問題じゃないって」
種撒いて水やり毎日している。それを皆まで言う気になれなかった。
「とにかく出ろ」
「ちょ、ちょっと落ち着くっス」
どこの誰が怒らせてるんだよ。
今思えばこの時点で警察呼べば良かった。
とにかく、この男を追い返そうと何度も突き飛ばして押して押して屋上の端に追いやった。
「うん、早く帰って」
「い、いや、それはできないというか困るんスけど」
どうやらこの男、自力で屋上までよじ登って来たが、来た道をそのまま降りては帰られないらしい。
また、男がここに来た目的をまだ果たしていないとか。
「俺、ココでビジネスがしたいんスよ」
「ふ・ざ・け・ん・な~」
それを聞いた瞬間に私の中で何か糸がプツンと切れた音がした。
男は必死にここでのビジネスモデルを提案というか説明してきたが、そんなこと知ったこっちゃない。
ここは我が家の癒しの空間である。ここは我が家のストレス発散の場所である。
このあと、この騒動を聞きつけて駆けつけてきた母親に説得されて怒りの矛を沈めた。
でも、あの男を止めることは出来なかった。
数日後、、、、
男のビジネスに共感した母親の蛮行によって、この屋上は一般人が利用できるちょっとした公共エリアとして開放されることになった。
隣のビル群の屋上へと行き交う人々。連絡通路やらスロープやら階段やらで屋上同士を繋いである。
綺麗に整備された遊歩道やベンチ、これまた立派な観葉植物などが憎たらしい。
屋上を占拠されたのはどうやら自宅だけではなかったらしい。
各建物の屋上には、遊歩道に沿うように日用品やら雑貨やら、古着・古本、屋台やら小さなお店が立ち並び、ちょっとしたアウトレットパートかのようだ。
かくいう自宅の屋上も賑わっていて、物置小屋は雑貨屋さんへと変わり、母親と私で店番をしていたり、何故こうなったのかは私にもわからない。
不本意ながら商売繁盛している。
「どうっすか?俺の言った通りビジネス大成功したじゃないっスか」
「いつか絶対に潰す」
私はここで手に入れた軍資金を持って、いつか新しい憩いの場をココに創る。
絶対にココを私だけの極楽庭園として取り戻してみせる。
「ははっ、頑張ってください。そんなことよりも、お隣さんが新しいサービスを始めたらしいんスけど、一緒に見に行きません?」
「誰がお前となんか、、、、」
「あら、それじゃお母さんが見に行ってこうかしら」
「え、、、、?」
「おぉー、流石お母様っスね!どこかの誰かさんと違って話しが早くて助かるっス!」
母がお店のエプロン?を脱いで支度仕出した。
「それじゃ店番頼んだわよ」
「行ってくるっス~」
「」
母は私を置いて男と出掛けて行った。
マジでふ~ざ~け~ん~な~。