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悠久の旅人  作者: 如月 純


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「記憶が少しずつ戻って来ているんですね。ですが、残念ながらあなた方の素性に関して詳しい事は何も知らないんです」

 呼び出しを受けて話を聞いたシャルは困ったような顔で4人を見てそう言った。

 嘘を言っているようには見えない。

 どうやら本当に知らないようだ。

「でも、記憶を失う前の私たちを知っているでしょう?」

 ヒロカが訊く。

「はい。以前あなた方4人は惑星デサリーにいました。遺跡調査に行った私はそこで遺跡の管理をしていたあなた方と知り合ったんです」

 シャルはそう言って一旦言葉を切る。

 そしておもむろに4人の顔を見渡した。

「これは言っておいても良いと言われたので言いますが、あなた方は······おそらく不老不死、なんだそうです」

「え?」

 シャルの言葉に、ユウカは目を見開く。

 他の3人も驚愕して絶句した。

「俺たちが、不老不死?ていうかおそらくって······」

 シャミニが半信半疑の眼差しでシャルを見る。

「私があなた方と出会ったのは記憶喪失になる3年前ですが、その当時、あなた方の年齢はその外見で数百歳を超えている、そしておそらく不老不死だ、とユウカが」

「不老不死······だから毒もウイルスも効かなかったって事か」

 ユウカはつぶやいて腕組みをする。

「とりあえず俺たちが不老不死だとして、どうして記憶を失ったのかはわからないのか?」

 シャミニが訊いた。

「それは······私の口からは言えません」

 シャルは困った顔でうつむく。

「って事は、記憶喪失の原因は知ってるって事?」

 ユウカが詰め寄った。

「知ってます。でも、教える訳にはいかないんです」

「どうして?ねえねえ、どうして教えられないの?」

 今度はアーリスが問い詰める。

「記憶を失う前の、あなた方に言われたんです。もし記憶喪失になったりしても自分たちでどうにかするから、知っている事は何も言わないようにと」

「はあ?」

 シャミニが首を傾げた。

「自分たちでどうにか······って」

 ユウカは疲れた顔になる。

 シャルは何も言わず、ポケットから1枚のカードを取り出した。

 データなどを記録するメモリーカードだ。

 見た目からして、随分古いタイプのようだ。

 そしてシャルはそのカードをユウカに差し出す。

「これ、何?」

 ユウカは怪訝そうな顔でそれを受け取った。

「記憶を失う前のユウカに預かった物です。あなた方が自分たちの素性に気付き始めたら渡すように言われてました。内容は私にもわかりませんが、もう渡してもいい時期だと思って」

「話が見えて来ませんね。記憶喪失になる前の我々は、あらかじめ記憶喪失になる事を予想していたのでしょうか」

 ヒロカが疑問を口にする。

「そうかもね。じゃないとこんなカードを用意する事なんてできないよ。アーリス、これ読み込んでみてよ」

 ユウカはそう言ってカードをアーリスに渡した。

「うん」

 アーリスはカードを受け取ると、すぐにコンピュータの前に座る。

 そしてモニターの横にあるカードリーダーにカードを差し込み、収録データを呼び出した。

「パスワードが設定されてるよ。正しいパスワードを入力しないと読み込みできないようになってる」

「パスワードですか。ユウカ、わかりますか?」

 ヒロカがユウカを見た。

「全然わかんないよ」

「シャルはわからないのか?」

 シャミニがシャルに訊く。

「パスワードの事は何も聞いてません」

「何でもいいから適当な言葉を入れてみようよ。“ル・エポ”とかさ。そんなに難解な言葉にはしてないでしょ。きっとね」

 ユウカはそう言ってアーリスを見た。

 自信はなかったが、そう思いたいと言う気持ちがあるのだ。

「じゃ、とりあえず“ル・エポ”って入れてみるね」

 アーリスはそうつぶやいてキーを叩く。

 確信はなかったが、それほど難しい言葉ではないと思った。

「違うみたいだよ」

「4人の名前を入れてみたらどうだ?」

 シャミニが言う。

 アーリスは言われた通り、4人の名前を入力した。

「違うみたい。ユウカ~、わかんない?」

「ちょっと待ってよ。パスワード考えたのは記憶を失う前の俺なんだからさ。今の俺じゃないじゃん」

 3人に見つめられて、ユウカは頭を抱える。

「ユウカって事には変わりないよ」

 アーリスはそう言って口を尖らせた。

「何だよそれー」

 ユウカも口を尖らせる。

「何でもいいから言ってみてよ。シャミニとヒロカも」

「思い浮かばないですね」

「ユウカの考えそうな言葉か······」

 言われた2人も考えてはみるが、何も思い浮かばない。

 第一、記憶を失う前のユウカが今のユウカと同じ人格だったのかどうかもわからないのだ。

 今のユウカでさえ何を考えているのかわからないのに、記憶を失う前のユウカが考えている事など想像もつかない。

「サンドワームとかどうかな」

 ユウカが言った。

 アーリスが「それかも」と指を鳴らす。

「······違う。どおして~?」

 入力した後、アーリスは唸って突っ伏した。

「サンドワームが違うとなるとわかんないなあ」

 ユウカも唸って考え込む。

「“ユウカとゆかいな仲間たち”なんてどうですか?」

 真面目な顔でそう言ったのは、ずっと黙っていたシャルだった。

 全員、シャルに注目する。

「俺、シャルが理解できなくなった」

 ユウカがつぶやいた。

「俺もだ」

 シャミニがうなずく。

「いえ、何でもいいって言うので······」

 シャルは恥ずかしそうにうつむいた。

 アーリスが黙ってキーを叩く。

「······それも違うよ」

「じゃ、“ユウカと不思議な仲間たち”」

「ふざけないでよユウカ······それも違うよ」

「それなら“ユウカとおかしな仲間たち”」

 ユウカは楽しそうにアーリスを見た。

 アーリスはゆっくりと首を左右に振る。

 そして何も言わずキーを叩いた。

「当然の事ながら違ってるよ」

「“不老不死”なんてどうですか?」

 ヒロカが言う。

 確かに、全く老化しない彼らにはぴったりな言葉だ。

「それかも!」

 アーリスは顔を輝かせてキーを叩いた。

 しかし。

「どおしてえ~?」

「違うみたいだな」

 シャミニがため息をつく。

 画面にはパスワードが違うという表示。

「もうお手上げだよ~」

 アーリスはがくりと肩を落とした。

 ユウカも半ば諦めたように首を振る。

「もしかしたら······」

 シャルが顔をあげた。

 4人が視線を向ける。

「今思い出したんですが、ユウカが口癖のように言っていた言葉があるんです」

「俺の口癖?」

「ええ。不老不死は俺たちの特権だ、とよく言っていました」

「それだよ!アーリスっ」

 ユウカは目を輝かせてアーリスを見る。

「うん!“不老不死は俺たちの特権”ね」

 アーリスも目を輝かせてうなずくと、素早くキーを叩いた。

 モニターに読み込み開始の文字が現れる。

「やった!」

 ユウカが嬉しそうに声をあげた。

 そして、読み込みを終了したモニターを全員で見る。

 モニターに現れたのは、ユウカの映像だった。

『えーっと、とりあえずこんにちは。皆いるよね。皆がこれを見ているって事は、記憶喪失になってたりして、自分たちの素性に興味を持ち始めたって事だと思っていいよね?自分たちがどうして不老不死なのか、一体何者なのか知りたいとか思ってる?』

 モニターの中のユウカは、こちらでモニターを見ているユウカと全く変わらない。

「知りたいに決まってるじゃん」

 ユウカは口を尖らせてモニターの中の自分を睨んだ。

『もちろん知りたいよね。でも教えてあげないよー』

 モニターの中のユウカはいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 こちらのユウカはがくっとうなだれた。

「それじゃ何のためにメモリーカードを用意したんだ」

「ユウカの考える事ってやっぱわかんないや」

 アーリスが肩をすくめる。

「確かに」

 シャミニが力いっぱいうなずいた。

 モニターの中のユウカが見えなくなり、今度はアーリスが現れる。

『知りたかったら惑星デサリーの遺跡管理塔のメインコントロールルームを探してごらん。すぐにメモリーカードが見付かる筈だから。ちなみにパスワードは“サンドワーム”だよ』

 モニターの中のアーリスはそう言うと、こちらのアーリスと同じ元気な笑顔を残して消えた。

「何これ。どういう事~?」

 アーリスはユウカと同じようにうなだれる。

『まあ、ゲームみたいなものですから』

 今度はモニターにヒロカが現れてそう言った。

『そういう訳だから、頑張れよ』

 ヒロカの脇からシャミニが覗く。

 やはり2人も、こちらの2人と全く変わらなかった。

「頑張れよ、ってちょっと無責任な感じじゃん」

 ユウカが口を尖らせて文句を言う。

 しかし、このメモリーカードにはこれ以外のデータは入っていないようだった。

 どちらにしても、惑星デサリーにあるメモリーカードを入手しなければ先へ進めないようだ。

「でも、上層部の連中が我々をここから出してくれるかどうかですよね」

「それは問題ないよ。俺たちはただの平研究員だからここからは出られないけど、統括員ならどこへでも行けるんじゃん?」

 考え込むヒロカを見て、ユウカはにやりと笑った。

「ああ、そう言えばシャルは統括員のひとりでしたね」

 ユウカの言葉に、ヒロカはポンと手を打つ。

「そう言えば、って······」

 シャルはがくりと肩を落とす。

「と言う訳で、俺たちのかわりにデサリーに行ってメモリーカードを回収して来てよ」

 ユウカはそう言ってシャルの肩を叩いた。

「よろしくね」

 アーリスがにこにことシャルを見る。

「わかりましたよ。すぐに他の統括員に承諾を貰ってから······」

 シャルが言い終わらない内に彼の白衣の中から電子音がした。

 どうやら携帯用の通信機らしい。

 シャルはカード型のそれをポケットから取り出した。

「何でしょう?」

 カードに向かって声をかける。

『ああ、シャル君。君が管理する研究棟に、紫の目をした4人組の男がいたと思うが』

「はい」

『彼らを絶対に研究棟から出さないように』

「え?」

『いいか。これは君以外の各棟統括員の全員一致の意見だ。とにかく、彼ら4人を研究棟から一歩たりとも外へ出してはいけない。絶対にだ』

 かなり一方的な内容の通信は、やはり一方的に終了した。

 上層部の連中の正式な呼び名は「各棟統括員」である。

 研究施設の1つの棟につき1人、統括員がいるのだ。

 ユウカたちのいる棟の統括員がシャルだった。

「どういう事でしょう」

 シャルは納得いかない顔でつぶやいた。

 他の統括員達が何故いきなりそんな事を言ってきたのか、理解できない。

「きっと、合成人間じゃないって事に気付いたんじゃん」

 ユウカが言った。

「ええっ?」

 アーリスが目を丸くする。

「どうしてだ?」

 シャミニが眉をしかめた。

「染色体や遺伝子の検査をしたからですね」

 ヒロカが言う。

「そうか。そこから情報が上層部に漏れたのか······」

 シャミニは納得したようにうなずいて考え込んだ。

 検査を依頼した部署の連中が、特殊な遺伝子を持つ4人の事を報告したのだろう。

 そして統括員達は彼らが普通の人間ではないと気付いたのだ。

「どうするの?このままじゃきっと色んなえげつない実験されちゃうに決まってるよ」

 アーリスが顔面蒼白になった。

 どうやらかなり色々な想像をしたらしい。

「ふーん。面白くなって来たじゃん」

 ユウカは楽しそうににやりと笑う。

「よくそんなのん気な事を言ってられますね······」

 ヒロカが疲れた顔でユウカを睨んだ。

「実験される前に、脱出しちゃえばいいんじゃん?」

「どうやって脱出するんだ?」

 シャミニが訊く。

 ユウカ以外の3人とシャルは事を重く見ているようだ。

 それは仕方のない事だろう。

 ここの研究施設はかなり特殊なのだ。

 一度研究員として入ったらそう簡単には辞める事ができない。

 帰郷や外出も統括員以外はほとんど認められていない。

 簡単に言えば、一度入ってしまったら二度とこの施設から出られないと言う事だ。

 しかし、それを承知の上でここに来る者は多い。

「シャルが仲間だって事はばれてないよね。それを利用しない手はないじゃん?」

 ユウカは相変わらず余裕の笑みを浮かべている。

「どうするんですか?」

 ヒロカが訊いた。

「何かいい考えがあるんですか?」

 シャルもユウカを見る。

「身代わりのアンドロイドなんかを作るにしても、完成するまでにばれるぞ?」

「そんな事しないよ。もっとシンプルに行くよ」

「ねえ、どんな考えがあるの?」

 アーリスが目を輝かせて訊いた。

「その前に、この星とこの施設の位置なんかを把握しておきたいんだけど。その方がより綿密な計画を立てられるってもんじゃん」

 ユウカはアーリスには答えず、シャルを見る。

「ああ、はい。この星の名前はもちろん知ってますよね」

「惑星ヒートス。第27太陽系の第4惑星です」

 ヒロカが答えた。

 シャルはうなずく。

「この施設は星の北半球、36区に位置しています。ちなみに、この星にはここ36区にしか人はいません」

「って事はアレじゃん?食料なんかは定期的によその星から運ばれてるって事だよね?」

「そうです」

「で、どんな方法で運ばれて来るのかな」

 ユウカは笑みを浮かべてシャルを見た。

「惑星トレイアからの運搬船が1日に何度か物資を運んで来ますが」

 シャルは答えながらも、ユウカがどうしてそんな事を訊くのか理解できない様子だった。

「で、船の発着時間は決まってる?」

「ええ。でもユウカ、運搬船の事を訊いてどうするんです」

「乗っ取るんです」

 ユウカはシャルの口調を真似して言うと、楽しそうにくすくすと笑った。

 それを聞いてシャルも他の3人も目を丸くする。

「そりゃまたすごい事考えたな」

 シャミニが感心したようにつぶやいた。

「大胆な計画ですね」

 ヒロカも感心している。

「ユウカらしいよね」

「まあ、成功するかどうかはわかんないけどね」

 ユウカはソファに移動して、どさりと座った。

 そしてのんびりと伸びをする。

「ま、ユウカの事だからきっと成功させちゃうよね〜」

 アーリスが笑った。

 ヒロカとシャミニも、何故か妙に納得してしまう。

 ユウカの見せる根拠のない自信と余裕は、何故か3人を安心させた。

「それとシャル。他の統括員達は、俺たちが統括員達にばれてる事に気付いてるって事にはまだ気付いてない筈だよね」

 ユウカがシャルを見る。

 シャルはしばらく目をぱちぱちさせていたが、やがてうなずいた。

「ああ、それは大丈夫です」

「だったら、とりあえずはメモリーカードの回収頼むよ」

「わかりました」

「運搬船を乗っ取るのはメモリーカードを見てからでも遅くないだろうからね」

 ユウカはのんびりとそう言う。

「シャル。結局のところ、あなたはどこまで我々の事を知っているんですか?」

 ヒロカがシャルに訊いた。

「前に言ったように、皆さんは惑星デサリーで遺跡の管理をしていました。それ以前は色んな星を転々としていたそうです。詳しい事はわかりません」

「一体、何をやって記憶喪失になっちゃったのさ~」

 アーリスが口を尖らせてシャルを見る。

「ですからそれは私の口からは······」

 シャルは困ったように眉をしかめた。

 よほど固く口止めされたらしい。

「記憶が戻ってからのお楽しみ、ってとこだね。とにかく、メモリーカードの回収よろしく」

「はい」

 ユウカの言葉にシャルはうなずく。

 そして研究室を出て行った。

「さてと。のんびり荷物でもまとめますか」

 ユウカはのん気にそう言って立ち上がる。

「そんな事してる間に、他の統括員の奴らに監禁されたりしないか?」

 シャミニがユウカを見た。

「あ」

「あ、じゃないよ~。そんな事になったら運搬船を乗っ取るどころじゃなくなるんじゃないの」

 アーリスもユウカを見る。

「ユウカ、何か考えがあるんですか?」

 ヒロカが訊いた。

「全然ないよ。でも監禁くらいなら何とかなるでしょ。シャルが仲間だって事がばれさえしなきゃね」

 ユウカは至ってのん気だった。

 不老不死である以上、監禁などされたら文字通り永遠にここから出られなくなってしまう。

 なのに何故ユウカはここまでのん気にしていられるのだろう。

 実は何か考えがあるのか、本当に何も考えていないのか、その表情から読み取る事はできない。

 3人はそんなユウカを見て密かにため息をついたのだった。


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