霞ゆく二人を目にして
次で完結です。
朝、異変は突然訪れた。
「……気のせいか? 二人が何だか薄いような…………」
「そうか? ケンタはいつも通りだぞ?」
「うん、ケンタ君はいつも通りだね」
二人が俺を見る。そしてお互いに顔を合わせ──
「トモエ!? 何だかお前薄くないか!?」
「本当だ! 薄い気がする!!」
どうやら俺の見間違いでは無いようだ。
自分の顔を触り、実在する事を確かめつつも、後ろの背景が心なしか透けて見える状態に、不安を覚えているようだ。
「な、なあ! これどうなっちまうんだ!?」
「……もしかしたら、元に戻れるのか?」
「!」
「!?」
元に戻れる。それは俺達が望んだ、本来のあるべき姿なのだが、突然差した希望の光はとても眩しくて、目が眩みそうになってしまった。
「まあ、とりあえず朝飯を食うか……」
段々と慣れてきた食事を取り、食後は机で勉強を始める。あくまで勉強するのは二人であり、俺は二人が醸し出す猛烈な睡魔に耐えることが仕事である。
「……朝より薄くなってるな。もう目をこらさなくても後ろのノートが透けて見えるよ」
「大丈夫なのか、これ……」
「大丈夫だよね? ね?」
レナが俺の頬にパンチをお見舞いするが、触感があまり伝わらない。どうやら存在自体が希薄になりつつあるようだ。終わりの時は目の前らしい。
「……最後に、記念撮影でもするか?」
「いいね」
「やろう」
スマホを机に置き、二人が俺の顔の脇でピースをする。まるで俺が両手でピースしているみたいで少し恥ずかしい。
タイマーのカウント音が鳴り、シャッター音が鳴った。
「撮れたかな?」
俺がスマホに腕を伸ばすと──見慣れているはずの物が突然視界に現れ、俺は酷く驚いた。
「──!!」
右手のレナが消え、俺の右手が突然現れた事に戸惑いを隠せない。左手を見ることを一瞬躊躇ったが、左手の感覚が元に戻っている事に気が付き、見るまでも無くトモエも消えていることに気が付いた。
スマホの画像を確認すると、先程撮った写真には、涙を流しながら俺の頬にキスをする二人が写っていた…………。
「……レナ……トモエ……」
俺は家中を探し始めた。
「何処だ……! 何処に居るんだ……!!」
消えた以上、何処かに戻っているはずだ!
家の中に居ない事を確認し、俺は自転車を繰り出し、走り出した。
「後はあそこしか無い!」
真夏の太陽は容赦無く俺を照り付け、その熱を押し付けてゆく。




