再来
最終回
件のホテルがあった場所は、すっかり荒れ地になっており、ケンタはぼんやりと揺れる雑草を眺めることしか出来なかった。
「……なんだよそれ…………どうすりゃ良いんだよ……」
ケンタがやり場のない怒りを必死で抑えていると、通り掛かった軽トラが目の前で止まった。
「居た居た!」
それは胡散臭い眼鏡の男であり、軽トラの荷台には怪しげな機械と箱が載せられていた。
「……?」
「いらっしゃいまし!」
「──アーッ!!」
ケンタは思い出し声を上げた。
それはホテルの店員であり、三人がくっつく原因となった張本人であった。
「どうやらキミの部屋の機械が調子悪かったみたいでさ! 今から分離作業するから宜しく!」
男は軽トラから降りると、機械からケーブルの繋がったジャケットを取り出した。
「はい、これ着て」
「……何ですかこれ?」
疑問に思いながらも、二人のためとジャケットを着るケンタ。そして男が機械のレバーに手をかけると──
──バリバリバリ!!!!
「ウギャァァァア!!」
1,000,000,000,000Vの高圧電流が流れた!!
「さあ! 分離したい人の事を強く考えて!!」
「レ、レナ……トモエ…………!!」
電流で肌が焦げるケンタの脳内で、今までの思い出が走馬灯のように流れていた。
「ダメ! 足りない!! もっと強く!!」
「レ、レナァ!! トモエェ……!!」
「二人同時なんて欲張り! より好きな方を選んで!!」
「……ッ!!」
突然の選択にケンタは迷った。控えめだが自らの選択に愚直なトモエ。口と態度は悪いが時折しおらしくて見捨てられないレナ。ケンタの脳内で二人の顔が出たり消えたりをくり返す。
「顔はどっちが好み!!」
未だに流れ続ける電流に、ケンタの意識は朦朧となりつつあった!
「……トモエ…………」
「胸は!!」
「……トモエ……」
「はぁ!? 脚は!!」
「レナ……」
「よっしゃ!」
「一緒に居て落ち着くのは!!」
「……レ、レナァ…………」
「ヨシッッ!」
「結局どっちが好きなのよ!?」
「…………グッ……グァァ……!!」
ケンタの口から煙が上がり始めた。
「うぉぉぉぉ!!!!」
ケンタはジャケットを気合で脱ぎ捨て、そしてその場に倒れてしまった!
そして軽トラの方を振り向くとそこには、見覚えのある女の子の顔が二つ並んでいた。
「レナ……トモエェ…………」
ケンタの意識はそこで潰えた…………。
ケンタの意識は自室で戻った。
体のあちこちが焦げ臭く、体が思うように動かない。
それもその筈、ケンタの両隣では、まるで被さるようにレナとトモエが添い寝をしていたからだ。
「……あれは夢だったのか?」
「ケンタ!!」
「ケンタ君!?」
ケンタの声に二人がむくりと起き上がった。
「怪我は無い!?」
「痛くないか!?」
「あ、ああ……」
虚ろな返事をすると、二人は喜びの表情を見せた。
「あの野郎! 電圧間違えやがって!!」
「ん? 電圧……?」
「レナちゃんシーッ!」
「……お、おおぅっふ!」
しどろもどろになるレナ。トモエも誤魔化すように話題を変える。
「そうだ! お腹空いてるよね!? 今何か作るからキッチン借りるね!?」
「そうだそうだそれが良い! オレも手伝うぞ!!」
二人が慌ただしく部屋を出て行った。そして──
「だからあのオッサンにホイホイついていったのは間違いだったんだって!」
「レナちゃんだって『ケンタの野郎いまいち煮え切らないからこっそりお仕置きしてやろうぜ!』とか言ってたじゃない!?」
キッチンから大きな声で言い争う声が丸聞こえしていた……。
「ハーレムかい? お客さん……」
こっそりと妹が部屋を覗いていた。ケンタは無言で妹を追い払った。
「……眠い」
暫く料理の音が聞こえ、そして扉が開くと、そこには胸元を大きく露わにしたナース服のトモエと、太股を大きく露わにしたレナがチャーハンを持って登場した。
「「で!? どっちが好きなの!?」」
ケンタは滾る気持ちを抑えつつ、チャーハンを頬張った。
「ハーレムかい?」
覗き見る妹にレンゲを投げ、ケンタは無言でチャーハンを流し込んだ。
読んで頂きましてありがとう御座いましたぁぁ!!!!
(๑òᆺó๑)