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勇者と私とラーメンと



「お母さん、おかえり、あのね、話があるの」

「うん?どうしたの?塾辞めたいなんて言うんじゃないでしょうね?」

「そうじゃなくて、その...」

「何?」

「ゆ、勇者を拾ったの...」


☪︎*☪︎*☪︎*


それは2時間前に遡る。


☪︎*☪︎*☪︎*


夏。

それは熱中症の季節である。

私は買い物袋をさげて坂を上る。

登りきった後、異常な物を見た。


私の家の前で勇者が倒れていたのだ。


聖剣と思しき細身のそれは真夏の炎天下によってピカピカと虚しく鈍い光を放ち、鎧兜もまた、然りだった。


「え?」

ボトリと両手の荷物が落ちた。

卵が割れたかもしれない。

半額セールまで待って待ってようやく買った卵12個入りだったのに。


ってそんな事はどうでもいい。

目の前の状況に思考が追いつかない。

暑い。今日は35℃だ。


「え、ちょっ、ゆ...勇者...?」

取り敢えず、仰向けに倒れている彼をトントンと叩く。

「大丈夫ですかー?私の声が聞こえますますかー?」

「うう...」

北欧神話に出てきそうな整った顔が苦痛に歪む。


息がある!

私はスーパーの袋から天然水を取り出す。

そして、それを勇者の頭に思いっきりぶっかけた。

勇者の頭から白煙が立ち上る。


ぷしゅーーーーーー


そうして、勇者は生き返った。


彼は頭の皿に水を注がれた河童宜しくゆらりと上半身を起こす。

そして、何かを求めるように、震える手を差し出してくる。

「あ!水ですね!どうぞ!」

彼はなんとかペットボトルを握り、水分を摂取する。


「あ、…」くぐもった声で彼が言う。

「あ?」

「あづい...」


だろうな!

「えっと、とりあえずお家入りましょ!」

「いいんですかっ!!!!!!!」

彼は私の手を両手で掴み、マリンブルーの瞳をキラキラと歓喜に染める。

......元気じゃねぇか......

まるで、新しい引き取り手を見つけた捨てられた子犬の様だ。

なんだか、暑さで尻尾まで見えてくる。

「...え、ええ」

「はあっ!こんなに優しい人がいたなんて、で、お家は何処ですか?」

「ココです。」私は目の前を指して言う。

「...へ?」

「いや、家ココです。」

「...なんか、案外近いですね...」

いや!そこで凹むな勇者!そりゃ確かに貴方達の世界ではこう云う所から冒険が始まるんだろうけどさ!残念だけど家、目の前だよっ!門開けて、鍵開けて、3秒で入れるよっ!なんか、逆に活躍シーンとか戦闘シーンとか設けられなくてごめんよ!うん!申し訳ないよ!きっと魔物とかその美しい剣でばっさばっさヤリたかったよな?分かるよ、勇者、でも、それが現実だから強い精神力で受け止めてくれ!

などと思ったが、口に出さず。

「...あはは...まぁ、入ってください…」

とか無難に対処したのだった。玄関の鍵を開け、彼を招き入れる。

「涼しい!!!!!!!」

そうなのですよ、勇者様、この日本という国では冷房という最強の代物があるのですよ、どうだ!恐れ入ったか!どやあ!日本のテクノロジー舐めんな!どや!どや!

とか思ったがこれも口に出さなかった。


「な、何故だ?外はあんなに暑かったのに、此処はひんやりとしていて気持ちが良い!」

「はっ!分かった!きっと氷タイプの魔術が使えるとか?」

物凄く期待を込めた目でこちらを見る。

「い、いえ、私、魔法使えません。」

「!!!!!!!」

彼は固まる。

お、おう、なんか凄いショック受けてる...

「えーと、とりあえずシャワー浴びてきてください。臭いんで。」

「...?...シャワーって何だ?」

子供のように首を傾げる。


......そっからっ!?

「えーと、お風呂は分かりますか?」

「分かる!」

勇者は親指をぐっと突き出す。

お前は小学一年生かっ!

というか、そこドヤられても困るわ...


「あーもう、何でも良いんでお風呂入って来て下さい」

「え...1人で入るの寂しい...一緒に入ろ?」

「はあああああ????」

堪えきれず私は叫ぶ。

とうとう素が出てしまった。

「え!だって男同士だし、ちょっとくらい......」

「?.........私、女なんですけど...」

「ええ!?嘘!?ごめん!えーとえーと、いや、その、胸が無か...ゴッフゥッッ......」

最後までは言わせない。

私は勇者の鳩尾に拳をクリーンヒットさせ、尻餅をついた彼を見下す。

「いえ、貴方は悪くありません。でも、ちょっと堪えきれませんでした。お言葉ですが、私だって好きで胸が小さい訳じゃないんですよっ!!!!!!!」

本心だった。

ぜーぜーと息が上がる。なんだか、自分で口にしてしまうととても悲しかった。


勇者はそんな私をポカンと見上げる。

そして、ハッと我に帰り、

カサカサカサと後ずさった。

「んじゃ!お風呂入ってきます!」

彼は脱兎の如くお風呂に逃げたのだった。


お風呂に入って貰っている間に彼の着替えを...用意せねば...

うん?待てよ…

私は姉妹の妹である→男性は父親だけ→お父さんの服は加齢臭酷くてとても貸せない→男の子の服ない→勇者着る服無い

いやいやいや!これはマズい!お母さんが帰ってくる前に服買ってこよう!

「あれー?なんか、着替えない?」

ぎくう...

勇者は案外お風呂早かった。

え?さっき入りに行ったばかりだろ?もうちょっとゆっくりしてていのに。

バスルームのドアが開く。

長い艶やかな金髪から水が滴って色気が溢れている。まるで、神話のワンカットを切り取ったかのようだ。

上半身裸の彼と目が合う。

「ぎゃーーーーーーー!!!!!!!」

「わーー!忘れてたああああああ!ごめんごめんごめんごめん!」


―10分後―


「と、とりあえずこれ着てくださいっ!」

私は大きめのTシャツとジーパンを渡す。


Tシャツは入った。でも、やっぱりズボンは入らなかった。


私は暫し黙考する。

そして、

「これ、どうですか?」

こっそり勇者にスカートを渡す。

勇者がスカートに脚を通す。

「お!何これ!めっちゃ動きやすい!こんな優れものがあるなんて!!」


勇者は制服のスカートで跳び回る。

何だか、とっても嬉しそうだ。

というか、つ...通用してしまった。


実際彼のすらっとした長い脚で膝上10cmのナイスな感じになっている。

「.........やばい、案外オイシイ...」

私はそう独りごちた。



「なんか、お腹空いた」

「あ!そうですよね、お母さんまだ帰ってこないからなんか作りますよ!何が良いですか?」

「うーん、ネギ醤油ラーメンの麺なし、後、ネギ爆盛りで!!!!!!!」

「はーい!分かりました!ちょっと待っててくださいね!」

私は厨房に立つ。


料理は異性の胃袋を掴む大切な鍵だ。

ここで失敗する訳には行かない!何がなんでも!そう!例え太陽が西から昇ろうとも!会社でお父さんが部下に育毛剤付けているって知られようとも!私は極上の1杯を作らなければならないのだ!


私は決意を固め、無駄が最小限に省かれた素早い動きでお湯を沸かす。

そして、さっきスーパーから買ってきたばかりの新鮮な長ネギを取り出す。

葉が青々としている。良し、取り敢えずここは問題無しだ。

そして、いつもは全く使わないとても良く切れる包丁を取り出した。私の家に三代に渡って受け継がれている物だ。本当に神聖でお正月にしか使わない。

側面を観察し、何処が一番切れやすいか探す。良し!見つけた!そうだ!想定外の事が起こってはいけない。何か試し斬りをしよう!


冷蔵庫を開く。

目に豆腐が入った。

うん、これでいい!

私は豆腐を大皿に開け

「ふっ!」

宝刀を大きく振りかぶって真っ二つに割る。

豆腐は綺麗な断面を残して切れた。

ついでにお皿も割れた。


良し!完璧だ!かの木綿越しやわやわ豆腐さえも寸断出来たのだ!やっぱりこの包丁は何かとんでも無いものを秘めている!きっと、天照大神に違いない!うんうん!おっと、頷いている場合では無かった!さぁ、いよいよネギを切ろう!


私はネギを袋からさっと出し、まな板に載せる。きっと、ヤマタノオロチに相対するスサノオノミコトはこんな気持ちだったのだろう。それが今の私には十分過ぎるぐらいに分かった。


そして、一思いにネギを切っていく。


ざくざくざくざくざくざくざくざく


そして、私は気づく。

「って!それはもう、ラーメンじゃないだろっ!!!!!!!」

「え!?今頃っ!?」

「何で!麺を抜いちゃったらラーメンじゃないよっ!ジャパニーズカルチャー何処行ったよ!?ていうかもう、ショートケーキのいちご抜き、チョココロネのチョコなし、炒飯のご飯抜きみたいなっ!残念なやつだよ!!!!!!!...そんなの...ひっく、お...美味しくなんかないよ…」

涙が頬を伝う。

彼は私の頭をわしゃわしゃと撫でながら言う。

「もう...泣くなって、ごめんな、俺、昔、子供の時にさ貧しくてさ、いっつもラーメンの匂いだけ嗅いでたんだ。で、勇者になってラーメン食べたらびっくり、」

「お、美味しかったの...?」

鼻声で私は尋ねる。ああもう、泣き顔なんて見せたくなかったのに。涙が溢れて溢れて止まらない。

「俺...小麦粉アレルギーだったんだ...」

「知るかボケぇぇえええええ!!!!!!!!!!!!!!」

座っていた勇者の顎に綺麗なアッパーカットが炸裂する。

「もう、ええわ!私が目の前でラーメン食ってやるっ!」

「そ、そんなっ!残虐なっ!」


私はキッチンに戻り、自分の分だけラーメンを作る。

そして、涙目で顎を押さえている彼の前で優雅に、美味しそうに食べた。勿論、ネギは大盛りだ。


つるつるちゅるちゅるっ!


冷たい室内でラーメン!最高だ!これできっと読んでいる人もラーメンが食べたくて食べたくて堪らなくなったハズ!

ぐうう...作者のお腹がなった。ちなみに作者は夕ご飯まだ、食べて無くて極限的にお腹空いているのだ。飯テロしてるが、寧ろ自爆テロ的な状態なのだ。だから、読者の方がお腹空いてもらわないとちょっといろいろ報われない。。


「ふうっ、美味しかった!ご馳走さま」

「お粗末様です。って、俺、作ってないし、食ってないんだけどな...w。あ!そういえば、自己紹介がまだだったね。俺の名前はルノ、宜しくね」

彼が大きな手を差し出す。

私はちょっと恥ずかしさを感じながら握る。

「私は詩織、こちらこそよろしくお願いします。」


こうして、私の勇者との生活は始まったのだった。


初めまして。ちりかみです。間違えました。鳥神です。とりかみと読みます。


いつも、電車の中でGメールの下書きにちまちま書いていた小説を思い切って載せる事にしました。

私の作品は、どうせ誰も読んでくれないし、誰の目にも触れずにこっそりと他の人の作品に埋没していくのだと思います。


それでも、この後書きを今、貴方が読んでくれているという奇跡を私は嬉しく思います。

何万、何千という作品の中から私を見つけてくれたのですから!


初めから上手く書けるなんて思っていません。

ですが、これからもじわりじわりと更新していきます。


もし、読者様の気が向けばこんな鳥神を末永く応援宜しくお願いします!☪︎


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