魔界転生少女
多分しばらくしたら長編が投稿されます
悪魔、それは人間とは異なる文化を持つ種族。
殺し、強奪、そう言った人間界においての犯罪が正当化され、力こそが正義という単純なルールのみが彼らの常識だ。
そんな彼らが住むある魔界に、1人の人間の少女転生者が現れた。
転生とは、今までの身体を捨て、魂だけの存在となり新たな肉体を得る事。
彼女は、魔界に新しく生まれた魂ではなく、身体を変え、大部分の記憶を失い生まれ変わった存在だ。
転生を行うと基本的には魔力の一部を除いて、生前の何かを引き継ぐ事は不可能だが、少女は幾らかの記憶を宿していた。
今の彼女にとって無駄な過去の記憶などでは無く、生活の知恵や魔法に関する事だった。
「ここは、どこ?」
そう呟いてみても答えは帰ってこない。
次に、周囲を見渡す。
広がる緑、赤い空。
遥か遠くには微かに傾いた建造物も見えた。
「私は……」
名前さえも分からず、ただ暫くの間ひたすらぼーっと思い出せることを思い出そうとしている少女に不快極まりない声が届いた。
「ん、こんなところに人間?」
「こいつで二匹目だ、運がいい、サイコーだ!」
「殺して食うか!」
いつのまにか、前には心底愉快な笑みを浮かべる悪魔達。
ツノのある緑の一つ目悪魔。
体が異様に黒い事を除いて人間に酷似した男。
そして、人型ではあるが全身の皮膚が溶けていて、見るに無残な容姿をしている性別さえ分からない悪魔。
他にも、彼女に見えていないだけでまだ数人いた。
全員が同時に、正面から襲いかかってくる。
どの悪魔も、力量は決して高くない。
だが、生まれ変わったばかりの、年を経ていない悪魔では潜在魔力は全くと言っていいほど引き出せない。
当然、今の彼女も例外ではなく。
「え……」
目を瞑った彼女に痛みはなかった。
怪我がない事に、ホッとすると同時に状況を確認しようと目を開ける。
すぐに視界に入ってきたのは獲物が遠ざかった事に憤慨する悪魔。
水平に彼女の意識とは関係無く勝手に進み続ける風景は、彼女の体が移動していることの証拠だ
「暴れないで」
悪魔とは思えないような優しい声。
500年は生きたと思われる長い緑髪の美女だった。
身に付けているのはは動きを阻害しない素材で出来た全身を覆うローブのみ。
「なんでこんなところにいたの?」
「私は……」
「答えたくないなら、構わないよ」
名前を騙るか、それとも素直に分からないと答えるか、迷う。
だが、どちらにしてもこの場面を凌ぐ為の一時的な関係にしかならないだろうと、彼女は直感的に感じた。
そして、今名前を作る事にした。
10秒間考えた結果、妙にしっくりきた名前が一つだけあった。
「リンデ」
「……そう」
考え込む様な呟きに、助けてもらったお礼を言おうと、顔を見る。
今は怒声を背に逃げているにも関わらず彼女の顔は全く動かない。
その答えは、何故か彼女の中に存在している魔法の知識が教えてくれた。
「これが魔法……」
「どうかした? 当然魔法の事は知ってるでしょ?」
「ここはどこ?」
「何を言っているの……? あなたは、まさか……」
緑髪の美女にはなにか思い当たる事があったらしく、手をリンデの前に翳す。
すると、数多の魔法陣が自動的に浮かび上がった。
「こんな複雑な魔法陣が!?」
「え、え……?」
ビクっと体を震わせ、美女に抱かれたまま小さく縮こまりそうになる。
すると、それに気付いて謝罪する。
「あ……ごめんなさい。 存在は知っていたけど初めて文字が幾つかあったから……」
そのまま、「それにしても」と呟く様に言ってから続ける。
「あいつら、しつこいわね」
2人で、正確にはリンデが少し遅れて背後を共に確認する。
水平移動が止まり、認識し辛かった声が近付いて、何を言っているのか理解出来る様になる。
「もう、生きるのは諦めたか? 安心していいぞ。 代わりにオレ達が長生きしてや、るからよ!」
そんな台詞を吐いて、手を突き出したかと思えば透明の様な白色の槍が宙に舞う。
狙いはリンデではなく、それを抱えていた謎の女の方だ。
「……ふぅ」
目を瞑った彼女の顔はやはり美しい。
槍が急激な加速を始めた頃、リンデの体が浮き上がった。
それは彼女の意思による物ではない。
緑髪の女から発された魔力のせいだ。
彼女の周囲だけは全てを優しく包み込むような柔らかい魔力で、その外側は轟音に合わせて全てが震えていた。
リンデは一瞬見た光景に、恐怖からただ目を瞑る事しか出来なかった。
目を開くと、何もなかったかのように平和な緑の世界が広がっていた。
彼女を襲おうとしていた悪魔達の体は何処にもなく、先ほどまでの事が全て夢だったのではないかと思えてしまう。
だが、リンデの体はしっかりと感じ取っていた。
10を超える悪魔の命が、魔力のみによって粉々に散らされ、憎しみや憎悪を魔力と共にバラまいた事を。
暫く歩いて、周りに何も無い建造物の前に立った緑髪の美女は言った。
「家に入る前に、私も、自己紹介と行きましょうか。 私はリース、賢者だとか、魔法使いだとか色々言われているけど、どの表現が正しいかって言われると私にも分からないわ」
あなたはどう思う?、と優しい誘い笑い。
それを見たリンデは、生まれて数分、初めての笑顔を見せた。
「ふふ、いい笑顔できるじゃない」
リンデはリースを見て、素直に浮かんだ言葉を告げて見た。
「多分、妖女」
リースは驚愕の表情を見せる。
それはリンデの洞察力に関する関心ではなく。
「小さいのに、よくそんな言葉知ってたね」
優しく返された答えと表情に、リンデは少し得意げになって素直に答えてしまった。
「何故か、知ってたの」
笑いかけるが、それへの反応は妙に薄く、リンデは不信感を抱く。
だがそれを今の純真な彼女が問うことは家の中に入った後も全く無かった。