客人
頭から離れないあれ……
ハルキはクルクルと無意味に回していたペンを止めた。
「きつねー たぬきー てんぷーら 東の国 そばそば スープ♪」
トレイシーが鼻歌を歌いながら掃除をしている。CMの歌が耳に残ることはよくある。それをトレイシーが歌うということが、何だか面白い。
「あら、うるさかったかしら?」
トレイシーが視線に気付いて言った。
「いえ、ちょっと煮詰まってて。」
テーブルに広げた資料を、ペンでポンっと叩いた。図書館でフユキと再会した日に借りた本も広げている。
今日はユカイのマンションで考えを練っていた。
ユカイのマンションは、一室が仕事部屋になっている。もちろん違法でない占い部屋。かなり広いマンションだ。以前書いた本の印税で購入したらしい。何の本かは教えてくれないが━━━。
「煮詰まるのもレナ様の予定のうちよ。さぁさ、休憩にしましょう。」
トレイシーがテーブルを空けるよう促した。
15:00
ユカイが絶対に紅茶とおやつを食べる時間。最後の客が帰ったというのに、ユカイは仕事部屋から出てこない。
コーヒーとケーキが、二人分だけ……?
いつもなら三人分用意されるはずだ。
トレイシーも必ず一緒に席を共にする。
「ユカイさんどうしたんですか?出てこないですね。」
「あー、今日は……。」
プルルルル━━━。
下からのコールが入った。トレイシーがインターホンまで飛んで行く。
「お待ちしておりました。どうぞ。」
珍しくまだ、予約者がいたのか。
玄関で、「警察だ。」と言う低い声が聞こえた。客じゃなかった。何も悪いことはしていないが、緊張してしまう。いや、知らないうちに何かの片棒を担がされたか?
だが、待てども警察は来ない。足音は占い部屋に消えた。こっそり占いでもしに来たのだろうか。ユカイはそれなりに人気の占い師なのだ。
戻ってきたトレイシーに「警察ですか?」と確認した。
「そうだけど。なーにー?何かやましいことでもあるの?」
トレイシーはからかいモードだ。
「違いますよ!警察が家に来ることなんてないじゃないですか、普通。」
「そうね。まー、トコ君が捕まるなら、先に私が捕まるから安心なさいな。」
何がどう安心なのだろう。
「これも、レナ様の予定通りなんだから。」
ユカイと出会ってまだ3ヶ月だが、この一言ですべてが納豆できてしまうのだった。