雨
種まきかな……?
トレイシーは買い出しに出ようと靴を履いていると、ユカイが珍しくついていくと言った。今日は占いの予約者を取っていない。ユカイからすれば、それは定まった未来なのだろう。
「あついな……」
ユカイはフリフリの晴雨兼用日傘をさす。スーパーまで歩く二人はかなり目立っていた。真っ白な日本人形のような出で立ちのユカイは、それはそれは絵に書いたご令嬢のようだ。その隣を歩くトレイシーは、ロングスカートのメイド服をさらりと着こなす。
「こんなに天気なのに、雨が降るんですね。」
ユカイは雨が降るからと、トレイシーに折り畳み傘を持たせた。
「お昼はかき氷でいいわ。」
「だめです!夏はちゃんと食べないとすぐバテますよ。」
ユカイは口を尖らす。
「帰りにお豆腐屋さんに寄りましょう。氷で冷やしたお豆腐に、オクラとかつお節をまぶして生姜醤油でさっぱりと。」
「ふむ、それなら食べられるわ。」
「肉豆腐も作りましょう!きっとご飯がすすみます。お豆腐尽くしです!」
トレイシーはもとハウスキーパーだけあって、料理は上手い。
スーパーからの帰り道、ユカイたちは豆腐屋にいた。昔ながらの、老夫婦が作っている豆腐だ。トレイシーは店内でおばばに豆腐を注文し、ユカイは外に干してあるおからをしゃがんで眺めていた。
そろそろか━━━。
「お婆様、それを中に入れた方がいいわ。」
ユカイは中の二人に、おからを指差した。
「あら、急に雨曇が。」
戸口から空を見上げたおばばは、おからのケースを中に入れ始めた。
「貴女がご主人?トレイシーちゃんにはひいきにしてもらってるのよ。」
運びながら話す。
「日本人よりも、日本語が上手なの。」
「そうか、それは良かった。」
おばばは笑い、トレイシーは照れている。
「ところでお孫さんは元気かしら?」
おばばの顔が、ユカイを正面でとらえる。
「ユキノのお友達かい?」
「そうね、友達の友達かしら?」
「そうかい。」
おばばは、広角を緩めた。トレイシーは、「何で!私の知っている人?」と騒いでいる。
「お豆腐屋さんだなんて、恥ずかしいのかしらね。」
おばばの寂し気な表情に、トレイシーは熱弁する。
「なにを言うのです!お豆腐は最高の食材です!!健康にも良いし、料理もアレンジしやすいし。冷奴 シンプル イズ ザ ベスト!インドネシアに持ち帰りたい!!」
止まらないトレイシーを、ユカイはすとんと切った。
「降りだした。また、来るわ。」
「ま、待ってください!!!」
トレイシーはおばばに手をふる。大粒の雫がボトボトと傘を鳴らした。