再会
サラッと流して大丈夫……
かっぱ橋街に面した、ガラス張りの建物。ハルキは区の図書館に来ていた。
外はアスファルトの照り返しと、ごった返す観光客の熱気で暑さが増している。
夏休みは最高だが、この暑さと大量の宿題でプラマイ0になる。
9:25
ハルキはケータイの時計を見つつ、バイブレーションを消す。
空いている席にバックパックを静かにおろし、汗を拭う。
拭いながら、自分の臭いを確認する。
両隣は女子高生。
汗臭くはないだろうか。
この時期はどのテーブルも埋まっている。
空いている席が見つかってよかった。
キュールルル……
隣の女子高生が、はっとお腹を押さえた。
急いで筆記用具をしまい始める。
ケータイの電源ボタンを押すと、13時を回っていた。
顔を上げるといつの間にか、空席が目立っている。
あ━━━
奥のテーブルのやつと目があった。お互いに少し驚く。
ロビーに向かって親指を立てられたので、広げた資料を片付けて図書室のゲートを出た。
ロビーで片手を挙げて待つ友人に、ハルキは駆け寄る。
「フユキ君、久しぶり!」
「おう、懐いね。ハルキは何?ゼミとか?てか、飯いかね?」
ハルキは大きく頷いた。
高校生のとき、時々来たファミレス。当時はドリンクバーで粘ったものだ。今はバイトをしているので、自由にメニューを選べる。
「○○○国立大だっけ?」
「う、うん」
適当に返事をしながら、ハルキはメニューで迷うふりをする。
フユキとは高校で友達になった。同じ台東区に住んでいるが、家が近いわけではない。1年のとき名前順の前後だった、ただそれだけ。このファミレスにも一緒に来たことがある。
「オレはチーズハンバーグセットに、ドリンクバー。ハルキは決まった?」
「えっと、うん、決まった。」
「じゃー、押すよ」
フユキは学内でも成績がよく、おそらく内申点も高かった。だから、彼が予備校通いになるとは誰も思わなかった。
滑り止めの大学は受かったが、妥協出来なかったという噂だ。
「髪、染めたんだね。」
ハルキは大学の話から反らしたかった。
「面接までね。そういうハルキは大学生なのに、そのままなのな。自由だろ?」
ダメだ、話の振り方が下手すぎる━━━
「大学楽しい?」
「ま、まぁ……」
「なんだよ。そんな気を使うなって。」
フユキが苦笑する。こういう表情は変わらない。
「今度こそ受かるからな、オレも。言い訳っぽく聞こえるかもしれないけど、点は足りてるんだよ。あとは本番でもそれが出せるかってだけ」
それはきっと本当だ。そして、去年も同じ状況だった。
「フユキ君なら、次は大丈夫だよ。」
フユキの顔を見られない。適当な返答に聞こえてはないだろうか?
「で、ハルキは何しに来てるの?ゼミ?」
「一年生だからゼミはまだ。宿題がね。」
「大学も夏休みの宿題があるの?マジかー。」
フユキは業とらしく額に手を置く。
「違うんだ。バイト先の。」
「バイト?何で宿題?」
「宿題というか……。そのバイトの雇い主がさ、時間について調べてって」
「え、何そのバイト!うける!ていうかそれ、宿題じゃなくて研究じゃね?」
「いや、そんな大そうなものじゃないよ」
「何にしても、羨ましいよ」
フユキのテンションが急に落ちる。気を使っていたのはフユキの方かもしれない。
「こ、今度遊びにきてよ、バイト先。」
フユキの目が大きく開く。
「コンビニとか、そういうんじゃないんだ。占い、かな?だから、息抜きに、ね?」
「お、おう。」
フユキの瞳がギラりと光ったように見えた。