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後宮へようこそ  作者: 九重たまこ
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後宮へようこそ ㉕

 次の日、私はジョルト、志賢とともに宦官の総元締めであるラーシド・ファドランに呼び出され、事の次第を説明された。初めて会う人物である。すべての宮の宦官を取り仕切っている男で、宰相の次に逆らってはいけない相手だと、条雅に言われた。もとはかなりの上級官僚だったらしい。何をやってちょん切られたのかはわからないけれど。


「…と、いうわけで候補者の一人と、皇太子宮付きの女官数人が目論んだことのようです。候補者のおひとりである、とあるお方はどうしても三人の中に潜り込みたかった。だから、その可能性高いジョルト殿と志賢殿がこのような事態に陥ったわけですな。瑶星殿はまあ、巻き込まれただけでしょう。女官はジョルト殿か志賢殿を手中に収めたかったようですな」


 目論んだ人は教えてもらえなかった。彼は絶対に配偶者にはなれない。だが、罰としてこのまま後宮で教育を受けるという。なんのうまみもなく、最後には放逐されることが決まっているので、それなりの苦痛があるだろう、とファドランは言った。


「あの、女官というのは…」


「全員、すでに罷免されています。まあ、お一人は皇太子の所縁の方だとか」


 凛麗か!と頭の中で盛大につっこむ。他に所縁の女官といえば色々狡い(こすい)伯母だが、職務には忠実である。そう考えると彼女しかいなかった。今頃、条雅は腸が煮えくり返っているに違いない。昔から、彼は異父妹のしりぬぐいを散々させられてきたのだ。伯母にだって悪影響があるだろう。母はそういうところはゆるがせにしない人と聞く。


 こうなると、条雅にも何か波及するかもしれない。胃が痛くなりそうだ。部屋に帰ったら、まずは条雅と父に聞こう。


 ほぼ面識はないのだが、昔から凛麗は私を自分よりも美人でも女らしくもないのに、と見下していた。だが、そんな従姉がいきなりこの国で二番目の権力者になったのである。面白くなかったんだろう。例のかんざしの時だって、蒼夫人が呆れるほどだった。


 まあ、瑶星が私とは知らないはずだから、今回のことは単にその候補者が気に入ったか、ジョルトか志賢を候補から外したかったかのどれかに違いない。どれも非常に優良物件だ。尤も、彼女に落ちるとは限らないけれど。


「様々な事情が絡んでおります。大変申し訳ないがお三方にはその処分で飲み込んでいただきたい」


 彫の深い顔で、こちらをぐっと見つめてくる。むしろ呑め、と言っているのだろう。元が王族だろうが神族だろうが、ここにいる限りは単なる候補者の一人として、この人は扱っている。そのあたりは好感が持てる人だった。


「わ…」


 わかりました、といおうとしたとき、ずっと黙っていた志賢が口を開いた。


「相手の処分はそれでいいとして、ワタシたちに何の保証もないと?」


 いつもよりぐっと声が低い。この恐ろしいご面相の宦官を前にしても全くひるんでいなかった。まあ、確かに竜からすれば大したことない迫力だ。


「いえ…それは」


「学びを行うはずだった時間や、危険だったことに対する補償はないとおっしゃる。黙っていることに対価もなしと?」


 にっこりと笑う志賢に少々おぞけを覚えた。


_____________________________________


 結局、ファドランだけでは立ち行かぬと宰相補佐を引っ張り出し、金銭による保証と外出許可の前倒しをもぎ取った志賢は、ご機嫌だった。


 丁々発止のやり取りは、自分が対象ならばともかく、見ている分には面白い。よくもまあ、ファドランも志賢もああ、口が回るものである。ファドランのいた部屋を出るとき、彼も宰相補佐もかなりぐったりとしていた。がめつい…、と宰相補佐の口が音もなくつぶやくのが見える。


 疲れたんだろう、気の毒に。ついでに言えば、莫大な、とはいかずとも、それなりの金銭を引き出した志賢の腕前は見事としかいうほかない。おかげで私の懐も少々潤った。皇太子としてではない、個人の金が手に入るのは素直にうれしい。


 そのまま、三人で後宮へと向かう。一緒にお茶を使用ということになったのだ。それぞれの部屋ではなくサロンで行えば尻尾くらいつかめるかもという話だ。今日は、前日の遠出と私たちの不測の事態があったために、授業は一日休みであった。


 余分な音を遮断する見えない結界を張った志賢に、宰相補佐の言葉を告げると、当然竜の耳で拾っていたらしく、満足げに口の旗を釣り上げると、高笑いをした。


「おーほほほ!がめついの上等。好機を見逃すなんて商人の風上にも置けなくってよ!ワタシ、貴族じゃなくて商人ですもの。あったりまえだわ」


 家系的には皇帝の血も王族の血も入っていたはずだが、商人の血はよほど濃いらしい。バリバリの商人である。今の後宮は男性ばかりということもあり、男性に限って商人が出入りできるのをいいことに、志賢はばっちりと自分の店を潜り込ませ、宦官相手に商売をしていた。まあ、ものが断然いいのだが。


「品がないですよ、若」


 上品な壮年の男性がお茶を出しながら、おっとりとたしなめる。私の正体もジョルト正体も知っているから、ごく気楽な感じである。彼は志賢に仕える竜の一人だそうだ。かつて竜王のそば仕えをしていた人だと聞いた。志賢って竜王とどんな関係なんだろう。


「あら、やあね。苦労した主人に対していう事かしら」


「若の性格は存じておりますからな。あんまりやりすぎないほうがよろしいですよ。まあ、三人で上級官吏の給料3か月分くらいですか?」


「いえ、もう少しですね。向こうにしては痛手だったでしょうけれど、そこまでの金額ではありませんでしょう。女官たちと候補者の一人からとればいいのですから」


 そうですね、と三人が笑いあう。そこまでの金額じゃない、という金銭感覚がわからない。私がもらっていた小遣いは帝国銀貨3枚である。それだって、条件を満たさなければもらえなかった。しかも、15からは自分で軍内で書類整理や口述筆記と言った内職をして稼いでいたのである。みんなすごいんだなぁ、驚愕した。


「あちらにとっての問題は外出許可なのよね。本当はあとひと月は出られなかったはずよ。でも、不穏分子をあぶり足すために、いう口実でもぎとれてよかったわ」


「わたしも父上のところに行こうかな。訊きたいこともあるし」


「僕もつれて行ってもらえる?ご挨拶しておきたい」


「まあまあ、仲良しだこと。ところで、その帰りでいいのだけれど、リーニュ商会の本店の裏にある、夕虹楼閣(ゆうこうろうかく)に来てくれないかしら」


 そういいながら茶菓子をこちらに差し出してくる。西の大陸風の、木の実の粉とバター(ヴォイ)を使ったものらしい。こってりとしているがサクサクとしていて美味だった。エサクではよく食べたバター(ヴォイ)だったが、こちらではあまり食べられていなかったから、風味に懐かしさを覚える。


「いいけど…」


「あなたが怪我してても大丈夫って言ってたわよって伝えたら、会いたいって言ってきたの。寄ってあげてくれないかしら」


 誰が、とは言わなくとも理解できた。次兄に違いない。わかった、といいかけたとき、ふと気にかかる視線がこちらに向けられた。


「そのまま話してなさい。気にしないほうがいいわ」


「うん。後から、話しかけてくるんじゃないかな?」


 いろいろ飛んでくる好奇心を含んだ視線の中、きわめて異質な視線を送ってきたのはヌオクの王弟・ノルだった。



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