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後宮へようこそ  作者: 九重たまこ
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後宮へようこそ㉔

 次兄の話は衝撃的だった。当然のことながら、彼の語りなのである程度一方的な見方だろうけれど、そんな凄惨なことがあったとは驚きだった。


「あの、じゃあ、慶節兄上は至虹兄上に襲われて返り討ちにしたってことですか」


 さっきの長い長い悲惨な話をまとめてしまうとそんな感じだと思う。


『身もふたもなくいってしまえばそうだな』


 笑いを含んだ声でそう言った。次兄のそんな柔らかな姿を見たことがないので、意外だった。いつもキリリとして近寄りがたい人だと思っていたのだ。こんな落ち着いた、優しい雰囲気で話す人とは思わなかった。ずっと脳筋だと思っていたし。


「慶節兄上は、実は、ちょっと気になることがあるんです。先ほどの話だと、至虹兄上の力は異様ですよね」


『ああ。あの人は確かに武芸には優れた人だったが、あの力は普通じゃない。禍々しい何かがとりついているみたいだったな』


「実は、皇太子宮に至虹兄上の部屋がまだあるんですが、時々気持ち悪い気配がするんです。母上が封印しているんですが。先日、神族の人が後宮入りして、一度浄化したので、最近はあんまり感じないんですけど」


 あの部屋は不気味で好きじゃない。通りかかったりしなければ普通なのだが、時折いやなものが漏れ出しているような気配がする。


 それを聞き、やはり体の動きがよく利かないのか、彼は視線で浩宇(こうう)を促すと、何かを腹の上に置かせた。片手で持つにはちょっと大きそうな透明な入れ物に入っていて、上は布と紙でおおわれている。中にはボウと鈍く光る黒くて丸い何かだった。


『実はね、これは君たちの兄上だと思しき()()の中心に落ちていたものなんだ』


 鏡の角度が少しだけ変わって、浩宇の声が横から入ってくる。


『僕たち竜はね、割とこういう魔法とか呪いとかに耐性があるから、これは僕たちのうろこで作った容器に入れている』


 布は髪を織って作った物で、紙に書かれた墨は血を混ぜたものらしい。それって、本来国宝級なんではなかろうか。目の前に映し出される水筒よりちょっと小さな入れ物は、実はとんでもないものだった。


『こうしていると、ほぼ無害だが、最初見せられた時は兄と同じ気持ち悪さを感じだよ』


 見た目からして、かなり気持ち悪い。同じ黒光りするのでも城の防衛のキラキラしい雰囲気はなく、どんよりとした気配に満ちている。


「憑りつかれたのか、積極的に取り入れたのかはわからないけれど、あれが原因の一つだってことは確かねぇ。で、どうやって手に入れたかが問題なのよ。あれ、(同族)の心臓のかけらなのよ。しかも、呪いで凝り固まってる」


「は?」


 一体、長兄はどこからそんな物騒なものを手に入れたのだろうか。


________________________________


「ねえ、条雅、どう思う?今日のこと色々」


 志賢が帰り、夕飯も湯あみも済んだ後に、そんな風に切り出した。丁寧に今は髪を乾かしてもらっている。椿油を塗りながら、温風の出る櫛で髪をとかしてくれる。そんなものを知らなかった私は素直に驚いた。……条雅の女子力はすごいと思う。


「本当のことかなぁ。かなり無茶苦茶な話だもの」


 次兄の話は本当にびっくりした。あの長兄の話を聞いてしまったら、帰る気がしなくて今日も後宮のこの部屋にとどまることにした。母から呼び出しがなければしばらくはここにいるつもりだ。ジョルトもいるし、却って安全な気がする。

 

「不器用だけれど、慶節様は裏表のあまりない方だ。それで陛下と仲が悪かったくらいだからな。お前を陥れようというつもりはないだろう。何より昔から、こっそりお前のことは気にしてくださっていた。だから、真実とみたほうがいい」


 それに、竜が出てきた以上、ただじゃすまないと思うぞ、と条雅が言う。竜である志賢が出てきた以上、嘘ではなくそのあたりがかかわっているのだろう、と。

 

 普通、竜はその体が悪用されないよう、死んだときには塵にするらしい。死が近づいたときに自らそういう術を掛けると、志賢が言っていた。そうでない場合はそうできない状況にあったはずだといった。


「何だかさ、魔法とか呪術って言うのは私から遠いものだと思ってたよ」


「それは違うな。叔父上が遠ざけていたんだ。お前は加護の力はあるが、自ら閊えるほどのものはないからな」


 厳しいと思っていた父だが、ここにきて、どうやらかなり溺愛されていたことを知った。丁寧に大事に育てられていたらしい。おかげで私は王族としてではなく一般人としてならば、多分どこでも生きていけるだろう。山の中でも草原の中でも大丈夫だ。


「離れて見えるものってあるんだね」


「そうだな。年齢的にもちょうどよかったんだろう」


 ここに来なければ学士院への受験をする頃だった。遅かれ早かれ親元を離れる時期ではあったのだ。


「さて、これからお前がしなくてはならないことが大分絞り込めたな」


「え、絞り込めたの?」


 今日の一件で絞り込める要素はどこにあったのだろうか。いろんな出来事はあったけれど、そこまで決定打はあったのだろうか。


 すると、いきなり頭を櫛でぺしりとひっぱたかれた。結構いたい。


「ド阿呆!少なくとも至虹様を倒したのは慶節様だとわかっただろうが。対外的にはもう、慶節様は亡くなられているんだ。犯人捜しはする必要はないだろう。むしろ、なぜ至虹様がそうなったのかとあの部屋を探る必要はあるだろうがな」


「ま、まあ確かに。背後関係を探る必要はあるし、慶節兄上のことばらさないで話さなきゃなんないけど」


 公式には慶節兄上が亡くなっているという設定上、彼の存在をばらすのは得策ではない。しかも、志賢の言葉を信じるならばすでに人ではないのだから王室に戻すことはできない。


「それと、お前は婿を三人も選ばなくて済むってことだ。ジョルト様と志賢殿はほぼ確定していい。というか、確定したほうがお前の身のためだ。つまり、あと一人選べばいいってことだろう」


「おお!私のやることが結構はっきりしてきた!」


 だから、さっきからそう言っているんだよ、と脱力された。条雅はもう少しゆっくり生きたほうがいいと思うんだ。


 

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